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レッツ・クエスト!(失敗編)

 結論から言おう。

 私は失敗した。以下がその結果と原因である。

 そのいち。料理がまずい。

 食器を持っていくだけでロクな料理はできない。調理道具を持っていきましょう。そして料理を勉強しましょう。私、魔物の捌き方と食用部位は分かるけど実は料理できないんだよね……。ここしばらく宿屋のおいしいご飯を食べていたことも敗因と言えます。

 そのに。ルーのモフ度が下がった。

 これは単純にブラシを忘れたのが悪かった。ルーもブラッシングタイムがないことを不満そうにしていたし、クエスト中頑張っているルーへのご褒美だからこそ野営に持っていくべきでしょう。

 そのさん。雨が降ると詰む。

 木のうろとかありますけどね、防水性ないんだわ。そして地面がぐっちゃぐちゃになるの。これどうすればいいの?しかも火がつかないので食事もできない。


 限界サバイバルを経ても野営には学びが沢山ある。二日目の夕方、びしょ濡れになった私が取った行動は単純に町への帰還だった。

 大きなルーに乗って町まで走っていく。そしてここで誤算だったのは、これまで町の誰にも大きなルーの姿を見せていなかったということだ。フェルドたちと移動した時も森を出たらルーは小さくしていたから……。

 現れたルプス・グランディスに門兵はパニックになり、冒険者ギルドの戸を叩いたらしい。そして冒険者たちが門に集まる。私がルーから降りる。うん。

「……あなたの従魔、ルプス・グランディスでしたか……」

 ツウェルさんが呆然と呟く。きっとその場の全員の心を代弁していただろう。

 失敗そのよん。ルーの正体がバレた。


 私はその後ダッシュで宿に戻り浴室でルーと一緒にあったまって着替え、宿屋のおいしいご飯を食べて就寝したけどギルドは大騒ぎだったらしい。悪いことをしたかもしれない。

 しかしあれだな。一晩寝て冷静になった私は気づいた。野営、しなきゃいいじゃん。野営が必要な依頼を受けなきゃ問題ないのでは?悪天候の中わざわざクエストに出る必要もない。

 このクエストも三日の朝昼晩の魔物の動向を調べればいいだけだから、何も三日連続でしなくてもいいわけだ。森に行って徹夜して、帰って寝て、また行っての繰り返しなら五日間で終わる。天気を加味してもだいたい一週間程度の依頼だろう。

 その場合、お弁当を持っていけば野外調理をしなくてもいいし。ルーのご飯は嵩張るから現地調達がベストだけど。

 起きても雨だったので、その日はダラダラ室内で過ごしつつ報告書を途中まで書き、次の日の夕方に再び「魔の森」へ向かった。予定通り徹夜と休息を繰り返して調査と報告書の作成を完了する。そんなわけで次にギルドに行ったのはクエストを受注した日からちょうど一週間後だった。


 私がギルドに足を踏み入れた途端、シン……とあたりが静まり返る。視線はどちらかと言うと私ではなくルーに向けられていた。ルプス・グランディスがよほど珍しいらしい。

 受付に行きクエストの完了証明をしたい旨を伝える。今回は調査なので、レポートを確認してもらって完了証明をしなくてはならない。

「すっ、ステノさんですね。ええと、ツウェルさんを呼んでくるので待っててください……!」

 今回の調査依頼はツウェルさんから出ているので話は簡単だ。受付の男性が引っ込んでしまったのでぼんやり待っていると、次第に周りの声も戻ってきた。やっぱりルーが気になるみたいだけど、私に話しかけてくる人はいない。

「ステノさん、お待たせいたしました。先に会議室へ案内すべきだったんですがねえ、すみません」

 ツウェルさんはそんな発言と共に登場し、私を会議室に案内してくれた。確かに、前フェルドたちと来た時は先に会議室へ案内してくれたものだった。

 ナメられているのか、それとも極端にビビられているのか、あるいは仕事ができないだけなのか。この辺なんて冒険者も多いだろうにギルドの人たちが私程度にどうしてここまで反応するのか謎だ。首を傾げながら案内されたソファに座る。


「調査ありがとうございました。雨が降って大変だったかと思いますが……」

 向かいに座ったツウェルさんが言いたいことが理解できたのでとりあえず謝っとくか……。騒動を起こしてしまったあと丸投げして帰りましたからね、なんも悪いことしてませんけど。

「不慣れなもので、お騒がせしました」

「いえ、ルプスは『収縮』していると種族が分かりにくいものですから。このルプス・グランディスは『死の地平』からお連れになられたのですか?『魔の森』にルプス・グランディスがいると問題になりますのでお聞かせください」

 確かに「魔の森」にいたら嫌だよね。仕方ない、ここは素直に答えるか。

「ええ、『死の地平』で出会った子です。ですが、これは……あまり他言しないでくださいね?」

 細い瞳を見つめながら「魅了」を軽く発動する。そこまで強制力はないが、これで言いふらすことはないだろう。ツウェルさんは不自然に固まることなく頷く。……うーん、効いてるのか不安だ。もともと口が軽いタイプじゃないと思いたいけど。

「承知しました。では、レポートのほう拝見します。お茶を用意させますのでしばらくお待ちください」

「ええ」

 ツウェルさんがレポートに目を通し始めてすぐにギルド職員の人がお茶とお菓子を持ってきてくれた。変なものが入っていると困るのでお菓子は一つルーにあげたけど、嫌がらず食べていたので平気だろう。毒見させてごめんよ。

 こうして待っているとなんだか砦にいたころを思い出す。ツウェルさんは読むのが結構早いけど、戻ったりしているから大丈夫だったか不安になった。


「……わかりやすい報告書でした。以前同様の仕事をされていたことがおありで?」

 読み終わったツウェルさんの採点は合格っぽい。ほっと胸をなでおろす。

「ええ、似たような経験はあります」

 魔物の調査に限らず、魔石や薬などの消費の集計や購買への事務仕事もやった経験がある。司令官はそういう細かいチェックが妙に早くてしかも厳しかった。王子の側近はガバだったけど。あとで計算ミス見つけて冷や汗かいても誰も指摘しなかったからね。あの差額、誰の懐に入ったんだか。

「なるほど。ついでにここで採取物の買取も済ませておきましょうか?」

「お願いします」

 調査ついでに採取したのは日持ちするものだけだが、それなりの量になっている。採取袋を持っているのもあって申し出てくれたんだろう。ツウェルさんは買い取り担当の職員を呼んで目の前で査定してくれた。ギルド受付の査定所は混んでることもあるから、個別対応はありがたい。

 その間にクエストの報酬は別で受け取る。D級がC級の依頼を達成するとポイントにプラスが付くので、結構たまったなあという感じだ。

 ポイントがたまった冒険者証を返しながらツウェルさんはあらかじめ考えていたのだろう提案をしてくれた。

「ステノさん、よければ引き続きC級の依頼を受けてもらえませんか?あといくつかこなしていただければこちらからC級昇格の推薦を出すことができます」

「喜んで!」

 いやあ、ツウェルさんいい人!そしてコネを作ってくれたフェルドたちに感謝。ル・ボルアも結果的にあそこにいてくれて助かりましたね。運がいいなあ、私。

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