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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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最終回『あなたのことが大好き』

 王子様選抜試験から一年が過ぎた。フルルの武具店は全国から武具を求める人間が集まり、客足の途絶えない人気店となっている。あの少女たちは忙しい毎日を送っているようだ。フルルたちは、きっと幸せに暮らしているだろう。私は久しぶりにプリムヴェールの地へ足を踏み入れた。あの店に寄ってみよう、その決意を胸に。花の香りに満ちた美しい町並み。エメラルドグリーンの石畳が続く大通りの一角にその店はあった。武具屋フルミル。店名が変わっていた。少女たちが三人の名前を合わせてつけたのだろうか。店の回りは相変わらず花で埋め尽くされている。なんの店か分かりにくいったらありゃしない。私は苦笑し、営業準備中と書かれたプレートのかかったドアを開く。


「いらっしゃいませ、お客様」


 カウンターに立っていた少女が柔らかい笑顔で迎えてくれた。庶民的なワンピースとエプロンを着ているが間違いない、この少女は第一王女のミルドレッド。


「営業時間は三十分後です。……おや? あなたは」


 私は彼女に頭を下げ、フルルの所在を尋ねる。


「フルルはルミセラと散歩に行きました」


 そう言い終えると同時に彼女の右腕から炎が上がる。


「お気になさらないでくださいね。遠隔視の魔法です」


 炎をまとう水晶玉。クロエの夜水晶の魔法にそっくりだ。


「あ。もうすぐ、お店に戻ってきましてよ」


 ミルドレッドがそう言い終えると同時にドアベルが鳴った。




 早朝のプリムヴェールの街は爽やかな朝日とのどかな雰囲気に溢れていた。

 ぴよぴよと鳴く鳥さんたちの可愛い声。街中、至るところで栽培されている花々。私は、この平和な街が本当に好き。ルミセラと手を繋ぎ、私は温かい街を歩く。


「フルフル~。な、なんで手を繋いでるのかな」

「えへへ」

「急に笑顔の花を咲かされても。質問に答えてよ~」

「内緒っ。ねえ、ルミセラ。ちょっと話して行かない?」


 私は通りに面した街路樹の横にあるベンチに腰掛け、ルミセラの手を引く。


「わ、分かったよ、私も座るって」


 私の横に腰掛け、ルミセラは新しいチュパパキャンディを口に咥えた。


「今日はね、私とルミセラが出会ってから、丁度一周年なの」

「へえ、早いもんだねえ。懐かしき試練の森。トリニタリアたち、元気でやってるかな」

「私たちのお店で働きたいらしいから今度、面接受けに来るらしいよ」

「トリニタリアが? あいつ採用したら、絶対に売上持って逃げるって」

「そ、そ、そ、そんなことないんじゃないかな。意外と良い人だよ……」


 どうしよう。今日、二人きりになれたら色々話そうと思ってたのに。なにを言っていいのか分からなくなってきちゃった。一年越しの想い。とても大好きだったこと。今でも大好きなこと。いざ言葉にしようと思うと、なにも出てこない。

