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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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第四回『ライバル登場!? 試練の森で始まるサバイバル!』

 グリセルダさんが席に戻った直後に、この国の王女ミルドレッド・スパトディア・クリームチャットが、そのきらびやかな姿を現した。彼女はこの広場を一望できるような城の上部にあるバルコニーに立ち、笑顔で皆に手を振っている。彼女を見守る殆どの人々が熱狂の声を上げた。それにしても綺麗な人だなぁ。さすが王女様。真っ赤なドレスにプラチナブロンドの髪。その髪を左右に結び分けている。

 ――プラチナブロンド?

 私は隣に座ったアーテルさんに目を向ける。彼女は仮面から覗かせた口をへの字に曲げ、不機嫌そうな雰囲気を醸し出していた。


「……大丈夫?」


 また騒いで誰かを怒らせないよう、ささやいた私にアーテルさんは頷く。


「……グリセルダめ。なんのつもりで王子様候補生に……」

「え? もしかして知り合いなの?」

「……まあね」


 そう言ってアーテルさんは拗ねた子供のように頬を膨らませ口を尖らせる。凄い。仮面で顔の半分が隠れてるのに、口元だけで感情が手に取るように分かるよ、この人……。


「水の魔女がライバルなんて面倒くさいことになってきたじゃん……」

「あ、あの人が水の魔女グリセルダだったんだね」


 アーテルさんは頷き、新しいキャンディを咥えた。水の魔女。その名には覚えがある。この世界にたった八人しかいない魔女の称号を持つ強力な魔法士の一人。


「確か水の魔女は王宮に仕える魔法士で一番偉い人だったような……」


 小学生の頃に社会の授業で習った気がする。


「正確にはクリームチャット国軍の長官。女王に継ぐ権力者だよ、フルフル」

「え? なんでそんな偉い人が王子様候補生になって、私たちと一緒にいるの?」

「さあね。私が聞きたいよ。てっぺんになってみたかったんじゃないの?」

「うーん……」


 唸りながら私は左端の席に座るグリセルダさんへ視線を送る。彼女は優しげに微笑みながら、遠く城のバルコニーに立つ王女を見守っていた。

 お母さんの学生時代の友達。どんな目的で王子様候補生になったんだろう。

 そうこうしているうちにも王女様の挨拶が始まった。アーテルさんが黙ってしまったので、私もバルコニーを見上げ王女の話を聞くことにした。


「現女王は危篤状態にあり、王位を継ぐ者である私は国の習わしに従って王を得なければなりません」


 毅然とした態度で王女様は言葉を続けていた。魔法大国クリームチャットでは女王が頂点に立ち行政を取り仕切っていた。そして国を継ぐ条件として王様を迎える義務がある。簡単に言うと女王様になりたければ結婚相手をみつけてこいっ、そういう話だ。


