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魅了聖女の決意

 ボスタウルスの縄張りから抜けたとわかったのはテラ・ヴェナ・ニム――毒を持つ大きな蜘蛛が現れたからだった。が、こいつは襲ってくることなかったのでほっとしてスルーした。だって毒だよ?怖いし刺されたら死んじゃう。

 そこから少し進むと荒野の中で草木が生えている小さなオアシスがあったのでこの日はここで休むことにした。

「飲み水は魔術で出せるけど、水浴びは湧水がないと厳しいもんね」

 泥まみれ血まみれになったことがないわけじゃないけど、この状態で寝たいとは思わない。ちょうどよく泉があってよかったと思いながら体を洗って、服も清潔の魔術(クリーン)と水で綺麗にして乾かした。

「……あなたも綺麗にする?」

 正直服を洗ってさっぱりした後に汚れたルプス・グランディスに乗りたくない、というのはある。ルプス・グランディスは意味を理解したのか、ざぱんと泉に飛び込んだ。びっくりしたが、どうやら泳げるようでバシャバシャと気持ちよさそうに水浴びをしていて安心した。泳げない子を「魅了」で水に入れるなんて絶対にやりたくないので、自主的なものだと考えておこう。


 ひとしきりバシャバシャやった泉の汚れは……まあ、気にしないことにして、清潔の魔術(クリーン)をかけてからルプス・グランディスを乾かしてやる。モフモフ度がアップしたルプス・グランディスの毛皮はものすごく気持ちよかった。日が暮れて寒くなってきたけどルプス・グランディスがいれば凍え死ぬことはなさそう。

 ご飯はルプス・グランディスが兎の魔物を狩ってくれたのと、オアシスの草木で済ませた。ボスタウルスの角は鋭利でナイフがわりにもなったから持ってきてよかった!それに砦の本で読んだ魔物の調理の仕方や草の見分け方がここで役に立つとは……。砦も魔物を食べて自給自足をしなくてはならないほど切羽詰まっていた時期があったと司令官は言っていたから、そのときの資料なんだろう。

 最近は忙しいのと体調が悪いのでご飯が食べられない時も多かったから、胃が縮んでいるのかちょっとだけですぐお腹がいっぱいになった。ルプス・グランディスがそんだけしか食べないの?みたいな顔(多分)をして肉を押し付けてきたけど遠慮しておく。


 ルプス・グランディスの体にもたれかかってため息をつく。今日はいろいろあったなあ、ありすぎるくらいだ。空に瞬く星を眺めながら思い返す。

 あの王子のことだ、私が「魅了」持ちの偽聖女だったことはあっという間に広めるだろう。辺境の砦にも王子とお気に入りの神の落とし子の話が聞こえてきたくらいだし。それで次はあの神の落とし子を妃にするとか言い出すのかな?何が名誉だあの最低野郎め。そんなん名誉どころか屈辱だっての。王子の妃にされたところであの王子に利があっても私にはない。むしろ害しかないわよ。

 とにかく、王子に広められるとアウルム王国で生きていくのは無理だろう。故郷に戻ったとして、私を受け入れてくれるかはわからないし。両親も元々は私と一緒に過ごしてくれなかった――「魅了」を使ってやっとこっちを向いてくれたような人たちだ。「魅了」がなくなれば私を見捨てるに違いない、砦の兵士たちと同じだ。


 唯一信じられるかも、と思うのは前の司令官だ。司令官は私を「魅了」込みで評価してくれた、と思う。司令官がいたころの砦の生活は悪くなかった。魔術や魔物のことだけではなく礼儀作法、あとは何に役立つかわからないけど雑学なんかも勉強もさせてもらえた。少なくとも魔術と魔物の知識で今助かっている。

 けど司令官が今どこにいるかすらさっぱりわからない。それに頼って迷惑をかけたくもないから、結局ウィリディス・マティスで自活する道しかない。


「とりあえず、ウィリディス・マティスで生活基盤を築く」

 指を一つ折る。魔の森を抜けた近くの町がいいかな、魔物が多いほうが冒険者としては都合がいいと思う。冒険者の数自体も多いだろうから、目立たないで済むかもしれない。


「『魅了』は、バレない程度に使う」

 もう一つ指を折る。魔物を倒すのにも「魅了」を使うし、だったら生活基盤を築く上で使うのもアリだと思う。でも深い関係にはならないようにする。仮にバレてもすぐ逃げ出せるようにしないと。

 「魅了」にはメリットとデメリットがある。結局「魅了」を使うことでしか自活できないのなら、デメリットも承知の上で生活に組み込むべきだ。中途半端にしか使わないのはもったいない。どうせバレたときに追放されるんだったら好き勝手したっていいでしょ。


「お金を貯める」

 三つ目の指を折る。これは逃げなきゃいけないときの資金だ。追放されるときのリスクは常に考えておかないと。

 あとは、目標と言えば司令官を探すとか?向こうが私を気にしているかは不明だけど、お世話になったし私が生きてることは伝えておきたいなと思う。とはいえすぐできることじゃないから、頭の片隅に置いておこう。


 私が生まれつき持っているスキル「魅了」。

 これを持っているから追放された。何も報われなかった。――そんなの許してなんかやらない。

 私は「魅了」を持っていることを後悔しない。このスキルを使いこなして、私が思うままに生きる。

 このスキルは、絶対に罪なんかじゃないんだから。

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