諦めない
「クエ!!」
騒がしいさえずりと轟音で目が覚める。あたりを見渡せば瓦礫のやまが形成されている。敵の姿はない。おそらくこの岩の下だろう。なんか爆発したみたいな岩の割れ方だな。
もしかしてプロードが落石した岩をどかしてくれたのかな?さすがだね。
「ありがと。」
「クェ!」
「痛…」
立ち上がろうとした途端足に激痛が走る。みてみれば足の先のほうがつぶされていて足があらぬ方向に曲がっていた。おそらくさっきのタイミングでけがをしたのだろう。…重症だが命があるだけましだと思うことにしよう。
ひとまず痛みに耐えながら足をもとの方向へと直しておく。こうしておけば一週間もしないうちに傷は治るだろう。安静にしていればという枕詞がつくけどね。
まぁ片足が死んでいてもなんとかなるはず。機動力はだいぶなくなったけど痛みさえ我慢すればまだ動けるかな…
「…プロードミーニャはどうなった?」
「クェ…」
わかんないよね。そりゃそうだ。
奈落の底を覗く。底の見えない深淵はどこまでも続いていて見ているだけで恐怖感がこみあげてくる。でもここに落ちたなら私はここを進まなきゃいけない。
「とりあえず降りてみよう。きっと生きてる。」
魔力で足場を螺旋階段の容量で作り穴の底へと降りていく。
やっぱりこの技術チートだよね。魔力さえあれば足場、武器、盾、なんにでもなれる。これがなかったら何度か死んでたよね…異世界様様だよほんと。
それにしてもなにも…?
ん?いまなんか見えたな。
「これは…糸?何かが燃えたみたい。」
よく見ると透明な細い糸があたりに散乱している。きになってさらに探索してみれば焦げカスのようなものが壁に張り付いているのを発見した。状況をみるにおそらく糸を誰かが燃やしたのだろう。
誰が?何のために? 多分燃やしたのはミーニャだ。
もしかして糸かなにかに引っかかったのかな?それで抜け出すために糸を燃やした…あろえる。それならきっと生きてるはずだ。きっと大丈夫。
自分にそう言い聞かせ地下へと進んでいく。だいたい10mは進んだだろうか?空を書いていた靴が水にぬれる。降りようとしている地面をよく見たら水面になっている。地底湖みたいなものだろうか?
ひとまず水面を歩きながら陸地を探す。
この地面若干湿ってるな。ここも、ここもだ!水に落ちたあとにここにたどり着いたんだ!ちゃんと…生きてる。
「よかったぁ…本当に…」
うれしさと安堵で涙がこみあげてくる。でも今は泣いてなんかいられない。
「合流しなきゃ。きっと心配かけてる。」
こぼれた液体を両手で拭い気持ちを切り替える。先に進まないと。
この、この…ここ何階層だろう?二階層ってことはないだろうしどこなんだろう…奈落を使ってショートカットとかいうグリッチできてるからわからんや。ただあのバカ長い螺旋階段のことを考えると三層か四層だろうなー。それにしてもこの階層光源がなくて完全な暗闇なんだよなぁ。
こういうときに暗視があるの本当便利だね。吸血鬼様様。
うわ、この先分かれ道じゃん。ミーニャどっち行ったかな?
「シュルルル…」
何か聞こえるな。なんだろあれ。
蛇の魔物?
分かれ道の左側から蛇のような魔物がこちらに向かってきていた。そんな姿を眺めていたらふと蜷局を巻き始めた。
次の瞬間蛇がまるで銃弾のようにこちらへ飛んできた。
蛇の割には意外と早いな。でも目で追えないほどじゃない!
