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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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第二十七回『なにがあっても、最後まで一緒だからね』

 私たちは焚き火近くに座り直し会話を続けていた。もう当たり前のように、ぴったりとくっついて座っているが、私は未だにルミセラと密着するのは少し恥ずかしい。


「そんなわけで私は謎の女の子に助けられましたとさ」


 揺れる明かりに照らされたルミセラを見つめながら私は息を漏らす。


「……その人がいなかったら、ルミセラは今頃……」

「うん、消化されてバジリスクの栄養になってたかも?」

「うう、謎の女の子に全力感謝だよぉ……」


 ルミセラを助けたのは花の香りがする女の子だったらしい。最初は私に助けられたと思ったようだ。水に落ちて匂いは消えてしまったが、この森に転送された頃の私は花の香りを放っていたはずだ。店に花が溢れているので、香りが移っていたのだ。それに私が花の魔法を使うので連想したのだろう。しかしルミセラを助けたのは当然、私ではない。他の王子様候補生が彼女を救ってくれたのだろうか。


「そう言えば、王子様候補生って何人残ってるのかな?」


 私は腕を組み、意味もなく空を見上げる。多くの候補生が無事だと良いのだが。


「って。ルミセラに聞いても分からないよね。我ながら、ろくでもない質問を――」

「現在、森にいる王子様候補生が誰で何人残ってるのかは巻物を見れば、すぐ分かるけど」

「え!? 知らなかったよ……っ!」

「だ~か~ら。ちゃんと巻物は読んでおきなっていったのに」


 鼻をつままれ、私はフガフガと変な声が出てしまった。ちなみに私の巻物はバジリスクに襲われたあの夜、リュックと共に失われてしまった。なので現在地や目的の場所が表示される地図の確認もできず、どこへ向かうかの判断はルミセラに任せっきりだった。


「……だいぶ減ってる」


 巻物を開いたルミセラは深刻な表情を浮かべた。私は彼女の背後から覗きこむ。

 ずらっと記載された名前と思われる文字列。それは黒と、乾いた血のように赤黒い文字で色分けされていた。黒文字は四つ。その一つはフルル・フルリエ・トリュビエルと記されていた。


「黒文字の名前がまだ生きてる王子様候補生」

「赤文字は……?」


 数えたわけではないが、黒文字が四なら赤文字で記載された名前は恐らく二十三。


「……命の反応がない王子様候補生だね」

「嘘……」


 名前の列の上に説明書きがある。

 全王子様候補生一覧。記された名には森の中での生命反応を探知する魔法がかかっている。黒文字は存。赤文字は滅。

 そう書かれていた。

 赤文字の中にはトリニタリアさんとマグノーリアさんの名も含まれていた。


「……やっぱりみんなは」


 涙が巻物の上に零れていく。もしかしたらみんな無事かもしれない。その淡い期待は絶たれてしまった。


「生き残りは私たち二人と……こいつら」


 黒文字の四人。


「グリセルダとエーベルハルト」


 グリセルダさん。会場であったお母さんの親友だった人。そしてマグノーリアさんが言っていた炎を操る赤騎士。彼女たちは王子様候補生を狩っていたという。


「なにがあっても最後まで一緒だからね、フルフル」

「うん。……ずっと一緒だよ」


 そう誓い、私たちは手を握り合う。




 マンティコアを倒したあの日から四日。魔物たちとの戦いは続いた。

 ワイバーンにゴブリンの群れ。ハーピーにトロルなどなど。数々の魔物や亜人の襲撃を退け、私たちは順調に試練の森を進んでいる。


「もうちょっとでゴールだね。頑張ろ、武具屋!」

「二人で一緒に最後まで行こうねっ」

「もちろん! 張り切って行くよ!」

「うんっ! えいえいお~!」


 元気良く声をあげ私たちは草木を掻き分け道なき道を登る。雰囲気は、まるでピクニックである。急な勾配。標高が高いのか木の種類が変わっていた。この高所を越えれば巻物の地図に示された目的地に到達する。私の少し前を歩く彼女の横顔を見つめる。

 ――一緒に暮らそう、かぁ。生まれながらの王女様って雰囲気。私と一緒に暮らすって言ってたけれど本当に叶うのかな。期待してもいいのかな。


「な、なに、じっと見つめてくれちゃってるの?」


 私の視線に気づいたルミセラは、こちらに振り返り片眉を上げる。


「なんでもないよ、えへへ」

「なんでもないってなんだ、こいつ~」

「って、見て! もうすぐ山頂だよ~!」


 山頂は木が少なく、剥き出しの岩肌の合間の、あちらこちらに花が咲き渡っていた。


「わぁ。綺麗! お花が咲いてる~!」


 樹々に遮られずに広がる綺麗な青い空。雲一つない。そして一面の桜色をした花々。美しい光景に私の心は踊り出す。山頂に向かって思わず駆け出し、私は既視感を覚える。


「あれ? 前にもこんなことが」


 そう首を傾げ、山頂にたどり着いた瞬間だった。山頂から先が急な斜面になっていると気がついたのは。


「あっ……!」


 驚いたのも束の間。私は足がもつれ、前のめりになり斜面を転がり落ちる。


「――嘘でしょぉ!?」

「フルフル……! 繋がれ!」

「うわわわわわわわ……っ!!」

「繋がれ! 繋がれっ!」


 視界が回転し、自分が激しく転がっていること以外は、なにが起きているのか分からない。なにが起きているのか分からないが、恐らくルミセラが空間接続魔法を駆使して、離れ行く私を掴まえようとしてくれているのは理解した。

 でも止まらないこの感じ! うまく私を掴めてないよねっ!


「どこまで転がるのぉ!?」

「あんた、どうして……そそっかしいところは治んないのっ……!!」

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