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汽車に乗って

 林の中の散策ではなさそう。草原をするすると歩いて行ったら足元はレンガの小道にいつの間にか乗り上げている。その先には薔薇のゲートがあって僕は聞いた。

「ここって誰かの山なの?」

 入り口っぽいところを僕とミュンヘンは抜けて出る。そうすると田舎の住宅街が広がっていた。

 ミュンヘンは「知らない」って答えた。彼女の家の庭だったってことでも無いみたいだ。

「ヴィレインワーゲンはミュンヘンのペット?」

「良いから急いで! 乗り遅れちゃう」

 僕はずっとずっと気になっていたことがようやく口に出せたのに。ミュンヘンの背中に追いつくために走らなくちゃならなかった。それも重たいキャンバスを担ぎながら。

「どこに行くの!?」

 子供が二人で大荷物を抱えながら街を走っている。馬車に乗った兵隊さんの横もすり抜けた。怪しむ顔で僕と目が合ったから、怖くて僕は走るのに集中することにした。

 手旗信号の交差点で、僕はまさかと思ってミュンヘンの名前を呼ぶ。ここでは「何?」と、振り返ってくれた。蹄や車輪の音に掻き消されないように……だけど周りの人に聞こえないように声を調整して聞く。

「まさかこの絵って、盗んできたものじゃないよね?」

 ミュンヘンは運んでいるものを自分の靴の上に乗せてから片手を離し、それからの頭を軽く引っ叩く。兵隊さんが指示する信号が変わった。

「映画の見過ぎ」

 よいしょとキャンバスを持ち上げてまた走り出す。

 この先の看板を見るよりも、僕はこの辺りなら知っていた。父様と一緒に「歩いて行こう」と辿った道だ。そして新しい家までの道のりは駅から始まっていた。つまり僕らは汽車に乗ってどこかに行くのかもしれない。

 暗くなる前に帰ると義母さんに言ったけど、もう太陽は傾きかけていた。今の時点でもきっと遅過ぎると怒られるだろうな。

「でも。きっと探してもないよね……」

「何かまだ質問がある?」

「う、ううん。何もないよ」

 変な質問をしたらまた引っ叩かれてしまう。


 お金を持っていない僕は往復券を買ってもらった。明日にでもお金を返すと言ったら、四倍の金額じゃないと受け取らないって言われたから黙っている。

 ガタゴトと倒れそうなほど揺れる汽車だ。なのに乗客は慣れていて上手く転ばないでいる。僕は不慣れで、さっき座席を譲ってもらった。

「大荷物を持ってどこに行くの」とおばさんに聞かれたから、そっとミュンヘンの服を握っていた。

「母への贈り物なの」

 ミュンヘンは困らずに爽やかにそう言っている。これにおばあさんは感心したみたい。僕のことも弟だと思い込んでいたから、ついでに褒めてチョコレートを貰っちゃった。

 おばさんが駅で降りても、僕たちはまだまだ遠くへ行くみたいだ。

 汽車は駅に到着するごとに人を下ろしていったけど、ある駅からどっと人が増えて、ぎゅうぎゅう詰めになっている。

 時間はきっともう夕食時。そろそろ父様の仕事も終わる時間なのかな。偶然同じ汽車の中に乗っていたらどうしよう。不安が僕の鼓動を急かしていた。

「食べないの?」

 ふとミュンヘンが聞いてきた。僕の真隣からだ。そっちもそっちでドキドキと胸が痛い。汽車が速度の加減に横着して、駅に着くたび急停車。僕の肩はミュンヘンの暖かい腕に図らずも密着していた。

「ねえ、溶けちゃうけど。食べないの?」

「あっ、チョコレート。食べる?」

「嫌いだから?」

「ううん……」

 軋む車両の音で掻き消されているけど、僕のお腹の音は絶えず鳴っていた。それにチョコレートは大好き。あんまり食べたことがないけど。

「やっぱり嫌い。だから食べていいよ」

「そうだったんだ。じゃあ貰うね」

 小粒のチョコレートはずっと僕が握っていたから溶けていた。上紙を剥がすまでは出来るけど、銀紙から四角い中身を取り出すのは難しい。ミュンヘンは銀紙を少し千切って中身を吸い取ることにしたみたい。

 甘い香りに僕のお腹がぐうと鳴る。同時に近くのおじさんの咳が被さった。ミュンヘンはご機嫌に平らげてから「お腹すいたな~」と笑っている。



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