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じゃあね、少年

 鍵がされた部屋から出られるようになっても、僕はミュンヘンに会いに行かなかった。それには理由があって、季節はぐるっと一周くらいしてしまったかもしれない。

 ついにミュンヘンに会いに行こうと決めた日。同級生との勉強会を今日は断ってから、意気揚々と家を出ていく。

 一旦整備された林がとても歩きやすくて、草原もすねぐらいの長さに葉っぱが刈られている。ミュンヘンの小屋もすぐに見つかった。

「おーい! いるー?」

 扉は開いているから中に呼びかけてみる。するとひょこっと懐かしい鳥類が顔を出す。

「ヴィレインワーゲン!!」

 そのペンギンの難しい名前を覚えていたなんて僕はすごい。相手も僕を覚えていてくれたみたいで、テトテトと軽快に近づいてきては僕の手のひらをクチバシでこじ開けた。

「あっ、待って待って……じゃーん!」

 背中の後ろに隠し持っていたんだ。ペンギンが気に入るかは分からないけど、小魚をオイル漬けにした缶詰だよ。でもヴィレインワーゲンは早くよこせって目で言っている。

 さっそく缶を開けて中身を渡してみた。

「美味しい? ちょっと薄味じゃない?」

 夢中で食べている。たぶん美味しいんじゃないかな。

 そういえばミュンヘンと合図にしていた朽木が無くなっていた。彼女が小屋にいる時は空き缶を掛けておくことにしていたのに。

 すぐ横の小屋は取り壊されなかったんだ……。不思議だなと思いながら僕は屋内へと足を踏み入れる。

「ミュンヘン、いるの?」

 彼女はいた。でも「よいしょ」と言っていた。ちょうどリュックを背負った瞬間だった。

「あれ。君、来たんだ」

「来たんだ、じゃないよ。どうなってるの? これ」

 一年越しに出会ったミュンヘンは黒髪が伸びるんじゃなく、むしろもっと短くなっている。それも不思議だったけど、小屋の中が片付いていたことが大きい。画材道具が一切無いただのボロ小屋に戻っている。

「どこかに行くの?」

「うん。そうすることにした」

 僕に相談もなしに。

「家出?」

「ううん」

「オークション?」

「ううん」

 そう答えるばっかりで自分から話してくれなかった。僕はミュンヘンに何か事情がある気がして聞けないのもあった。

「そっか。気をつけてね」

 なんとなくもうミュンヘンには会えないのかな、とさえ感じてしまう。別れの言葉は何を伝えようか迷っていると、僕の頭の上に手の平が乗って鷲掴みにされた。

「しょぼくれるなよ、少年」

 僕はその手を振り払う。

「少年って! 僕ときっとそんなに歳が違わないよ!」

 いひひと笑うミュンヘン。意地悪な顔をすると歳下に見えるけど、やっぱりどこか僕よりも歳上のような気がする。

「あっ、そうだ」

 今日ミュンヘンに会って言いたかったことを忘れるところだった。

「僕、初めて物語を書いたんだ。売れるかどうかは分からないけど、そのお金で往復切符のお金を返すよ」

 そして、ずっとお守りにしていた片道分残った切符をミュンヘンに見せる。

 彼女は驚いた顔をしていた。それは僕がいつまでも古い切符を捨てないでいたことに対してじゃなかった。何故なら、ミュンヘンの方も筆箱から同じものを取り出していた。

「すごく希少なものだよ?」

 取り出したらすぐにそんなことを言った。

「……え?」

「だから。この世に二つしかないお宝ってこと。私が超有名な画家になったら、この切符はうんと価値が跳ね上がるから。君はすごい大金を私に返さなくちゃならなくなるけど、大丈夫?」

 大丈夫かと聞かれたら急に不安になってきた。

「だい……じょうぶ」

「本当に?」

 黒い瞳に覗かれて胸がドキンドキンと鳴る。このドキドキは女の子と近付いたから鳴るものじゃなくって、僕がこれからミュンヘンみたいに強く生きていけるかというドキドキだ。

「うん。大丈夫。僕の方が有名になれるもん」

 強気なことを言った。でも気持ちはすっごく軽かった。

「へえー。あまり期待しないでおくね」

「なんでだよ!」

 もっと言い返したいところだったけど「さてと」に遮られる。ミュンヘンはそろそろ出発してしまうみたい。

 小屋を出るまで一緒に着いて行き、晴れ渡った青空が僕らを見下ろしていた。ミュンヘンは扉のところで振り返って頭を下げている。小屋に感謝でもしているのかな。

「じゃあね、少年」

「うん。またね、ミュンヘン」

 軽々片手を上げながら彼女は草原を歩いて行った。また会えたら良いなと思いながら僕は見守った。

 するとガサガサと音がする。茂みの中からヴィレインワーゲンが飛び出した。突然眩しいところに出てきてビックリしているのか、目を細めて背伸びをしている。

「君は僕と留守番だね」

 つるっとした背中を撫でようと手を伸ばしたら、ヴィレインワーゲンは僕の手が届く前に走り出し、足をバタつかせながらミュンヘンを追いかけて行った。

「おーい! ミュンヘンー! ヴィレインワーゲンが着いていくってー!」

 一応叫んでみたけど彼女は振り返らなかった。まあいいやと僕は切り替えて、家の方へと帰っていく。

 きっとまた二人には会える。


(((これにて完結です!!

(((最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!


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