レッツ・クエスト!(油断編)
毎日黙々とギルドに通い詰め、簡単なクエストを受注しこなすのを繰り返していれば二週間で無事にランクアップすることができた。D級までは簡単なようだ。「魔の森」に行くクエストがあるのはC級からだけど……。
ギルドに行くたびに知らない人に声をかけられたが、それは全部「魅了」で足止めした。他にもたくさん人がいる中でやっているのに、よくまあ何度も声をかけてくるものだ。「魅了」の加減もわかってくるとそろそろうざったい。
とか思っていると、ある日副ギルドマスターのツウェルさんに話しかけられた。彼を見るのはル・ボルアの討伐証明以来だ。
「お久しぶりです、ステノさん」
「ええ、お久しぶりです」
一体何の用だろう?副ギルドマスターの登場に周りもざわついている。
「実はステノさんに依頼したいクエストがありましてね。『魔の森』の調査なのですが」
「……あら」
ツウェルさんの言葉に私は片眉を上げた。まだD級に上がったばかりの冒険者に頼む依頼ではない。そう思ったのか、誰かが声を上げた。
「ツウェルさん!この女は最近入ってきたばかりですよ。なぜその依頼を出すんですか」
「――ハァ」
大柄な男性だ。ツウェルさんはひょろりと背が高いけど細身なのでその大柄な冒険者と相対すると頼りない印象を受ける。
だが、彼が引くことはなかった。
「これは副ギルドマスターの私の判断ですよ。何せここのところ彼女にちょっかいをかける愚か者が絶えないのでね。『誰が彼女を落とせるか』――そんな馬鹿らしい賭けをしているのがバレないとでも?」
「それは……ッ、誤解だ!」
落とせる、ってつまり私の気をひいて遊ぼうとしていたということ?ふーん、いい度胸じゃない。誤解だとかなんとか言うけど、私を何度も煩わせたのは事実だ。
「複数の証言があるのですからその言い訳はききませんよ。そもそもステノさんはフェルド殿が認める腕を持っておられます。あなた方の助けなど要らないのですよ。これ以上邪魔をすると言うならギルドの権限で裁かせていただく」
ギルドは冒険者間の揉め事を仲裁したり罰したりする権利を持つので、そのことを言っているのだろう。大柄な男は「『魔剣士』フェルドの……!?」などと驚いているけど、フェルドってそんな称号持ちなんだ。
「確かにフェルドやロサと一緒にいるところを見たぞ」
「ああ、ル・ボルア討伐の日だよな……」
「本当にフェルドと知り合いなのかしら?彼女」
好き勝手喋り始めた野次馬は放っておいて。私はツウェルさんに向き直った。
「依頼は受けます。今から行きますが、いいですか?」
「ええ、お願いしますね。ステノさんが戻るまでに躾は終わらせておきますから」
にこやかに言うけど、躾って……。私に対して冒険者たちが迷惑行為を働いたことへの謝罪なのだろうけど。フェルドたちと一緒に行動していたことがバレたけど、ル・ボルア討伐をしたというよりはまだ目立たないだろう。ま、仕方ないわね。
それにそろそろ「魔の森」で採取した魔石も売りたかったのでこの依頼は渡に船だ。だって思ったよりお金使うのよね、冒険者稼業。装備を揃えたのもそうだし、ポーションとかお弁当とか、毎回買っているとお金がかかる。そしてE級の報酬は雀の涙だ。
クエストは自分のランクより一つ上のものなら受けることができる。なので元々C級の「魔の森」依頼は受けたかった。そこに副ギルドマスターの口添えがあれば、魔石を何個も持ち込んでも不審に思われないだろう。
ギルドを出て改めて依頼票を見る。「魔の森」の調査は生息している魔物の数や種類を報告するものだった。きっと大規模発生なんかの兆候を見逃さないようにするための依頼だろう。ル・ボルアを倒したばかりだから、何かあっても困るし。
範囲はル・ボルアが塞いでいたあたりまで。基本的には道の周辺で調査をするものだから簡単だ。期間は朝昼晩三日間――泊まり込みってことね。
「ルー、ちょっと食器と調味料だけ買って行きましょうか」
「わう」
「魔の森」での泊まりは経験済みだ。案外寝る場所はあるし、テントはいらないかな。ご飯は現地で確保できるのでおいしくする工夫だけ準備すればオッケー。
一度限界サバイバルを経験した私は「魔の森」で夜を明かすハードルが下がりまくっていた。なのでロクな野営準備もせずに、さっさと「魔の森」に繰り出したのだった。