飛んでくる蛇をナイフでそらし回避する。ナイフを軽く当てただけじゃ大したダメージにならないようだ。傷一つつかない様子で体をとぐろのようにまき再度こちらにとびかかってくる。
またその動き…なるほどね。蛇のくせになんでこんなに素早く動けるのかと思ったら…体全体をバネ状にしてるわけね。
まぁそれなら弱点は簡単だね。勢いよくとびかかった蛇が空中で突然うねる。まるで壁に当たったように滑り落ちていくその光景はとてもっ滑稽だ。
「その飛び方なら空中で軌道は変えられないよね!」
やったのは単純。飛んできた方向に魔力壁を置いただけ。それだけであの蛇は止まることができず自滅する。簡単だねー。
勢いよく飛び込んだ衝撃で動けないのか地面に横たわってる蛇に魔法を放つ。
『経験値が一定に達しました。個体名小夜のレベルが18から19になりました。』
お、久しぶりのレベルアップ。マジで最近上がらないなぁ…。素材は牙かぁ。まぁ捨てておこう。とりあえず先へ進もう。
てっそうか、どっちに進めばいいんだかわからないんだった。
んーどしよ、足跡とかあったら楽だったんだけどなぁ…なんかないかな?ん。…ん?なんかあるな。
「これは…血痕?」
足跡とは違うが分かれ道の左側の地面に赤い何かがたれていた。完全に乾ききっておらずまだ新しい、それによく見たら灰と牙が落ちてる…
この牙さっきと同じやつだな。ってことはこの蛇と戦って左のほうに進んだに違いない!よし進むぞ!
そう思った直後取ってつもない轟音と振動、魔力反応が私を襲った。まるで何かたくさんのが暴れているような、そのような感覚が目のまえの道から…いや?隣の道から伝わってくる。
「いったい何が…はぁ!?」
何があるのかと振り向き唖然となる。目の前に見えた光景はまさしく地獄であった。鹿、狼、蛇、熊?何か分からないが大量の見たことがないような魔物が一斉にこちらに向けてかけてくるのだ。戦う…勝てる?、無理に決まってる!さすがに相手の数が多すぎる逃げないと!
まて、逃げてどうする?この先何かがあるかわからない。ミーニャがいてもけがをしてるかもしれない。そんなところにこいつらを引き連れていったら?ダメに決まってる。逃げちゃダメなんだ。
「戦わなきゃ。私が、戦わなきゃ!『霊装』!」
蒼き光が周囲を囲う。純白の髪に青色が追加されていく。浅き青の大海は魔物の群れと激突する。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
最後の魔物にナイフを突き刺す。あれだけいた魔物はすべて灰に帰し虚空へと消えていった。
ただこちらも限界だ。前身が悲鳴を上げている。魔力は1割を下回っている。霊装も維持できおていなければもう足の傷で戦闘はしばらくできないろう。
でも後悔はしていない。
ここで逃げたらきっと後悔していたはずだ。ただ単に光を見続け現実から逃げ、その先にはきっと何も残らなかった。私の物語は柊小夜の物語はそうであっていけないのだ。
そうつらい体で気張っているとふと体が楽になった。自分の体を見渡せば暖かな光が発生していた。
「クェ!」
なにやら頭上でどや顔をしている鳥がいた。口元には何やら瓶を加えていて中身は無いようだ。
「もしかしてそれ…ポーション?」
「クぇ」
どうやらプロードが回復薬をかけてくれたらしい。…ありがたい。これならもう少し動いていられる。
「先を急ごう。」
そこからしばらく進んだ先、大きな空間ヘとたどり着いた。先程までとは違いあたり一面が水晶でできておりとても幻想的だ。
そんな部屋の中央に一つの人影が立っていた。
いた!ミーニャだ。でも戦ってる様子はない。戦闘後?
