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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

小噺:ちっぽけな涙

作者: くうき
掲載日:2023/02/19

さようならを告げる声って唐突に訪れるから涙が止まらなくなる。でも、その雨が地に染み込んで固まっていくごとに幸せは重なっていく。

 たった一人だけの姉が今日、結婚します。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 うちの一家は貧乏でありながら貴族の家柄でした。父も母もとても勤勉で領民の心を慈しみ、自分たちはどうなってもいいくらいには内政に力を入れていました。

 しかし、姉が7歳、僕が4歳の時に父と母は王都からの帰りの際事故によって命を失いました。

邸宅に帰って来た父と母の遺髪を見て僕は、涙を流していた。姉にしがみつきながら、何かに縋るように泣いていました。


 でも、姉は涙を流すことなく受け入れてくれた。でも、その時の顔は忘れることができなかった。

涙を堪えて、必死に笑顔を創っていく過程見てしまったときには、自分の中でいろんなものが混ざり合って…


「もう、分かんないや…分かんないよ…返してよ…お父様と、お母様を返し…て、よ。」

「…」


 言葉すら出すことができなかった。紡ぐことさえもできなかった。姉の言葉は声だけ聴けば、無機質になっていく。小さかった僕は、とんでもない業を姉に背負わせてしまった。

 そう、思っていくたびに自分はどう姉に接していくべきなのかが分からなくなっていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 父と母が死んで12年の月日が流れた。僕は成人を迎えて正式な子爵位を頂きました。一方の姉は、一人部屋の中で籠りっきりの日常を淡々と過ごしていました。

 

「あの時の…あの時間が…あの出来事が…あの言葉が…あの涙が。」


 たった一人で執務室の中で嘆いては、拳から血が滲むくらいに握り締めたその瞬間、執事が慌てて執務室の中に入って告げ口を一つ交わした


~姉が飛び降りたと~


 言葉を聞いたとき、何もかもが真っ白く真黒く巡り巡った。思わず体が動いた。黒くよどんだものに巻き付かれようが何だろうが過去の因果にとらわれていようが前へ進んだ。


 そして、姉が飛び降りた場所には血は一滴も出ておらず、傷は多少あったけどなすべて消える傷を何十個も付けていた。

 でも、姉は泣くことはなかった。その時と同時に盗賊が現れた。しかも、そこにあったのは父と母が愛用していた剣と杖だった。

そいつらは、憎たらしい笑みを浮かべながら僕と姉のことをめがけて剣と杖を振り下げる。しかし、その刃もその杖先も届くことはなかった。


 二つの悪意は、白髪の華奢な男が指二本で挟んで見事止めた。その盗賊たちはそのまま振り回されるまま体を一回転、二回転と傷を何度も何度も付けていく。

 そして、盗賊たちも息が絶えかけた時、白髪の男は冷たい瞳を揺らしながら一言だけ呟いた。


ー「死を持って償え」とー


 それから、4日が経過し白髪の男と姉と、話すことができた。なんと彼は王族の血筋だった。彼と話していくうちに僕は、姉のことをポロっと話してしまった。自分が被害者のように語ってしまった。何処までも自分が愚か者で愚鈍だった。

 それでも、白髪の男は首を縦に振るだけ言葉を受け止めていた。そして、僕がおろかに掃き切った言葉に対して長く返した。


「君は、甘え方を知って生まれた。でも、お姉さんはそうはいかず、自らの命を絶ちたいと思ってしまった。………でもね、君のお姉さんは凄いよ。突然、柱であり尊敬していたお父さんとお母さんを失って、一人奮ってきたんだよ。それを君が無下して、被害者面をして、君のお姉さんは救われるのかい?」


 答えは長かった。でも、分かり切っていることだった。なのに、向き合うのが怖かった。姉さんは前を向き続けているのに。現実に立ち向かおうとしてるのに。


「時に、子爵殿。姉君の部屋はどちらへ?」


 葛藤している最中、白髪の男が訪ねた言葉。それに意味を成す理由が分からず僕はそのまま姉の部屋を彼に教えた。


 何刻か過ぎて、姉が扉を開けて僕のもとに駆け寄ってよろけた。その時、声をかけようとしたら…姉は涙を流して小さく言葉を出していく。そこには、昔のような姉さんが泣きじゃくっていた。

 僕は、姉さんの言葉に返して、誤って…失ったものも失った時間を取り戻すように抱きしめ返して涙を流し続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから、3年が経った。僕、もといコーデル=キュアリルはたった一人の姉の結婚を見届けに来た。


 相手は、白髪の男…基、グリケット=ホーデンス。姉さんことミラリス=キュアリルとは同い年だ。


 そして、ホーデンス様は王族で次期国王でもあることから、僕は侯爵へ昇爵して公爵令嬢を嫁にもらうことになるのは少し後の話。


「姉さん。…おめでとう。」

「コーデル。ありがと。今、とっても幸せよ。」

「そっか。」


 小さくだけど言葉を交わしているとホーデンス様もとい義兄上がやってきた。


「やぁ、義弟くん。」

「久しぶりです義兄さん。姉さんのこと頼みますね。」

「…あぁ、必ず幸せにするよ。」


 少ない口数をこちらとも交わしてその場を後にした。王宮の廊下を歩いていると、僕の頬に冷たいような熱いような雨が降っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それが、お父様の涙を拭いたことから始まったのよ。」

「へぇ~。中々面白い恋愛したんだね。2人とも。でもさ、鈍すぎるよね、お父様もお母様も」

「「うぐっ…」」

「でも、2人らしいしいいんじゃない?それとお父さん。」


 ー幸せを掴めてよかったね。ー


 そう遠くない未来の家族の話。今も小さく幸せは手に残っている。




お読みくださりありがとうございました。



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