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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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第二十九回『王女さまは王子様候補生狩り!? 炎の魔女ミルドレッド!』

「この森に来て数日間。あなたたち王子様候補生を私は監視していました」

「か、監視……?」


 ミルドレッドが指を鳴らすと空中に小さい炎が燃え上がる。その中に浮かぶ小さな水晶玉が現れた。炎をまとう水晶はキラキラと輝き、引きこまれるような美しさを放っている。


「詳しい説明は省きますが、広範囲の探知と追跡、そして監視を可能にする魔法です」


 水晶球には泉に立つ私とミルドレッドの姿が映し出されていた。


「あなたの活躍を、この水晶越しに楽しませて頂きました」

「なんで、そんなことを……」


 あ、そうか。


「王女様自ら、王子様候補生の順位を決めるために監視を?」

「ある意味そうかもしれませんね」

「もしかして、その魔法で私が崖から落ちるのを知って助けてくれたのかな?」

「そうなりますね」

「うう……さっきは本当に助かりました。ありがとう」


 ミルドレッドは微笑むと私に背を向け、泉の外へと歩き出す。すると赤いドレスがゆっくりと燃え上がり彼女を炎が包み始めた。


「え!? な……っ!?」


 慌てて泉から飛び出し、炎に巻かれるミルドレッドに駆け寄る。


「水をかけなきゃ!? 泉のバケツはどこ……!?」


 錯乱する私をよそに炎は瞬時に消え去る。

 そして炎が消えた後には、真紅の重鎧をまとったミルドレッドの姿があった。


「私の存在を知られた以上、顔を隠す必要ありませんね」


 彼女は苦笑し、腕に抱えていた兜を投げ捨てた。


「赤い鎧の騎士……?」


 生き残りの黒文字だった王子様候補生は四人。フルル・フルリエ・トリュビエル、私と。アーテル・アルト、ルミセラと。グリセルダ・メルマイディ・ウィステリア、水の魔女と。残りの一人は――


「まさか……王子様候補生狩り……」


 ミルドレッドは微笑みを絶やさず、こちらに向き直り頷く。楽しげな表情が途端に恐ろしい物に見えてきた。


「正解です」

「……赤騎士、エーベルハルト・バウムガルテン!」


 私は後ずさり、腰の短剣に手をかける。マグノーリアさんから預かった剣を失ってしまったので、代わりにルミセラから貰った新しいミスリルの短剣だ。


「王女様がなんで王子様候補生狩りを……」

「伴侶となる人くらい、自分で選びたかったのです」


 真剣な声。気持ちは分かる。結婚相手くらい私だって自分で選びたい。


「炎水晶から見た王子候補生。たった一人だけ無類の輝きを放っていた人がいました」


 ミルドレッドは差し出すようにこちらへ掌を向ける。


「あなたです、フルル。あなたなら私の伴侶となるのに相応しいと考えます」

「わ、私が……っ!?」

「ええ、そんなあなたに最後の試練を与えます」

「……最後の試練?」

「出番ですわよ、グリセルダ」


 ミルドレッドの呼びかけに答えるように私の背後から枝を踏む音が響く。慌てて振り返ろうとした瞬間、渦を巻いた泉の水が細い紐のように伸び、私へ向かってきた。

 なにこれ!? そう思った時には私は水の紐に縛られ身動きが取れなくなってしまった。全身を縛られ、私はバランスを崩し転倒する。両手首が強く締められ、鈍い痛みが走った。


「い、いたたた……」


 水の紐? 魔法? 倒れた私を何者かの影が覆う。見上げると、そこには――


「……グリセルダさん」


 ……なんだか鬼のような形相で私を見下ろしてるよぉ。開会式の会場で会った時はあんなに優しい顔してたのに……。私、なにか気に障ることしましたぁ……!?


「フルルはグリセルダと戦って頂きます」

「いつお呼びがかかるのかと痺れを切らしていたぞ」

「お待たせしました」

「それよりミルドレッド……。トリュビエルが伴侶に相応しいとは本心か?」

「本心でしてよ」

「そうか。……そうなのか」


 な、なんだか、グリセルダさんの私を見下ろす目が一層怖くなったような……!?


「あなたの母、フローラには学生時代、大いに世話になった」


 彼女は鬼のようだった表情は緩ませ、どこか懐かしげに呟く。

 よ、良かった。よく分からないけれど、お怒りが収まったようで……。


「クロウエアに魔法の実験台にされた時、フローラには何度も助けられた」

「じ、実験台……」

「そうだ。あなたの母君がいなければ、私は学園を生きて卒業できたかどうか怪しい」


 クロウエア。ルミセラやミルドレッドの母親の名前だ。


「クロウエアにフローラ。そして私は親友でな。いつもつるんでいた」


 そう言えば女王様もお母さんと友達だったってルミセラが言ってたっけ。

 お母さんの過去を私は、なんにも知らない。


「よく三人で森へキャンプに行ってな。フローラには木のスプーンや皿の作り方を教えてもらったよ」

「短刀を使って即席で作るのですよね」


 私の言葉にグリセルダさんは嬉しそうに笑う。


「そうだ。本当に良い思い出だ」

「えへへ。私もお母さんから習いました」

「素敵な人だったな」

「はい。お母さんは本当に素敵な人です」


 私とグリセルダさんは微笑み合い、辺りに穏やかな空気が流れ初め――


「だが! 貴様は許せん、フルル・フルリエ・トリュビエル!」

「ええええ……っ!?」

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― 新着の感想 ―
[気になる点]  クソほどとばっちりな上に一切の非がねえ……。 [一言]  グリセルダってもしかしてロリk……
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