藤見新菜の異世界召喚
駅のホームから落ちたら、異世界にいた。
そんなことがあるだなんて信じられなかった。でも現実だ。死を覚悟した次の瞬間、痛みも何もなくって、目の前には沢山の人がいた。見知らぬ大人に囲まれて怯えている中、優しく話しかけてくれたのがネフィだった。
「君が『神の落とし子』?私はネファライティスだ」
その人があんまりにイケメンだったので私はさらにびっくりした。なんというか、アニメや漫画のイケメンが三次元にいたらこうなるんだ!って感じのイケメンさ。ぼうっと見惚れてしまったのも無理はないと思う。
ネフィは私をお姫様みたいな豪華なベッドがある部屋へ連れて行って、ドレスに着替えさせてくれた。お風呂や着替えを手伝う人がいるんだよ?信じられない!「神の落とし子を丁寧に扱わないとバチが当たってしまうからな」といたずらっぽくウィンクされて胸が高鳴る。そしてお姫様のような格好になった私にネフィは色々なことを教えてくれた。
ここはアウルム王国というところで、ネフィはそこの王子様なんだって!この世界では「周期」に沿って異世界から召喚される人が現れる。その人を「神の落とし子」と呼ぶらしい、つまり私のことだ。
「神の落とし子は強力な力を持っているんだ。ニーナ、ステータスを見てみたまえ」
「ステータス?えっと……」
当たり前のように言われてピンときた。異世界召喚はラノベでいくつも読んだことあるし、そこでステータスを見るっていうのはよくあることだ。「ステータス!」と声に出したら「口に出さなくていいんだぞ」と笑われたけど、自分のステータスを見ることはできた。
いろいろ書いてあるのを言われるままにネフィに伝えると、「鑑定・全」や「超級魔術・光」で反応された。鑑定スキルはすごくレアみたいだ。へー、誰でも鑑定できる世界じゃないんだ。
「ニーナには『全てを見透かす者』の称号があるから鑑定特化と考えていいだろうな。加えて魔術も強力だ。さすがは神の落とし子と言ったところか」
「えへへ……」
「では早速、『鑑定』を使ってみたまえ」
言われるままにネフィのお付きの人や、その辺の兵士たちに「鑑定」を使いまくる。ネフィは私の言うことを全部うんうんと頷いて聞いてくれた。人以外にも物にも鑑定は使えたので、毒味も食べずにできるんだって。すごい!
最初はそうやってはしゃいでいたけど、だんだん家に帰りたくなった。友達に会いたい。パパとママはいないけど、あんなに口うるさくて嫌だったお兄ちゃんにも会いたくなった。でもきっと私は死んじゃったんだと思う。異世界召喚で、元の世界に帰れるパターンはすっごく少なかったからこの世界で生きていかなきゃいけないってわかってるけど……。
ネフィはそんな私にも優しく、根気よく付き合ってくれて、城の中から城下町までいろんなところを見せてくれた。私にこの世界のいいところを教えてくれてるみたいで、ネフィはこの国が好きなんだなあとしみじみ思う。鑑定をすると、自分が今までの自分じゃないみたいで気が紛れる。ネフィの役にも立っているらしくて、毎回褒められるのもうれしい。
「ニーナ。よければ私の仕事を手伝ってくれないか?君がいればきっともっといい国にできる」
ちょっとプロポーズみたいだと思ってしまったのは内緒だ。ネフィは王子さまとして真面目に言ってるんだもん。この世界に来て誰よりも助けてくれたネフィのことが、私は好きになっていた。だから頷かない理由もない。
実は、神の落とし子は王族と同じくらいの偉さなんだってこの間知って。この国を作った王様って神の子だったって言うから、私はその人と同じ扱いらしい。だったら、もしかして――ネフィの奥さんになれたりしちゃわないかな?って期待があったのはホントだ。それくらいネフィのそばにいるし、ネフィのお付きの人にも認められてる感じがする。
でも国中のいろんなところをネフィと一緒に回っているうちに聞いたのは、ネフィには婚約者がいるということだった。その人は聖女で、えっ、聖女がいるんだ……とちょっとがっかりした。だって私は神の落とし子だよ?だったら聖女にもしてくれたっていいんじゃないかなと思う。私のほうが絶対にすごいし、私以外に特別な人なんていらないのに。
ネフィの婚約者の聖女にもやもやしていたけど、ネフィはその聖女が好きじゃないみたいだった。聖女の地位を使って無理やりネフィの婚約者の座におさまったなんて信じられない!その人は国境の砦にいて国を守る仕事をしているけど、最近はあんまり成果が上がってないそうだ。それって詐欺じゃない?実は聖女じゃないとか。聖女が成果を出せないなら聖女なんて名乗っちゃだめでしょ。
そのうちに聖女のいる砦へ向かうことになって、私は絶対に「鑑定」してやると意気込んでいた。「鑑定」は嘘をつかない。偽物の聖女になんて負けないんだから!
砦にいた聖女は、正直すっごい美人だった。顔が小さくて髪の毛サラサラで目がぱっちりしてて、地味でダボっとした服で体のラインが分かりにくいけどきっとスタイルもいい。ネフィと同じくアニメキャラみたいな美少女だった。でもその衝撃は「鑑定」をすると吹っ飛んだ。
だって、「魅了」スキルを持ってたんだもん。絶対絶対コレのせいだよ!「魅了」でみんなを騙して聖女なんかやってるんだ、ありえない!
ネフィに伝えると、すぐさまみんなを集めて聖女を糾弾してくれた。聖女はあっさり「魅了」スキルを持っていることを認めたから、追放するのは超簡単だった。馬鹿じゃないの?それに砦の兵士たちも誰も聖女を庇わない。「魅了」で人を操ってるからよ、いい気味。
聖女は砦の外に追放されただけだけど、この辺りは強い魔物がうじゃうじゃいるからネフィの言った通りすぐ食べられて死んじゃうだろう。痛くて怖いと思うけど、聖女を騙ってたんだからこれくらいの罰じゃ軽いくらいだよね。ネフィも私も優しいんだから。
「ニーナ、君のおかげで偽の聖女を排除することができたよ。神の落とし子の君は本当に偉大だな」
「そんな、私は『鑑定』しただけだよ?大した事してないし……」
偽聖女を断罪したときの勇ましさも、今こうやって私をほめてくれる優しいネフィもどっちも素敵だ。頭を撫でられて、髪の毛に口づけられてぼうっとしちゃう。気障な仕草もネフィみたいなイケメンだったら似合っちゃうから困るよね。
「では次は君の強大な魔術を見せてくれないか?『死の地平』には魔物の親玉――『魔王』がいてな、その弱点は光魔術だと言われている。『超級魔術・光』のスキルを持つ君なら倒せるだろう。君はまさに神が遣わした救世主だよ、ニーナ。一緒に戦ってくれるかい?」
魔王がいるんだ!不謹慎にもわくわくしてしまった。私って勇者枠なのかな?そうに違いない。「鑑定」だけじゃなくって「超級魔術・光」も持ってるんだし!「超級魔術・光」はこの間も進路を邪魔してきたすっごい大きな魔物にぶちかましたら一発で倒せちゃったことがある。最強じゃない?魔王にだって負ける気がしない。
「もちろん!私に任せて、ネフィ!」
異世界召喚に、素敵な王子さまに、チート能力!これよこれ、こうじゃなくっちゃ!偽聖女はもう追放したし、あとはずっと私のターンね。それで最後はネフィと……。
幸せな未来を想像してほくそ笑む。このとき、私は間違いなく幸せの絶頂にいた。