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従魔と「魅了の悪魔」

「も、森ーーッ!」

 ルプス・グランディスに乗って走りながら丸三日。ようやく「魔の森」らしきものが見えてきて私は歓声を上げた。


 おそらくだけどルプス・グランディスは馬よりも早い。最初は歩いていたとはいえ、最後のほうはかっ飛ばして三日もかかったのだからずいぶん遠いのだと思う。休んだのはご飯食べるときくらいだもんね。

 「魔の森」の魔物は「死の地平」よりは弱いらしい。だから――森についてルプス・グランディスから降りた私はもふもふとひとしきり撫でてから告げた。

「元いた場所にお帰り」

 魔物の生態系を崩すのは恐ろしいことだ。それは私が聖女になるきっかけの大規模発生でも痛感していた。なので、この森の魔物よりも強いルプス・グランディスをここで野放しにするわけにはいかない。

 それに、この子はルプス・グランディスの中でも強力な個体だろう。なにせボスタウルスを一撃で葬り去ったり、ほかの魔物とエンカウントしてしまったときも「魅了」で足止めしていたとはいえ大体は簡単に倒していた。ここから砦の近くの「死の地平」までは簡単にたどり着けるはず。

 けれどルプス・グランディスは「グゥ……」と唸ったかと思うと私の腕の下に頭を突っ込んできた。

「わっ!?ちょっと、ダメよ。あなたがここで暮らすのは看過できないし、私はテイマーじゃ……」

 「魅了」で言うことを聞かせるか、と思いながら口に出した言葉にはっとする。そうだ、テイマーなら魔物を従魔にすることができる。ルプス・グランディスが望むのなら――本当に望んでいるのかな。私は「魅了」で言うことを聞かせただけなのに。

「キュウ、キューン……」

「えっなにそのかわいい鳴き声。いやちょっと、お腹見せてもね!あなた!」

 甘えたように鳴きながら、命令もしていないのにお腹を見せて屈服する姿に降参したのは私のほうだった。うん、テイマーだって最初は無理に従えさせて契約するって言うしね!それと一緒!「魅了」の活用だから、これは!


 ルプス・グランディスがいるのは実際かなりありがたいことだ。「死の地平」の魔物の中でも強い個体は、「魔の森」なら間違いなく最強だし非常に強力な用心棒になるだろう。人を信用できない可能性がある中で、魔物とはいえ味方がいるのはありがたい。人を「魅了」で従えることもできるだろうけど、それって奴隷だよね?従魔契約はあるけど従人契約は違法だもんね……。人間社会に生きる気があるなら裁判で勝てない行為はやめておこう。

「しかたないわね。ついてきてもいいけど……従魔契約ってテイマーがいないとできないのよね」

 正確に言うと「テイム」のスキルが必要だ。これはスキルを持っている本人だけじゃなくて、本人以外と魔物の従魔契約を結ぶこともできる。ただしその場合は事前に魔物がその人物に認めているなどの合意が必要だ。竜騎士なんかはこのために竜を卵から育てて騎士との信頼をはぐくむのだとか。

 うーん、どうしようかな。「魅了」で契約できないものか。何か使えるものがないかと自分のステータスを開く。

「……え?」

 そこにはこう書いてあった。


【人種】ヒト

【呼称】ステノ・マシュー

【称号】「砦の守護者」「魅了の悪魔」

【スキル】「魅了」「初級攻撃魔術・全」「生活魔術」「身体強化・小」「魔物図鑑」

【従魔】ルプス・グランディス(1)


「いやもう従魔なんかい!」

 つい突っ込んでしまったが、「魅了」した時点で従魔になってたのかな、これ。従魔契約済の相手に急に捨てられたらそりゃルプス・グランディスも戸惑うよね……。ごめん。本当にすみませんでした。

 さて、それはいいとしよう、うん。問題は称号だ。

「『魅了の悪魔』って……あのクッソ王子!!」

 なんだこの、これは!ダッサ!じゃなくて、なんか私が本気で悪人みたいじゃん?【呼称】【称号】のステータスは「真名開示」のスキルで見えるものだ。「スキル鑑定」スキルほどレアじゃなくて、裁判所とかで使われるんだよね。で、この「魅了の悪魔」……絶対心象悪くなりません?

 確かに魅了使っていましたけど!前まで持っていた称号「聖女」がなくなっているから、これと引き換えになったんだろうなあ。「砦の守護者」は残ってるのが謎。貢献してたのは本当だからかな?「魅了」使ってたのも事実だしね。

「裁判所のお世話にならないようにしよ……」

 だってこんな称号「魅了」持ちがバレるって、普通に。まさかこんな罠があるとはね。


 しかし、話を戻して従魔となったルプス・グランディスだけど。「テイム」のスキルがないのに従魔契約が完了しているということは、「魅了」には「テイム」が含まれているのだろうか?スキルには上位互換スキルや複合的なスキルがあるのでありえない話ではない。

「ん~……だったら冒険者としてはテイマーとして登録しておくかな」

 ルプス・グランディスが主力になるのは間違いない。テイマーならルプス・グランディスを連れていても平気だしね。ルプス・グランディスがグルルと唸りながら全身で甘えてくるのを何とか受け止めながら撫でてやる。

「じゃあ、あなたの名前は『ルー』。いいわね?」

「ガウッ!」

 情が移ったらいけないから名前をつけていなかったけど、従魔にするなら識別呼称は必要だ。ルプス・グランディス――ルーが元気に返事してくれてよかった。ネーミングにひねりがないのはご愛敬ということで。


 従魔になった魔物にはいくつかの特殊なスキルが発生する。そのうちの一つが、「収縮(ミニマイズ)」だ。つまり、体のサイズを小さくする方向でのみ変化することができる。限度があるけど、ルーを「収縮」させるとだいたい大型犬サイズになった。もともと見上げるほどの馬より大きな狼だったのでかなり縮んでいる。これなら森歩きも楽だろう。

「準備オッケー!人里目指していきましょう、ルー」

「わうっ!」

 従魔だと判明したせいか、ルーとばっちり意思疎通ができている感じがする。私はルーと共にうっそうと生い茂る森の中へ足を踏み出した。

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