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魔の森に挑もう!①

 最初に思ったのは、「魔の森」は「死の地平」とは違ってかなり涼しいということだ。「死の地平」は昼は直射日光が暑く夜は震えるほど寒かったけど、木々が生い茂っているおかげか「魔の森」は適温が保たれている感じがする。

 しかし歩くのはかなり大変だ。ルーに乗って移動ができないくらいには足元も頭上も悪い。魔の森を迂回しようとすると山を越えなきゃいけないので、それよりはマシだと思ったけど……。

「うわっ!またひっかけた、あーもー……」

 そもそも私の服装が森歩きに向いていないので、そこが問題だった。ルーが先導して道を作ってくれているものの、鋭利な葉っぱや小枝が腕や脚に無数のひっかき傷を作っていく。だって膝下スカートでサンダル履いて生足、上は半そでよ?防御力なんかゼロに等しい。

「ばうっ、わう!」

「あー、ちょっと待ってねルー。あなたも葉っぱいっぱいついてるわね」

 そういう傷から菌が入るのが悪化の原因と習ったのでちょくちょく立ち止まって清潔の魔術(クリーン)をかける。それもまた時間がかかる原因だった。町についたら一番最初に頑丈なブーツと上着、ズボンを買おう……と決意しつつ、心配してくれているルーにまとわりつく葉っぱをとってやる。

「今日中に森を抜けるのは無理そうねえ……」

 日光があまり入らないけど、陽が傾いてきているのはわかる。どこか休めそうな場所を探したほうがいいかもしれない。ついでにご飯も必要だ。道すがら食べられる野草があちこちに茂っているのを見つけたから、あとはルーのお肉を狩ればいいんだけど。魔物と遭遇はするものの、虫系が多いので食べたいとは思えない。ルーも魔石だけ食べていたから虫は好きじゃないんだろう。


 「死の地平」を進むのよりははるかに遅いペースで森を歩き、真っ暗になる前に見つけた木のうろで今日は一休みすることにした。ルーが捕まえてくれた鳥の魔物と採取した野草を食べてご飯も済ませる。調味料がないから究極的に味気ない上にカトラリーや食器もないので丸焼きした肉をボスタウルスの角で裂いてかじり、葉っぱは食いちぎるという蛮族感。そろそろ文化的な食事がしたいところだ。

 焚き火を絶やさないようなしながら夜を明かす。途中現れたのはクニーク・ルス――角を持った兎の魔物くらいだった。これくらいなら小さなルーでも対処できる。食べものも足りてるので追い払うだけに済ませて、それ以外は静かな夜だった。


 さて、朝日が昇る。今日の目標は森を抜けることだ。なので。

「ルー、今日は人の気配を辿っていきましょう」

「ぐるる……」

「ここがこんなに歩きにくいのは道がないからよね。だから人の作った道を探して、そこから町に行くのが一番近道だと思うのよ。冒険者に会えたら町への道を聞くこともできるし」

 私は土地勘がなく、森歩きにも慣れていないので迷っている可能性もある。しかしルーの鼻があるわけで、これを活用しない手はない。「ヒト」の匂いならルーも嗅ぎ分けられるだろう。

 そんな作戦が功を奏したのか、昼頃には道なき道からヒトが踏み均した道へ出ることができた。これをたどっていけば人里に出られるはず!


 ――と思ったが。

「はえ……何アレ……」

 道のド真ん中にドン!と現れたのは巨大なゴーレムだった。木の巨人というべきか、根を張っているものの上半身はわさわさと蠢いている。物陰からこっそり様子を眺めていると、飛んできた鳥を木の枝を伸ばしてぶっ刺して捕らえて捕食していた。怖ッ。

「迂回でき……ないよねえ」

 少なくともここから迂回は無理そうだ。というのも、木の巨人の捕食範囲が結構広いのが一つ。もう一つは迂回しようと思ったところが沼地になっているのである。今の装備じゃとてもじゃないけど渡れない。

 そんなわけで、手段は一つ。木の巨人を倒して渡るしかない。


 とりあえずルーには元の大きさに戻ってもらう。そして作戦会議だ。

「あんなデカいのルーも一発で倒せないでしょ?だからいったんこっちを向かせて『魅了』、あなたが攻撃して私が火魔術で援護する。どう?」

 この距離だと硬直させるにも目をあわせたい。目、あるのかわからないけど……。こっち側は多分背中だと思うので。とまあ作戦会議にしてもいつも通りの超シンプルな内容を伝えると、ルーは了解!という感じで「ヴゥ!」と鳴いた。

 そして木の巨人に向き直ったと思ったら――

「アオオォオオオオオオオオオオンッ!!」

 ビリビリと鼓膜が震える。木々がザアッ!と音を立てて揺れて、何よりすさまじいのは音圧よりも殺気だった。ボスタウルスの時も吠えてたけど、こんなヤバくなかったよ?!内心焦っていたけど、木の巨人がこちらを向いたのが分かって気持ちが切り替わる。作戦はうまくいったということ。だから私の番だ。

「――硬直しろ!木の枝一本、動かすな!」

 強い力を込めて「魅了」を飛ばす。木の巨人に効くか不安だったけど、次の瞬間弾かれたように飛び出したルーに襲い掛かる木の枝は皆無だった。よしよし、オッケー。私もルーの後に続いて駆け出す。

燃えよ、灰になれ(フラムラムキニス)!」

 周りが沼地ということは、火の魔術を遠慮なく使えるということだ。木の巨人ってことは多分火属性が弱点!なのでどんどん魔術をぶっ放す。動けなくした木の巨人の枝に火が燃え移り、広がっていく。


 そしてルーが跳躍して突撃したのは巨人の顔だった。まずは目に一撃。弱点にきっちりダメージをいれていく。

「ゴアアアアア!」

 巨人の悲鳴が轟いて地面が揺れた。地を這っている根が蠢いているらしい。やばい、と急いで離脱するけどルーはまったくひるまない。

「グルアッ!」

 巨人の喉の部分を噛みちぎり、爪で体を切り裂く。木とは言え堅そうなもんなのにまるでバターを裂くかのように簡単に傷つけてしまうから大したものだ。私も援護を続ける。安全地帯から火を飛ばすくらいだけど。

 ルーにバキバキに折られて裂かれた木の巨人はついには全身火に包まれた。断末魔を聞きつつ、戻ってきたルーと一緒に鎮火するのを待つ。わー焚火あったかーい。

 ルーの遠吠えのおかげか、さすがに別に寄ってくる魔物はいない。緊張も解けて休みたい気分だったので、いくらか離れた木の根元に座り込む。ルーが大きな姿のままで寄り添ってくれて安心した。

 パチパチと木が燃えて爆ぜる音だけが響く。それを聞いているうちに、私は浅い眠りに落ちてしまっていた。

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