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誰が罪を犯したの?

 私はまず、神の落とし子に向き直った。

 アホ王子は正直どうとでもなる。問題はこの神の落とし子だ。魔王補を倒すのに、ウィルたちの力を借りてもギリギリだった。この人に魔王を倒すほどの能力があるとなると、力づくで無理矢理攫われるのが最悪のパターンだ。ルーと逃げることすらかなうかもわからない。

「あなた、ニーナといったかしら。戯言だって?王子に信じてもらえていないのね」

「聖女ステノ!」

「だって、『魅了』の能力持ちなんて普通聖女にしないでしょう?あなただってそう思わない?」

 アホ王子がくっかかってくるのは無視して神の落とし子を鼻で笑って見せると、彼女は顔を真っ赤にして私を睨んだ。

「だ……ッ、あんたがネフィを魅了してるからでしょ!」

「まさか。あなた、神から大いなる力を与えられてるんですって?そこの王子が魅了にかかってるかどうか、あなたならわかるんじゃないの?」

 さっき、神の落とし子は私の称号である「魅了の悪魔」を言い当てた。つまり、彼女のスキルはただの「スキル鑑定」じゃない。フェルドの「真名看破」も含むような、もっと上位のスキルだろう。

 もしかすると――全てのステータスを見通すような、そんなものかもしれない。だったら、アホ王子に使うように差し向ければいい。


 スキルは切り札で、努力の成果で、自分を映す鏡だ。「スキル鑑定」なんて全てを無神経に暴くようなもの、自分に向けられたいと思う人はいない。アホ王子なんか尚更、絶対あの女に「鑑定」されたことなんかないはず。

「なっ!ニーナ、やめ――」

 想像通り、神の落とし子に見つめられたアホ王子はたじろいだ。顔色が悪いのは気のせいではないはず。そうよね、今から隠していた全てを暴かれるのだから――!

「う……うそ……どういうことなの、ネフィ!」

 そして想像通り、神の落とし子はアホにスキルを使い、狼狽えた。何が見えたのかしら?

「『女を騙す蛇』――なんて――私を騙してたの?!」

 蛇?首を傾げる私に、ウィルがそっと囁いた。

「蛇は詐欺師の象徴だ。特に、女を騙し唆すものだな」

「へえ。じゃああの男、神の落とし子以外も騙していたのかしら」

「そうだろう」

 王太子とはいえ、あんな見るからに悪意のある男に騙される?と思ってしまうけど、貴族は違うのかもしれない。私には一生わからない考えね。


 さて、ヤバめの称号をバラされた王子は、すぐに取り繕うにように笑顔の仮面を被った。

「何を言う、ニーナ。私が君を騙してなどいないことは君が一番わかっているだろう」

「わ……、わかんないよ!最初は優しかったけど、あの魔王を倒してから全部うまく行かなくなったじゃん!」

「あれは私にとっても想定外だ!私は……ッ、そこな聖女に騙されたのだ!」

 仲間割れを始めたと思ったら再度私に話が飛んできた。いやいや、さっきまで私を連れ戻そうとしてたくせにやっぱり人に罪をなすりつけるわけ?ボロッボロにボロが出てるんだけど。

「騙してなんかないわよ。神の落とし子、あなた都合の悪いものは見ない目をしてるんじゃない?」

「な、なんの……」

「『魅了の悪魔』の称号が見えたなら、もう一個も見たはずでしょ?」

 さっき称号を言い当てたんだから、わかるはず。神の落とし子は唇を震わせた。

「『砦の守護者』……」

「な……、やはり、聖女なのだろう?!」

 アホ王子が目を輝かせるけど、コイツ、わかってないわね。

「じゃあ私が騙してたわけないわよね。あんたたちが、勝手に私に罪をなすりつけて追放した。いいえ、処刑した」

 神の落とし子がひっと息を呑む。今更ひとを処刑したことに罪悪感でも覚えてるのかしら?……それはありえるかも。

 神の落とし子には軍人然とした雰囲気はない。どっちかというと、アホ王子の部下と同じ貴族みたいな感じ。この人、強大なスキルはあっても戦い慣れていないのかも。それにしては平民の私を処刑したことに罪悪感を覚えるのは妙だけど。