ここに来る途中大きな魔力反応や音が聞こえたから戦闘中かと思っていたが…どうやら無事に終わったらしい。
「おーい!ミーニャ!?」
瞬きをしたその瞬間、大きな魔力を感じた。目を開ければ、ミーニャの後ろに結晶で出来た狼が佇んでいた。だがそれにミーニャは気づいていないようだ。呑気にこちらに手を降っている。明らかに異常だ。
「ミーニャ!後ろ!」
叫んでみるがよく聞こえていないのか伝わっていないようだ。焦燥感に駆られ前へ走るが遅かった。
私が見たのは結晶の爪に体を貫かれる姿であった。
「ミーニャ!」
ミーニャのもとに急いで駆け出す。あのへんな狼に刺された傷を治さないと!そう近寄り確認してみれば状態はひどいものだった。
さっきの攻撃だろう。腹には大きな穴が開き一部の内臓が露出しており、そこから大量の血液が流れ落ちている。これはもう…いやあきらめない!ここはファンタジーまだ救えるはずだ!
ひとまず回復を…殺気!
後ろから感じたその感覚を頼りに体を横にずらす。腹の近くを何か鋭いものが切り裂いた。
「ガウ!」
「邪魔しないで!」
目に写った私を襲う気なのだろう。瞬発敵に襲ってきた爪を避け魔法を叩き込む。高威力の魔法を打たれたことにより怯えたのだろうか?少しだか私と距離を取り始めた。
その一瞬を見逃さない。
間合いがあいた空間にありったけの魔法を発動する。発動する魔法は水霊魔法「水壁」。氷のように固まった水が魔物と私たちの空間に壁を作る。こうしておけばしばらくは邪魔が入らないはずだ。
「待ってて今回復薬を、プロード!」
プロードには申し訳ないが必要だ。空間収納から無理やりポーションを取り出し、傷口にかけつつ摂取させる。だが何も起こらない。回復するときの暖かな光もなければ傷が治る様子もない。回復薬じゃだめ?とりあえず血を止めなきゃ!
血液操作で漏れ出していた血を蓋にして出血を抑える。…だいぶ血がぬけてる。血液も何とかしないと…
ふさいだ傷口に何度も回復薬をかける。そうやって何度もかけつづけ、最後の瓶が空になった。
状況は全く変化していない。それどころか顔色もだんだん悪くなって来ている。もう回復させてあげる手段も尽きた。
また助けられない?今度こそ本当に…
嫌だ。認めたくない。失いたくない。大事な時に大事なものを守れない自分でいたくない。まだなにか、まだ、きっと!。
「そうだ…まだある。まだ助けられる…」
吸血鬼は血を摂取すればだいたいの傷を癒すことができる。私が腕をなくしたあの時だって血さえあれば生えてきたはずだ。それを生かせばこの傷だって治せる。やるしかない。私の血液をかけてミーニャを救う。
「絶対助けるからね。」
ミーニャの細い首筋に自分の牙を突き立てる。やったことも無い。やり方も判らないその行為を。他者に血を分け与え眷属にするその行為を。本能のままに行う。
「さ、よ?何…を…」
ミーニャが問いかけてきているが無視だ。突き立てた牙を食い込ませ肌に穴を開ける。
血管に傷がついたのか血液が舌に触れる。生臭いだけの筈のその液体がとても美味しく感じる。このまま吸い尽くしてしまいたいほどに。
それを無視し私の血を与える。
不思議な感覚だ。自分の意思で行っている筈なのにどうやって出来ているのか全く判らない。でもこれで正しいとそう感じる。
「にゃぁ…やっ…」
痛いのかわからないがミーニャが身じろぎし、声を上げる。牙が肌から離されたらいけない。上に覆いかぶさるように体制を変えミーニャの体を固定する。
どのくら時間がかかったのだろうか?…意識が薄れていく。ミーニャから流れていた苦痛とも言える甘い声もほとんど聞こえない。だけどこれだけ変わらない。
絶対に助ける。その意思だけを考えた血を与え続ける。意識が薄れ消えるその瞬間まで。
必ず.....助け....る.....
『条件を満たしました。個体名:ミーニャの眷属化を完了しました。』
『条件を満たしました。スキル.....




