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今日から始める王子様候補生  作者: 緑川桜子
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第二十三回『がんばれば、優しい世界もきっと作れる』

「フルル、無事!?」


 倒れていた私に駆け寄ってきたトリニタリアさんに微笑み、大丈夫だよと返事をする。


「でも体が動かないや……」

「もたもたしてて、ごめんなさい……。あの怪物を一人で倒したのね」

「頑張ったよ」

「あなたって本当に凄いのね。尊敬しちゃう」

「えへへ。褒められると笑顔の花が咲いちゃいます」


 笑い返してくれたトリニタリアさんは、私の腹部を目にし笑顔を凍りつかせる。


「なによ、これ……ひどい傷!」


 言われて腹部に目を向けると、エプロンドレスは血に染まっていた。


「毒針にやられちゃって」


 舌を出して微笑むとトリニタリアさんは大粒の涙を浮かべた。


「猛毒なの……?」

「うん。それなりにね」


 辛うじて舌は動くが、時間が経てばどうなるか分からない。マンティコアの神経毒は身体の自由を奪い、やがて心臓などの内臓にも悪影響を起こし死に至らしめる。

 今度こそ死んじゃうのかなぁ。


「後一歩でトリニタリアさんだけじゃなくて、自分の命も救えたのに。惜しいっ」

「失敗した私を……どうして守ろうとしたのよ……」

「誰かを助けるのは理屈じゃないんだよ」

「……そんなの分からない」

「それにね、世界にはトリニタリアさんのお母さん以外にも、あなたを助けようとしてる人だっている」


 世界は残酷で醜いことばかりではないはずだ。頑張れば優しい世界もきっと作れる。


「信じられる人もいるって伝えたかった」


 トリニタリアさんが泣いている。私を心配してくれてるのかな。やっぱり本当は優しい人だったんだね。


「母さんみたいなこと言わないで……」

「トリニタリアさんは……」


 魔法を使ったせいだろう、意識が朦朧としてきた。


「トリニタリアさん、あなたはね……一人じゃないよ」

「嫌よ。母さんと同じ笑顔をした人をまた失うのは嫌……」

「トリニタリアさんも私の笑顔を気に入ってくれたんだね……」


 子供みたいに何度も頷く彼女の頬を撫でたかったのに両腕は動かなかった。


「……ごめんね、悲しませ……ちゃって……」


 その時、複数人の人影が視界に入った。誰だろう。王子様候補生だったらいいな。

 ……違う。あれは緑の鱗の肌を持つ亜人。リザードマン。


「逃げて……トリニタリアさん」


 私は亜人たちと戦うために立ち上がろとしたが体に力が入らなかった。


「いいから休んでなさい」

「でも……」

「心配しなくても、私はスチームバンカー。お荷物は捨てて行くわ」


 もう意識が……。目の前が霞んでぼやけてきちゃった……。


「……だから安心して寝てなさい、お人好しのイイコちゃん」


 ルミセラ、ごめんね。待ち合わせの約束……守れそうにないよ。




 ……あれ? ここはどこだろう。私はなにを。


「良かった。目を覚ましたのね、フルル」


 ……トリニタリアさん? 私……なにが。


「まだ朦朧としているのかしら」


 確かに意識がはっきりとしない。夢の中にいるようだ。視界もぼやけている。


「無理しないで。安心して寝てなさいと言ったでしょう」


 そうだ。私たち……マンティコアに襲われて……。あ。リザードマンはっ?

 そう口にしたつもりだったが、うまく言葉にできたかどうか自信がない。


「私がそばにいるから心配しなくていいわ。もう怖い魔物は来ないから」


 そっか。あなたが守ってくれてるなら安心だね。なんだかまた眠くなってきちゃった。

 そうだ、トリニタリアさんにずっと聞きたかったこと。寝ちゃう前に聞いておこう。

 あなたは、どうして王子様選抜試験を頑張ってたの? お金のため?


「私? 王様になりたかったから」


 なんで?


「魔力のない人間でも平等に生きられる国にしたかったのよ」


 平等な国。素敵な夢だね。


「ありがとう。それに今はね……」


 トリニタリアさん、なんだか少し照れくさそう。


「母さんや、あなたみたいな綺麗事を信じてる人間も安心して生きていける国にしたい」


 そっか。ありがとう。やっぱりトリニタリアさん、根は優しい人だよね、えへへ。


「優しい? さて、どうかしら」


 優しいよ。照れくさそうな顔も可愛いし。……でも、お話してたいけれど、また眠気が。ふわぁ。ダメ。やっぱり眠いや……。


「眠そうね。もう一眠りしたら? ついててあげるから」


 うん。そうさせてもらおうかな。ありがとう、トリニタリアさん。


「私たち、友達になれるかしら」


 もう友達だよ。


「……ありがとう」


 トリニタリアさん、泣いてるの? 目を覚ましたら……またお話しようね。

 おやすみなさい。


「ええ。優しい夢を、フルル」

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