表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/47

A級冒険者の実力

 「魔の森」を越えるのはあっという間だった。というかこれまでも、最初に来た時以外は「魔の森」で迷ったことはない。これはひとえにルーのおかげだ。

「使い魔とはこうも優秀なものか」

 ウィルも感心していたが、冒険者をやるには方向の感覚に優れていなくてはならない。森に行くにしても、そもそも街から街へ移動するにしたって今どこで何をしているかわからないのは命取りだ。想定外の場所に迷い込んでいて強い魔物と遭遇してしまったり、遭難して予定より時間がかかってしまい物資が足りなくなってしまうこともある。

「『魔の森』に限らないが、魔力の豊富な森は方向感覚を迷わせる植物が生息しがちだからな」

「迷わせて森の養分にするの?怖っ」

 ウィルたちが「魔の森」の踏破に手間取っていたのは魔物が強いのもそうだがこの方向感覚がわからなくなってしまう問題もあったらしい。

 その点ルーがいる私はかなり有利だった。見通しが悪い「魔の森」だってルーがいれば迷わずに抜けられる。普通に移動するときもルーにお任せすればほぼなんとかなるしね。テイムできて本当に良かった!


 さて、「死の地平」にたどり着いてすることと言えば拠点の確保だった。これも私が、というかルーがオアシスの場所を知っていたのですんなりいった。移動が徒歩だから、そこは時間がかかったけれどしょうがない。

 道中で何体かの魔物に遭遇したけれど、どれもウィルたちは危なげなく撃退していた。私がしていたのは「魅了」での後方支援くらいだったから、彼らは実際ルーと同じくらい強いのだと思う。


 拠点を構えてからの展開は早かった。オアシスの近くで早速テラ・ヴェナ・ニムをみつけることができたからだ。

「あれが……」

「テラ・ヴェナ・ニムの危険性はその毒ですわ。煙状のものと液状のもののどちらも使いこなします」

「ここは()ではないようだが、糸を伝って毒を撒くこともあるらしい。足元には気を付けよう」

 ロサとフェルドの言葉に頷く。

 基本的な陣形はロサとフェルドの二人が前衛、ウィルと私、それにルーが後衛だ。今回私はほとんど魔術を使わない。魔術が届く距離にいると毒を浴びてしまうからだ。使うのは「魅了」だけ。ウィルほど技量がないから魔術は届かないんだよね……。

 これまでも三人は似た陣形で戦っていたけれど、ウィルの安全確保のために前衛と後衛の距離はそう離せなかった。でも今はルーがいるおかげで、突撃することが可能だ。

「中級の毒消し(アンテウェヌム)はかけてあるが長くはもたねえ。毒煙なら大丈夫だと思うが、原液はきついだろうな。食らったら即撤退だ」

「わかりましたわ。わたくしが盾で液と足元をカバーしますから、フェルド、ほかはすべて避けてちょうだいね」

「了解。最終目標は毒袋だ、脚を削ぐ方向でいこう」

 多分毒を持つ魔物の対処で一番簡単なのは毒を持つ器官を狙って使えなくすることだと思うけど、今回はそうはいかない。その上毒を使い切るまでに倒さなきゃいけないのでハードだ。


「準備はいいか、ステノ」

 作戦を確認し、ギリギリ襲われない位置まで近づく。ここからなら魔術が届くらしいウィルもびっくりだけど。

 私は息を吸って、吐き出した。

「もちろん。いくわよ、突撃ッ!」

 ロサとフェルドを見据えて意識して「魅了」をかけると、二人は獲物を構えて駆け出した。一時的に加速しているおかげでテラ・ヴェナ・ニムの反応が遅れるが、フェルドの剣が届く前、テラ・ヴェナ・ニムの毒煙が撒かれる前にウィルの魔術が炸裂する。

「ウィル!やっちゃって!」

水よ、刃となれアエス・グラディトゥス!」

 砂をわずかに巻き上げた水の刃がテラ・ヴェナ・ニムを襲う。直撃はしなかったが、よろけたところにフェルドが剣を振るったのが見えた。

「一本ッ!次!」

 魔剣は炎をまとっているのが見える。一応多属性魔剣ということらしいけど、フェルドは火属性バージョンしかつかえないのだとか。もったいない。

 しかし一撃で斬り落とし、二撃目に移る動きはなめらかだ。一応当たったものの、全体の四分の一くらいしか落とせていないのでテラ・ヴェナ・ニムは踏ん張って二人を振り返った。

「毒来ます!」

「守って、ロサ!」

光よ、盾よ(スクートゥナ)!」

 ロサの小盾から光がほとばしって毒液を弾く。ちなみにロサの使える光魔術はほとんどこういう防御系らしい。

「あ、馬鹿!」

 と、フェルドがロサの後ろから跳躍したのを見てウィルが悪態をつく。カバーしてもらってんだから毒攻撃終わるまでおとなしくしてなさいよ!私とウィルはほぼ同時に動いていた。

「フェルド、斬り落とせ!」

水球満ちよ(アエス・アケスス)!」

 毒がかからないようにウィルが水の球を浮かべ、それを見てフェルドはにやりと笑って反対側の脚をまた一本切り落とした。いいんだけど、なんでロサと離れちゃうわけ――え!?

「こっちがお留守ですわ」

 水の球が浮かんでいる間にロサも槍で関節を貫いていた。なんとも言えないテラ・ヴェナ・ニムの苦悶の呻きが上がる。

「すっご……」

「二人とも先走りすぎだ。まあいい、爆ぜよ(フラルゴ)!」

 突然ウィルが火魔術を放ったと思うとテラ・ヴェナ・ニムの周囲が何か燃えだした。あれは……糸?

「ここからよく見えるわね!」

「フェルドの剣から炎が変に伸びただろ」

「いや、わかんないから」

 さすがA級冒険者。観察眼も一流だ。しかも詠唱も短いし……。なんか自信なくなってきた……。


 そんなこんなで順調に八本の脚を切り落とすことに成功し、毒袋の採取も無事に完了した。袋の中の毒をこぼさないように切り取るのにウィルの手が毒で焼け爛れたようになったのはちょっとグロかった。

「俺がやりましたのに!」

「フェルド、うるさい。どうせ誰がやっても腕は使い物にならなくなるんだ、お前の腕が使えなかったら飯どうするんだよ」

「心配するのそこですか!」

「それに治癒するのは僕自身なんだから、一人で完結した方が楽だろ」

「……ステノ嬢」

「はいはい。ウィル、治癒して」

 すがるような目で見られたので「魅了」をかけたけど、中級治癒術でも一気に治らなさそうだった。ウィル、平気そうにしてるけど相当痛いはずだ。

「痛み止めの腕輪を借りてるから平気だ」

 顔に出てたのかそんなことを言われるけど痛そうなもんは痛そうだし。

「それ止めるの痛みだけですよ?リア様、あとはわたくしたちにお任せになってね」

「わかってるよ」

 オアシスへ戻るのにはルーを先頭にするので、つゆ払いくらいなら私とルーの二人で大丈夫そうだ。フェルドとロサも疲れているはずだもの。

 意気込んだ割にそんなに役に立たなかったかもなあと凹んだけど、ルーは活躍してくれてるし……。

 従魔の活躍は主人の活躍!うん、そう思っておこう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