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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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第三回『アーテルさんとの出会い! そして魔法って凄い!』

「と、意気込んで故郷を離れて、はるばる首都までやってきたものの……」


 目の前に広がる世界。故郷のプリムヴェールでは見たことがないような大きな建物が並ぶ。馬車が走る広い道はしっかりと石畳で整備され、なんと一部の歩道は動いている。


「な、なにこれ、凄い。乗ってみていいのかな」


 おっかなびっくり、人の流れに混ざり動く歩道に乗り込んでみる。私の背負った大きなリュックが少し他の人に迷惑かなと乗ってから後悔した。動く歩道は左右を同じく動く手すりに囲われており二人分の幅がある。しかし右側は動く歩道の上を更に歩く人が優先されているらしく、足を止めている人は左側に寄っていた。

 私の大きなリュック……歩道塞いじゃってるなぁ。でもそこの注意書きに動く歩道では『しっかりと手すりを掴み、歩かないでください』って書いてあるし……まあいいか。

 しかし動く歩道の右側にはどんどん人が詰まり、背後からの視線が背中に突き刺さる。


「うう……ごめんなさい。でも前の人に荷物がぶつかるから、私は進むわけにも引くわけにもいかないので、本当に申し訳ありません……」


 ……謝っても誰も反応してくれない。なんだか都会って怖いね。それでも、この動く歩道は楽ちんすぎる。首都凄いよ! 

 不思議そうに見えるけれど動力は自動販売機と同じく配線で供給される魔力かなぁ。

 まさに発展した都会といった様相だ。動く歩道から降り、足を止めた私は息をつく。故郷を離れて、はるばる勝手の違う都会に来たという実感が湧いてきた。


「はるばるって言ってもプリムヴェールからここまで一秒もかかってないんだけどね」


 準備ができたらここに触れてください。リコリスから受け取った巻物に大きくそう書いてあったので、準備万端整えた私は深く考えず、その部分に触れた。すると目の前が光に包まれ、気がついたら国と名を同じくする首都クリームチャットの街中に立っていたのだ。最初、なにが起きたのか状況を把握できずに慌てて巻物を読み直した私だったが、王子様選抜試験開会式を行う首都への転送魔法が仕込まれていますと、隅にしっかり注意書きが記されていた。


「転送魔法って凄いんだなぁ」


 故郷から首都まで徒歩で移動したら、何日かかるか分かったものではない。

 そして興味本位で首都を散策し、今に至る。それにしても――


「これぞまさに場違いって感じだよ……」


 すれ違う殆どの人が私を横目で追い、含み笑いまでされてしまう始末。しかし、それも無理はないだろう。私は行商人と間違われそうな身の丈の倍はある大きなリュックを背負い帯剣までしている。街行く人々はシルクの衣装をまとい、武装もしていない。更には同い年くらいの細く整えられた眉毛をした少女たちはしっかりメイクをして、服装もおしゃれの一言。なのに私はノーメイクな上に眉毛は太く、服装も胸当ての下はコットンのエプロンドレス。

 なんだか、とっても恥ずかしくなってきました。どこからどう見ても私は田舎者丸出しだよね、うん。言い訳がましいかもしれないけれど我が故郷、花の都プリムヴェールの一般階層なら恥ずかしくない普通の服装だもん……。


「まあいいや。開会式は二日後だっけ」


 気を取り直し、巻物を開く。開会式の会場は、この国を治める女王が住まう居城前の広場。明日までの間は国が用意してくれた宿泊施設に滞在できるらしい。巻物に記載されている地図で現在地を確認した私は、とりあえず宿泊施設へ行こうと決め、足を踏み出した。




 私が首都に来てから二日が経ち、王子様選抜試験開会式の会場である城前の広場には大勢の人と兵士で溢れていた。私を含む、王子様候補生と思われる二十七人は会場内中央にある立派な舞台の上に案内され、横一列に並んだ立派な椅子に座らされている。舞台の周りは兵士に囲まれ、国民は近寄れないようになっているが、どうにも見世物にされているようで私は落ち着かない。ちなみに自前の大きなリュックは椅子の前に置いてある。

 平凡に地味に生きてきた私の人生、こんなに注目を浴びることなんて今までなかったのに……。もう少しおしゃれしてくれば良かったかなぁ。なんだか、とほほだよぉ……。

 とは言うものの、私以外の王子様候補生も都会にそぐわぬ服装や装備をしていた。全身を白い立派な鎧で包んでいる者もいれば、不思議な機械を背負って全身に管を伸ばしている人もいる。左隣に座っている私と同じくらい小柄な人に至っては黒いローブから伸びるフードで頭を多い、さらには口だけは見える仮面まで着けていた。仮面から覗く口元にはキャンディのスティックを覗かせている。……すごい格好。

 ――あれ、この子?