 でも、これは使える。

「しょ、処刑って……生きてるじゃない!」

「殺す気だったんでしょ?その上あんたたちは魔王を殺して砦を落とした。そのせいで何人が犠牲になったのかしら?今も死の地平で何人が死んでいると思っているの?」

「……ッ、わ、私はッ、ただネフィの言うこときいて……」

 予想通り、神の落とし子は真っ青になってアホ王子に罪をなすりつけようとしはじめた。やっぱり貴族の甘ちゃん思考ね。

 と、思ってたら、神の落とし子は予想外に反論した。

「そ、それに!あそこには結界を張ったもん!『聖剣』を使って……!私はちゃんと護ったんだから!」

 聖剣?あ、砦にあったやつ?持ち出したの?

「ああ、お前が身につけていたものか。ないと思ったら神の落とし子の結界の媒介にしていたのだな」

 司令官がアホ王子を見てそう言うので、なるほどあいつが持ち歩いてたのかと納得する。まあ私は全然覚えてないんだけど、司令官が言うならきっとそうだ。

「だが結界は張って終わりではない。魔力を注ぎ続ける必要がある。神の落とし子が張るようなものなら、君にしか維持できないだろう。なのになぜ、君がここにいるのかね?」

「え……、だ、だって……魔力を注ぐのは私じゃなくてもいいって……」

「奇跡のような大規模結界だぞ?君の代わりに何人もの無辜の民を使い潰しているわけだな」

 司令官も、私が神の落とし子の罪悪感を煽ろうとしているのはわかってくれたらしい。冷たい言葉に神の落とし子は身を竦ませ、「だって……、」と繰り返すだけだった。

「何を言う、私を守るのにニーナの力が必要だっただけだ」

 ついでにアホ王子が墓穴を掘ってくれた。これでもう、コイツへの信頼は地に落ちただろう。


「こんな男に尽くさせられて、かわいそうに。でも自分が悪いことはわかってるんでしょう?」

「あ、ちが……、わたしは……」

 神の落とし子が泣きそうな顔でこちらを見る。私を断罪したときのような、自信に満ち溢れた姿ではもうなかった。ゆらゆらと揺れる瞳をしっかり捉えて、私は口にした。


「だったら――死の地平に戻り、結界に魔力を注ぎ続けなさい」


 途端に、魔力が、体の中のものがごっそり全部持っていかれる感覚に襲われた。

 フェルドに聖剣を取らせた時よりもずっとキツい。でも敵にそれを悟らせるわけにはいかない。私は微笑んだまま、「魅了」にかかった神の落とし子を見る。

「わ……わたしが……わたしがやらないと……」

 ぶつぶつと呟く神の落とし子は、ゆらりとアホ王子に向き直った。

「ネフィ、わたし、戻らないと……!」

「に、ニーナ?」

「わた、私のせいだから……私が、結界を、しないと……」

「どういうことだ。私がいいと言っているのだ、私に従わないか!」

「ネフィは私を騙してたじゃない!」

 神の落とし子から魔力が漏れ出る。それはまるで威圧のようで、私は冷や汗をかいた。ルーも唸っているけど、手に握る汗はちっとも引かない。こっちはもうほとんどすっからかんなのに、相手にはここまでの魔力が眠っているのだから。

 でも、これは最後のチャンスだ。アホ王子も神の落とし子の魔力に当てられて、私が魅了をかけたなんて思ってないっぽい。力を使うならきっと今!

「ア……、王子!助けてあげてもいいわよ!」

「ステノ?!」

「ッ、聖女!ようやくわかったか!」

 ウィルとアホ王子が同時に声を上げる。ウィルには目配せをした。大丈夫、血迷ったわけじゃないから。

「私の言うことを聞くならね!」

「く……、王妃の座なら……」

 いやこの後に及んでいるわけないでしょそんなもの!ああもう神の落とし子の威圧が強くなった!この期に及んでこのアホ王子に惚れてるわけ?!

 まあいいわ。もう、この一言で決まるから。

「いいえ。――あんたは自力で、砦を取り戻すのよ!」


 その瞬間、王子の顔から全ての表情が消えた。

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