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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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第三十五回『歓声と大きな責任! 王子様になったフルル!』

 錯乱した私をあやしながら、ミルドレッドはゆっくりと説明してくれた。その説明によると、どうやら王子様候補生選抜試験の様子は一部始終が記録として残されているらしい。王宮妖精たちの魔法には映像を記録として残し、後で視聴できる魔法があるのだと彼女は教えてくれた。そしてその映像記録の一部、主に魔物との戦いや、候補生同士の戦闘シーンを国民に公開していたという。どんな風に過去を見れるのだろうか。興味がある。


「全地区同時放映ですね。有名人ですよ、フルルは」

「水の魔女を倒して試験を首位突破だもんね。街中にフルフルのポスターが、いっぱい貼ってあるよ」

「はい……!? 私のポスター!? それも街中に!?」

「ですわー」

「で、ですわーじゃなないよ。な、なにそれ。目立たず平和に暮らしてきた私に降って湧いた一大椿事なんだけど……!」

「良かったね、フルフル~」

「だああ……!! 恥ずかしいから今すぐ全部回収してよぉー……!!」

「あ、時間でしたわね。私はこれにて失礼します」

「ま、待って……!」

「それでは一時間後に迎えをよこしますね。ごきげんよう」


 ミルドレッドは片手を上げると開いたままだった扉から、そそくさと出て行ってしまった。どこからともなく現れた王宮妖精が無情にも、ばたんと扉を閉める。


「み、ミルドレッドぉ……」

「お店の宣伝にもなるじゃん。……多分」

「そ、そうだといいけど」


 なんだか、とてつもなく恥ずかしい。私……これからどうなっちゃうんだろう。


「……でも、もうお店は関係ないか、フルフル」


 ルミセラは寂しそうな笑顔を浮かべ席を立つ。こんなに弱々しい表情、試練の森では目にしたことがない。


「フルフルは国王になるんだもんね」

「ルミセラ、私は……っ」

「お姉様と、お幸せにね」


 繋がれ。そう呟き、彼女は空間の裂け目へと消えていった。




 一時間が過ぎ、やってきたリコリスさんに促され私は廊下へと出た。


「天上に住まう翼を持つ天使の如くお美しいです、フルル様」

「ありがとう、リコリスさん。…………て、天使っ!?」

「ええ。ドレスが良くお似合いです」

「正直、こんな格好で人前に出るなんて気後れしてるよう」


 迎えを待つ一時間の間に、他の王宮妖精に着替えさせられて、私は花と宝石をあしらったゴージャスなドレス着ていた。頭には桃色のティアラを乗せ、ヒールの高い靴まではいている。おまけに胸元にはピンクダイアの装飾品と、一見して王女様と見間違えられるような格好をしていた。とは言っても王女様ではなく私は女の子にして王子様なのだが。


「どこからどう見てみも立派な王子様です」

「は、はあ。どうも」


 私はどうやら本当にミルドレッドと結婚してしまうことになるらしい。どうしたらいいんだろう。リコリスさんがやってくる前の一時間。寂しそうだったルミセラの顔が頭から離れなかった。森を抜けたら二人で暮らそうと約束を交わしていた。私が王様になってしまったらそれは、きっと叶わない。


「リコリスさん、私が王子様をやめるって言ったらどうなるのかな」

「あなたに、その権利はありません」

「ないんだ……」

「王子様に選ばれた時点で、あなたにはあなたが想像しているよりも重い責任が課せられているのです」

「責任……」

「王女と婚姻を結び国王となり、この国を背負う義務。あなたが選んだ道です」


 私が選んだ道。王子様に選ばれるとは思ってもいなかった。最初はお店の経営を持ち直す賞金が欲しくて、あの森へ足を踏み入れたんだ。でも最後は。死んでいったみんなの分も最後まで生き抜かなきゃ、そういう思いで前へ進んだ。


「フルル様。この先にあるのが、あなたの責任です」


 リコリスさんに導かれ、私は城の廊下を歩き進む。アーチの先には大理石出できたバルコニーがあり青い空が見える。その時、大勢の熱のこもった叫びが聞こえた気がした。


「歓声?」

「そのまま前へお進みください」


 言われるままにバルコニーの大理石の手すりへ近づくと、そこには私の『責任』が待っていた。

 大歓声だった。城の前にある広場を埋め尽くすように集まった大群衆。何人いるんだろう。数えきれない。私は人々を城の高所にあるバルコニーから見下ろしている。城が震えるかと錯覚するような歓声に私は呆然とする。


「国民はあなたを歓迎しています」


 みんな私の名前を叫んでるんだ。


「フルル様。あなたは王に相応しい慈愛と力を国民に示しました」

「私が?」

「花のように強く優しく美しい心を持つ王子よ、あなたの活躍は皆に勇気を与えたのです」


 私を見つめるリコリスさんの瞳には尊敬の色が浮かんでいる。

 みんな期待してくれてるんだ。王子様候補生になるまでは誰にも必要とされてなかった私に。

 ――でもルミセラも必要としてくれてた。王子様としての私ではなく、私自身を。


 私の横にはいつの間にか、頬を赤くしたミルドレッドが立っていた。


「さあ、国民に応えて差し上げてくださいね、フルル」

「うん……」

「あなたなら最高の王になれますわ」


 彼女も私へ心の底から期待を寄せてくれている。

 私の進んできた道の先に待っていたもの。そして、この手に掴んでしまった責任。こんなつもりじゃなかったでは済まされない。


 私……裏切れないよ。


 太陽を掴むように右腕を掲げ、私は人々に向かい力強く手を振る。国民たちの熱狂がピークに達したかのような大歓声が巻き起こり、その声は国中を駆け巡るかのようだった。

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