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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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第三十七回『あなたなら最高の王様になれるわね』

 光に包まれた私は見たこともない噴水の前に立っていた。回りは城と城壁に囲まれている。綺麗な場所だった。無数の薔薇が至るところに咲いている。


「ねえ、リコリスさん、ここ素敵だねっ!」

「ここは城内にある中庭でございまいます」

「中庭! わぁ、綺麗! 咲き渡ってるぅ~!」


 噴水に向かう道には見事な薔薇のアーチ。私は思わず駆け出してしまう。

 色んな色の薔薇が咲いてるぅ! なんて素敵なんだろう!


「優しい日差しが差しこむ中庭の園! そして薔薇! 素敵だよね! お花大好き、だって気分が和やかに……うわわわ!」


 あまりにも気分が高揚してしまった私は慣れないハイヒールに足がもつれ、走りながらバランスを崩してしまった。あわや噴水に落ちるかと思われた時、私は誰かに抱きとめられ危機を免れた。その誰かは太陽を背にしており逆光で顔が見えない。


「あ、ありがとう。助かりましたぁ」

「綺麗なドレスが台無しになるところだったじゃない、イイコちゃん」

「え……?」

「ほら、自分の足で立って」


 この声。まさか。私はフラフラと尻もちをつく。


「フルル様。お元気そうで、なによりだ」


 別の女性の声。そちらへ顔を向けると彼女の白い鎧が太陽光を反射し目がくらむ。


「見違えたわよ。もうどこからどうみても王女様って感じね」

「フルル様は王女じゃないだろう。王子だ」


 私は色々な感情が溢れて、なにも言えなくなってしまった。


「フルル様、どこかお怪我をなされたか!?」

「再会に感激してくれちゃってるんじゃないの?」


 生きててくれたんだ。


「トリニタリアさん……」

「ご名答。私よ、イイコちゃん」

「マグノーリアさんも……」

「女神よ、お会いしたかったですぞ」

「う、うう……ああ……」


 笑顔で頭を撫でてくれた二人。たまらなく涙が溢れだしてしまった。


「あなたなら最高の王様になれるわね」

「忠誠を誓います。フルル様に仕えるなら本望だ」

「頑張る……頑張るよ、私……っ!!」


 私は二人を抱きしめ、涙をこらえることなく延々と泣き続けた。




「お、王子様候補生は全員無事ぃ……!?」

「そうなのよ。私とマグノーリアを含めて実は誰一人、死んでない」


 あっさりとそう言ったトリニタリアさんは涼しい顔をして噴水の縁に座っている。


「我々は、そこに浮かんでいる王宮妖精たちに救われました」

「ど、どういうことぉ!? 分かるように説明してもらってもいいかな……!?」


 リコリスさんに詰め寄ると額をぺちぺちと叩かれた。


「落ち着いてください」

「お、おでこはだめぇ……やめてっ」

「申し訳ありません。相変わらず叩きやすそうな額でしたので」

「う、うう……おでこは触られると、くすぐったくて弱いの」


 私は額を両手で隠しながら、頭上に浮かんでいる妖精を恐る恐る見上げる。前にも、こんなことがあったような。なにやら既視感を覚えた。


「それよりも、どうしてみんなが無事だったのか教えて欲しいよ……っ」





「というわけで採点のための監視は保護も兼ねていたわけです」


 生命の危機に晒された王子様候補生は王宮妖精たちの手により強制的に転送魔法で城へと送り帰らされていたらしい。


「ぽかーんと口を開いてどうされましたか、フルル様」

「そ、そんな安全策が取られてたなんて……」

「はい。大蛇の胃袋に入っていようが、水の檻に閉じこめられていようが我々の魔法はいつでも強引に転送が可能です」


 なんて優秀なんだろう、王宮妖精……。


「そんな風に転送された王子様候補生は、その後どうなったの?」

「待機していた我ら王宮妖精の回復魔法専門班による手厚い治療を受けて頂きました」

「回復魔法まで使えるのぉ……!?」

「我々の治療スタッフは心停止三分以内なら腕がもげていようが心臓が砕け散っていようがモノが残ってさえいれば蘇生させる自信があります」


 ……モノって。破片が残ってれば蘇生できるのかな。本当に優秀すぎる。


「そ、それより王子様候補生の命は守られてるって巻物に書いてあったのかな?」

「機密事項を書くわけないじゃないですか。命だけは守られると知ったら参加者の真剣さも危機感も失われて試験にならなくなりますからね」

「……そっか。だから巻物の説明文には『森の中』での生命反応を探知する魔法がかかっていると書かれてたんだね」


 赤文字は命を落とした者ではなく『森の外』へ転送された候補生の名前だったのだ。


「はい。これは王子様候補生選抜試験運営に関わった我ら王宮妖精、そして王族とグリセルダ様だけが承知していたルールです」

「王族? ルミセラも知っていたの?」

「ルミセラ様は試験運営に関わっておりません」


 彼女も巻物での確認をしていた時、深刻な表情を浮かべていた。王子様候補生が保護されているという事実は知らなかったのだろう。


「なんだぁ~。そうだったんだ」

「というわけで誰も命を落としていませんので安心して祝賀会をお楽しみください」


 って。そういうことは…………。


「早く言ってよぉぉぉぉぉ……!!」


 でも本当に良かった。みんな無事で。魔物たちの命はかえってこないかもしれないけれど、それなら救いはある。


「それじゃ私たちも祝賀会に参加させてもらいましょうか」


 私の肩を叩き、トリニタリアさんは微笑む。


「うんっ!! みんな生きてて良かったよう!」


 薔薇の香りに満ちた中庭で、私たちは微笑み合いお互いの生存を喜び合った。

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