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VS三つ首竜

「――水よ、刃となれアエス・グラディトゥス!」

 私の号令に真っ先に応えたのはウィルの魔術だった。飛んでいく水の刃は三つ首竜に当たる――が、ダメージが入った感じはない。

「無傷?!」

 そりゃ他の魔物みたいに簡単にいくとは思ってなかったけど!竜だけあって硬いわね。

「というか……デカすぎる……」

 三つ首竜が近づいてくるにつれてその大きさがそもそも異常だというのがはっきりわかった。三つ首竜は「竜」だけど、「竜」の中で特別強いわけではない。大きさも二、三メートルだと聞いていた。

 なのに、目の前にいる竜は、どう見ても五メートルはある。流石に倍は聞いてないって!

「魔術は効きにくいっぽいな。仕方ねえ、フェルド、お前の魔剣がダメージソースだ。ロサも光魔術でカバーしてくれ。僕は足止めと攪乱をする」

 そしてチラリと私に視線をやるので、私はウィルに向かって頷いた。私は支援係だ、動きがわかっていれば良い。ルーはこちらにくる攻撃を捌く。

「了解!」

「ええ」

 ようやく三つ首竜が剣が届く位置まで近づいてくる。それを見てウィルは手をかざした。

「ウィル!妨害!」

氷よ壁となれ(グレイエス・パレイス)!」

 三つ首竜の頭上に大きな氷が浮かび上がる。驚いたのか、三つ首竜は「ギャア!」と声をあげて勢いよく下降してきた。

「フェルド、斬っちゃって!」

「――ああ!」

 迫り来る三つ首竜自身の勢いを利用してフェルドが斬りかかる。しかし相手の反応も早い。直撃したようには見えなかった。

「これ以上は行かせません!光よ、盾よ(スクートゥナ)!」

「逃がすか。爆ぜよ(フラルゴ)!」

「ちょこまか動くんじゃないわよっ!」

 斬りかかられて勢いは落ちたものの、このままこちらに来そうな三つ首竜をロサが光魔術で制し、竜の背後にフェルドがすかさず攻撃を放つ。私も「魅了」で少しでも動きを封じようとしたけど、歯応えがあまりない。

「はああっ!」

 とはいえある程度鈍った三つ首竜にフェルドが斬りかかった、けどやっぱりあまりダメージにはならなかったみたいだ。


「ダメです!普通に斬ってもダメージが入りません!顔を狙います!」

「真ん中以外にしろよ!」

「目玉二つありますから一つは勘弁してください!」

「お前狙いが雑なんだからダメだ!」

 なんだか緊張感がないやり取りを挟みつつウィルの援護を受けてフェルドが跳躍する。狙いは一番右側の首っぽい。その隙にロサが別の二つを囲い込んでいた。

「ロサ!阻止して!」

光よ、盾よ(スクートゥナ)()阻むものよ(グランデ)!」

 いつもより大きな光の盾が顕現する。分断された残りの頭にフェルドの炎の魔剣が薙ぎ払われた。

「うおおおおっ!」

 凄まじい炎の勢いに流石に一つはやっただろう――私たちは期待を以て見上げる。


 しかし、炎を振り払ったその首は、まだしっかりと両目を開けていた。

「うっそでしょ!」

「こいつ……フェルド!なんかおかしい!『真名看破』だ!」

「竜」とはいえ魔剣がほとんど効かないなんてあり得るのか。一旦下がったフェルドはウィルの言葉に従ってスキルを使ったみたいだった。

「……っ!これは!『魔王補』です!」

「まおう……ほ?」

 一瞬どんなものかわからなかったけど、すぐに頭の中で変換された。つまり。

「魔王ランクですわね。魔術耐性が強いのはそのせいかしら」

「マジで『魔王』なの!?」

「あくまで『魔王』になる可能性がある魔物、だ」

 あんなに堂々と「魔王なんかじゃない」とか言っちゃったのに!空気読みなさいよ!

 内心毒付いてみるものの、「魔王」クラスが来てしまったこと自体は仕方ない。わかるのは中途半端な攻撃は通じないということくらいだ。

「ってことは――」

 私は前の魔王を思い出す。司令官の方針があったので直接戦ったことはないけど、知識としてどんな魔物かは知っていた。

 魔術の耐性が強いのは当然だけど、もう一つ、「魔王」には特徴があった。


「ヤバい!あいつ、魔術使うわよ!」

 私が叫んだのと、三つの首がそれぞれ魔力を貯め始めたのは同時だった。三つ首だから魔術三つ同時展開できるのは流石にズル過ぎる!

「撤退!」

「ロサ!守って!」

「わかっていますが……!」

 ウィルの号令で全員下がって固まるけど、嫌な予感が拭えない。私はウィルにも「魅了」をかけた。

「なんとか相殺して!」

「できれば苦労せんが僕は三人もいないんだよ!水よ(アエス)!」

 光に加えて水の盾がいくつもできる。しかしそれでも、三つ首竜がついに放った魔力弾は強力だった。

「ぐ、う!」

 押されながらロサが苦しげな声を上げる。たぶんだけど、A級冒険者三人だけならこの場を切り抜けるのはそんなに苦労しなかったんじゃないだろうか。わざわざ攻撃を受けて凌ぐ必要があるのは、私がいるからだ。


 拳を握る。絶対に負けないと言ったのに。


「っ!リア様!」

 頭上から降ってくる魔力弾たちにフェルドが反応して魔剣で弾き飛ばす。しかし量が多い!私もウィルの前に出た。

「おい、ステノ!」

「治癒術師がやられたらおしまいでしょうが!後は頼んだわよ!」

 なんだかやたら頭が冴えていた。どこに降って来るのか、どうすれば魔力弾を避けられるのか、どうしてかわかる。でも今するのはウィルを守ること、戦力を温存すること。ルーにも動かないように言ってウィルを突き飛ばした。

「ステノ!」

「ぐっ!」

 「身体強化」を使っても結構なダメージだ。もうちょっと体鍛えておけばよかったかもしれないと思いながら地面に倒れる。すぐにウィルの治癒の光を感じた。見えないけど魔力弾はそろそろ弾切れらしい。

「クソ!魔術の連発はおそらくできない!治癒が終わったら撤退――」

 ウィルの言葉を遮りたいけど内臓に響いたせいか声が出ない。というか骨いったかも。代わりに腕をぐいと掴む。

「ステノ?」

「……、ぃ、」

「おい!」

「撤退は……しない!」

 なんとか声を絞り出してウィルを睨む。彼は顔を歪めた。

「このままだと碌にダメージも入れられねえまま、また魔術で押されるのがオチだ!」

「だから……一発で決める」

「どうやって」

 そんなの答えは一つしかない。私はニヤリと笑みを浮かべた。

「――聖剣を、取るわ」

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