「ん~? あんた、さっきから人のこと、じっと見つめてくれちゃって、なんなの?」

「ご、ごめん。なんでもないの」

「ふーん。まあいいけど」


 この声。このキャンディ仮面……やっぱり女の子だ。私は王子様候補生たちを注意深く見渡す。豪華な椅子に座った私を除く二十五人。その半数以上は、なんと女性だった。


「……お姫様と結婚するはずの王子様候補生なのに女の人がいるのはなんでだろう」


 そしておかしい。今気がついたけれど、この舞台には二十六人しかいない。王子様候補生は二十七人だったはずなのに。


「あんた、そんなことも知らずにここにいるの?」


 先ほど、思わず口から出た言葉にキャンディ仮面が反応してくれたようだ。


「一部の魔法士は女の子同士でくっついても問題ないの」

「どういうこと? 跡継ぎとか、いいのかな?」

「強力な魔力を持ってる人間はね、ある魔法を使って女の子同士でも子供を作れるんだよ」

「え!? そうなのぉ!? 女の子同士で子供作れるの……!?」

「うん。限られた人間だけの話だけどね」


 一般庶民な私は全く知りませんでした。魔法ってやっぱりすごい。


「教えてくれてありがとう。私はフルル・フルリエ・トリュビエル。武具屋です」


 笑顔で自己紹介をすると、仮面の少女は私の顔を凝視しながら沈黙した。


「えっと……え、えっと?」

「ごめん。とても、良い笑顔だったから」

「そう? 褒められると笑顔の花がもっと咲いちゃいます」


 互いに笑い合い、二人の間に和んだ空気が溢れだす。良かった、友達になれるかもっ。


「私はアーテル・アルト。あんたは略して、フルフルだね」

「ふ、フルフル……っ?」

「うん、フルフル。お近づきのしるしにチュパパキャンディあげる」


 彼女がローブの中から取り出した棒付きキャンディを受け取り、私は会釈する。


「ありがとう。よろしくお願いします」


 なんだか懐かしい。三年前に出て行ったお母さんも私をフルフルって呼んでたっけ。そういえばアーテルさんの髪って、お母さんと同じプラチナブロンドだ。


「ところで武具屋さんだっけ。何屋さんなのそれ」

「何屋さんって。武具屋さんだよ。武具売ってるの」

「武具って、こういう剣とか?」


 アーテルさんは自らの腰に差した剣を指差す。


「うん、武器と防具を扱ってるから武具屋さんなの」

「へえ、それなら私の剣っていくらくらいするのか分かる?」

「えっと……そうだねぇ」


 私は腕を組んで、彼女の剣を凝視する。


「柄も鞘もガラス製。そんな作りの剣は私が知る限り一種類しかない。それエルフの武器だよね。別の大陸に国を構えるエルフたちの特殊なガラス技法。そうして鍛えられたガラスは良質なものであれば鉄はおろか、ミスリルにも引けをとらない強度を誇る」

「へ、へえ、そうなんだ」

「一見、細身に見えるけれど、この鞘や柄に鋼鉄製のウォーハンマーをいくら叩きつけても一つの傷もつかないはず。澄んだ黒いガラスの柄。製作者は天才的な技術を持っていると容易に想像できるよ。刀身まで確認したわけじゃないけれど、アーテルさんの剣は最高品質に見える。いつかうちの店でも扱いたいくらい。刀身も同じ品質だと仮定して――」

「か、解説長いっ! エルフ製の武器ってことしか頭に入らなかったよ……」

「ご、ごめん」

「それで鑑定結果は?」

「そうだね、約千五百万ウィズ」


 取引の状況で値段は左右するかもしれないが市場では大体それくらいだろう。


「ぶっぶー。おおハズレ~」

「嘘ぉ!?」

「正解は貰い物だからタダでした」

「わ…………分かんないよ、そんなの……!」


 そう私が声を張り上げた時だった。視界の向こう、左端に座っていた青いドレスの美しい女性が厳しい表情を浮かべ、私の前へと粛々と歩いて来たのは。


「静粛に。これから王女との謁見が控えている。私語は弁えろ」

「ご、ごめんなさい」


 助け舟を求めるようにアーテルさんへ目を向けると彼女はそっぽを向いて、どこ吹く風の様子だった。気まずい空気。もう一度、謝ろうと口を開きかけた私と視線が合い、青いドレスの女性は目を見開く。どうしたんだろう? また何か気に障ることしちゃったかな? そう慌てる私を、彼女は空色の瞳で見つめている。


「フローラ……」

 フローラ? お母さんの名前だ。


「もしかして、お母さんを知ってるのですか?」

「フローラの娘……? そう。フローラにこんな大きな娘がいたのか」


 母親に、そっくりだ。そう言って彼女は優しい表情で笑った。


「フローラは王立魔法学園時代の先輩で親友でね。とても世話になった」

「お母さんは学生時代の思い出を聞かせてくれる時、いつも幸せそうな顔をしてました」

「……そうか」

「最高の人たちと過ごせた素敵な時間だった。そう聞いてます」


 懐かしそうに目を細め微笑む彼女を見れば、過去に二人は良い友人関係だったのだと容易に察せられる。お母さんの友達。不思議な出会いに、私は言葉が詰まる。


「申し遅れたな。私はグリセルダ・メルマイディ・ウィステリア」


 私も自己紹介を返すと、彼女は小さく会釈し嬉しそうに笑ってくれた。


「私はここ、首都クリームチャット代表の王子様候補生だ。よろしく、トリュビエル」

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