「我が国の二十七地区から、お集まりいただいた王子様候補生の皆さん。私の王子様になるべく頑張ってくださいね」


 その言葉に王子様候補生の半分以上が、それぞれ任せろだの、俺が娶るだの、熱い反応を見せる。


「……あんな奴ら。ミルドレッドには相応しくない」


 アーテルさんの呟いた、その言葉が強く印象に残った。


「それでは皆さん。ご検討を祈ります。数分後の転送に備えてください」

「え? 転送って……。え? どこへ?」

「フルフル、ちゃんと巻物読んだの?」

「うん。ざっと」

「ざっとって。ちゃんと読んでおきなよ。開会式後の段取りが書いてあったでしょ?」

「ざっとだから読み零してたかも……?」


 私の言葉にアーテルさんは、これ以上ないかというくらいの呆れ顔になってしまった。


「だ、だって挿絵のない文章読むの苦手なんだもん……」

「いい? 時間がないから、よく聞いて」

「は、はい」

「これから私たちは試練の森の入り口付近へ転送されるの」

「嘘でしょぉ……!? それじゃもう試験開始なの!? 心の準備期間はー!?」

「開会式が終わったら転送されて、そのまま選抜試験開始って巻物に書いてあったのに~」

「う、うう……」

「椅子に座っている者と、その所持品を転送する魔法が仕掛けられてるから、リュックにしっかり手を伸ばしておきなよ。あんたのでしょ、そのデッカイの」


 私は頷き、慌ててリュックへ手を伸ばす。ここまで持ってきて置き忘れは困る。


「王子様候補生たちは、それぞれバラバラの場所に転送されて、各自、森の北にあるゴールを目指すことになるんだよ」

「み、道順が分かんないよ」

「巻物に便利なマップの魔法がかかってるから、絶対失くさないように」

「ちゃんと巻物読んでおけばよかったぁ……」


 後悔先に立たずである。


「それとあんた。お人好しそうだけど、他の候補生を見つけても簡単に気を許しちゃだめだよ」

「どうして?」

「過去の選抜試験で王子様候補生の中には他の候補生を蹴落としてでも上位を目指そうって奴らがいたからね」

「みんな仲間じゃないの?」

「下手したら全員敵だよ、フルフル」


 アーテルさんに返事を返そうとした瞬間だった。お互いの体が光を帯び始めたのは。

 ううん……王子様候補生、全員が光ってる。きっと転送が始まるんだ。


「フルフル。この試験は王子様候補生同士、信頼を固めて協力し合えるかどうかも鍵になってる」

「信頼……」

「うん。私たち、協力し合えると思わない?」

「思う。アーテルさんは信用してる」

「……嬉しいけど、そんな簡単に人を信用しちゃだめだってば」

「う、うんっ。気をつけるね」

「よろしい。現地に飛んだら、私を見つけて。私もあんたを探すから」


 王子様候補生たちを包む光がどんどん強くなっていく。


「いい? 試練の森はゴールのある北へ進めば進むほど危険になるの。気をつけて」

「アーテルさんも気をつけてね」

「それじゃ向こうで会おう、フルフル」

「うん! アーテルさん、色々親切にしてくれてありが――――」


 強い光に目が眩み、目を閉じる。そして再び瞳を開くと、そこは。


「うわわわ。森だ~! 森の中に飛んできちゃったぁ!」


 一面の緑。近くには小川が流れ、心地よいせせらぎの音が耳に届く。木漏れ日の光を反射した水面も美しい。綺麗な森の中に私はチュパパキャンディ片手に立っていた。


「わあっ、アネモネの花がいっぱい咲いてる!」


 小川はアネモネの花に囲われて、素晴らしい風景に彩っていた。


「いいなぁ、川ごと持ち帰ってお店で育てたいくらいだよ~」


 思わず花の観賞をしたくなってしまったが、そこはぐっとこらえて巻物を読み直そうと、しまってあるリュックに手を伸ばす。その時、背後から草を踏むような音が聞こえ、私は剣の柄に触れながら慌てて振り返る。


「誰!?」

「慌てないで。敵じゃないわよ」


 そこには魔物の類ではなく、先程の会場で見かけた王子様候補生の一人が立っていた。

 ……女の子だ。一見、少年のように見えるが声はあどけない少女そのものだった。彼女は黒髪を長めのボブカットに整え、額の上にはゴーグルを着けている。笑顔を浮かべて、如何にも優しそうな女の子だった。会場で見かけた時は男の子かと思っていた。


「大きな声が聞こえたから、誰かいるのかなって。驚かせちゃったかしら?」

「ううん。大丈夫。良かった、森で出会った最初の王子様候補生が女の子で」

「女同士、話しやすい感じはするわよね」

「うんっ。男の人と森の中で一対一って、なんだか少し緊張しちゃうし」

「あなた、純粋そうだもんねぇ。可愛らしい」

「えへへ。そうかな。ありがとう~」

「なに、その眩しい笑顔」


 少女は何故か眉をひそめて怖い顔をする。私の笑顔が気に障ってしまったのだろうか。


「ほ、褒められると笑顔の花が咲いちゃうの」

「ふーん。ところであなた、私が王子様候補生って覚えていたのね」


 よ、良かった。怖い顔から笑顔に戻ってくれて。


「うん。不思議な機械背負ってる人だなーって思ってた」

「それなら話が早いわ」


 彼女は大きなランドセルのような機械を背負っている。その機械から、まとっている鉄と革の鎧や剣へ管が伸びていた。どんな機能を持っているか分からない。様々な武具に精通している自信がある私にも、値踏みしかねる装備だった。


「背中のそれ。見たこともない機械」

「これ? 私の地区では当たり前の装備なんだけどね」


 触って調べて詳しく鑑定してもいいですかぁ!? と言いかけたが、さすがに初対面でそれは変人すぎるだろう。私は必死に武具屋魂を抑え、自重する。


「私はトリニタリア・セシーナ。あなたはフルルだっけ」

「え? どうして私の名前を知っているの?」

「開会式中に自己紹介してたでしょ」

「そっか。聞いてたんだね。確か席も近かったし」


 私の言葉に頷き、トリニタリアさんは綺麗なところね、と笑顔で呟いた。


「うんうん。アネモネが咲き渡ってる素敵な場所だよねっ。プリムヴェールでもこんな綺麗な場所滅多にないよっ」

「花の都の代表なのね。二十七地区で一番穏やかで平和な場所」

「知ってるの? 素敵なところだよっ」

「さぞ素敵でしょうね。あなたみたいな純粋培養のイイコが、たくさんいる地区」


 彼女の瞳に一瞬、暗い影が差した気がして、私は一歩後ずさった。


「高そうな良い剣ね」

「うん、とっても大切な剣なの」

「大切な剣なのね。ふふ」


 ……良かった。優しそうな笑顔に戻ってくれた。


「うんっ。トリニタリアさんは、どこの地区の代表なのかな?」

「ところで美味しそうな、キャンディ持ってるわね」

「え? これはチュパパキャ……」


 私は突然、腹部に強烈な苦しみを覚え、アネモネの絨毯へ膝をつく。アネモネは全草に毒があるため、膝がかぶれてしまいそうだ。

 なんてのんきに考えている場合でもない。


「トリニタ……リア……さ」


 内臓がかき回されたような苦痛。彼女が私の腹部に拳を叩き込んだのだ。トリニタリアさんは優しそうな笑みを崩さず、私を見下ろしている。その優しげな表情が逆に怖かった。


「私の生まれ育った地区じゃね、そのキャンディを手に入れるために人が人の命を奪うことだってあるのよ」


 お腹……苦しい……なんでこんなことを。そう言いたいのに声がでないよぉ……。


「私が、どこの代表なのか聞いたわね」


 トリニタリアさんは私の髪を掴み上げ、耳元に唇を寄せてきた。目には涙が浮かび、相手の姿がよく見えない。


「私はドンディエゴディアの代表」


 あれ……? 頭が痛……。なにかで殴られ…………目の前がぐにゃぐにゃ……。


「二十七地区で一番治安の悪い危険な場所よ」

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