 ルミセラと目が合い、私の頬は熱くなってきてしまった。


「真っ赤だよ、フルフル」

「ルミセラが……!!」

「わっ!?」

「オークに襲われた時も! 滝壺で溺れた時も! オーガに襲われた時も! バジリスクに襲われた時も! グリセルダさんと戦ってた時だって!」


 あなたのことが大好き。そう伝えたい。伝えたいのに。恥ずかしくて言えない。


「あなたが守ってくれたから、私は笑顔でいられるの。色んな人と出会えて、色んな経験をして、乗り越えられて。あなたがいてくれたから、私はいっぱい頑張れた……」

 ルミセラは珍しく茶々を入れずに黙って私の長い話を聴いてくれている。


「うまく言えない。武具の説明なら、言葉が溢れてくるのに……」


 なんだか胸が苦しくて涙が零れ始める。大好きだって一言、伝えたいだけなのに。


「その笑顔を守りたかったんだよ」


 彼女は溢れる涙を指で優しく拭ってくれた。


「ありがとう。でも……」

「でも?」

「私はルミセラのこと、守れてない……」

「分かってないなぁ、フルフルは」


 彼女は私の頬を突っつき、頬を寄せてくる。


「フルフルの笑顔はいつだって私を守ってくれてるんだよ」

「な、なにそれぇ」

「その笑顔に何度救われたか分かんない」

「う、うぅ、どういうことぉ?」

「あんたの笑顔のおかげで人間も捨てたものじゃないって思えた」


 よく分かんないけれど……褒められてる気がして照れてきちゃった。


「あうう……」

「色んな人間を変えてきたんだよ、あんたの笑顔」

「そ、そうなのかなぁ」

「フルフルのね、最強の魔法はエンチャントなんかじゃない」


 ルミセラは私の手を首に両手を回し、微笑む。


「笑顔だよ。笑顔の魔法」


 な、な、なに、なんなの……!? ドキドキしちゃ……あうあうあう!


「私にもフルフルの魔法がかかってるんだ」


 大好き。彼女はそう小さく呟き瞼を閉じた。


「私も大好き。大好きだよ、ルミセラ……」




「ただいま~! ミルドレッド、お留守番させちゃってごめんねっ」


 店の軽快なドアベルに負けないくらい元気良く挨拶をする。今日も幸せいっぱいです。


「フルル。あなたにお客様がお見えですわよ」

「ん? フルフルにお客? まだ開店してな――」


 片眉を上げて言葉を切ったルミセラの視線を追うとそこにはプラチナブロンドの少女が立っていた。カウンターを挟んでミルドレッドの前に立っている。少女はゆっくりとこちらを向き微笑んだ。


「あー!! 森でバジリスクから私を助けてくれた人だー!」


 驚愕の声を上げるルミセラ。きっとそれ以上に私は驚いている。


「そうでしたか。この人なら確かに炎水晶に引っかからず行動できてもおかしくありませんわね」


 ミルドレッドが微笑む。


「えっと、えっと」


 会うのは何年振りだろう。私は息をのむ。

 なんで私を置いて出て行っちゃったの。あなたに、ずっとそう聞きたかった。でも、そんなことどうでもいい。色んな気持ちや言葉がこみ上げてくる。でもでも、そんな言葉もどうでもいい。私は両手を広げ久しぶりに会う彼女の胸に飛びこんだ。ずっと待ってたよ。


「お帰りなさい、お母さん」


挿絵(By みてみん)

はじめまして、緑川と申します。フルルの冒険に最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。

プリンセスプリキュアと図南の翼、テンペストに多大な影響を受けて本作を描きました。キャラのデザインも影響でまくっています。2016年にかいて2017年に星空文庫に投稿した作品でした。


テンペストの王子様を女の子にしたら面白いかなと思いついたのが始まりでした。エアリアルがモデルのリコリスがやってきて、女の子のフルルが王女様と結婚するための試練を受ける。そうして冒険が始まります。水星の魔女と設定が似ていて嬉しくて、なろうに再掲載しました。せっかくなのでフルルの頬っぺたの塗りをスレッタさんに寄せたのは内緒です。


最終回ですので、ほぼ全キャラが登場しているイラストを用意しました。


中央が上からトリニタリア・セシーナ、剣の魔女フルル・フルリエ・トリュビエル、ルミセラ・シャントリエリ・クリームチャット。


右上から左に、

花の魔女フローラ・ローラ・トリュビエル

夜の魔女クロウエア・ステラ・クリームチャット

炎の魔女ミルドレッド・スパトディア・クリームチャット

水の魔女グリセルダ・メルマイディ・ウィステリア


右下から左に、

拳の魔女アネモネ・アメジスト

傘の魔女モミジ・アマガサ

黒の魔女アーテル・アルト

酸の魔女ザンテデスキア・カラーディ・クスクス


下の四人の魔女は続編に登場します。


最後になりますが、お読みくださったあなたの心に何かが残ったら、嬉しいです。

ごきげんよう。




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― 新着の感想 ―
[良い点]  曇るかなー、なんて思った時もあったけどハッピーエンドで良かった。 [気になる点]  次回作は何時頃になられますでしょうか?
[良い点] 完結おめでとうございます ハッピーエンドでよかった ミルドレッドも一緒にいてよかったです
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