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レッツ・クエスト!(成功編)

 結局、日用品や装備を揃えるのに丸五日かかってしまった。仕方ない、所持品ゼロからのスタートだったんだし。宿の部屋もいろいろとものが増えてしまったが、それなりに広いのでまだ平気だ。とはいえずっと宿暮らしもお金がかかるので住むところを考えなくてはならない。

 さて、散財三昧で楽しいだけの人生は持続可能性がないので今日は冒険者ギルドへ行く予定だ。購入した装備を身につけ、鏡で全身を確認する。森に入っても平気な革のジャケット、下も分厚い生地のズボンに硬いブーツを選んだ。腰回りに身につけるポシェットもあり、魔石や採取袋を入れておける。


 ちなみに、ここ数日ボスタウルスの角をウィルからもらった布に包んでおいていて気がついたがあれはただの布ではなかったらしい。不思議なことに布に包んだものが、布を畳んだ体積と質量より大きくならないのだ。これまでコインを包んで持ち運んでいて確かに軽いとは思ってたけど、そんなマジックアイテムだったなんて……。マジックバッグほどじゃないけどレアでしょこんなん。今度会った時に返そうと思い、洗って畳んで持ち運ぶことにした。

 ルーは従魔の証の首輪をつけ、なんだかご機嫌に見える。今日はクエストを受けるよと伝えていたせいかもしれない。ここ数日は散歩しかしてなかったからルーには物足りなかったのかも、従魔には適切な運動(せんとう)が必要なのね。気をつけよう。


 ギルドで登録した冒険者にはランクがつき、そのランクに適したクエストを受けることができる。そうしてギルドへ貢献することでポイントを貯めるとランクが上がり、より難しいクエストを受けられるようになる。

 それ以外にもその辺の魔物を狩って魔石や素材を収集すればそれを売って稼ぐことも可能だが、クエストを受けた方が効率はいい。需要があるからクエストが出てるわけだしね。討伐そのものを目的としたクエストなら、討伐報酬が出るのに加えて素材は売るなり使うなり自由にすることもできる。この間のル・ボルアはそのタイプなので魔石は討伐証明にのみ必要だったのだろう。

 私はE級のクエストから薬草採取を受けることにした。野草の見分け方ならわかるし、簡単だろう。これは「魔の森」に入る必要はないクエスト――というかE級は「魔の森」に入るクエストがない――だけど、ちょっと寄ってみてどんな魔物が出るかみてこようかな。ルーの遠吠えで森のこっち側の魔物は全く見かけなかったし。

 受付でクエストを受注し、いざ行かん――と意気込んだのだったけど。

「君、見ない顔だね。初心者かな?」

 知らない人に話しかけられた。デジャヴ。

「そうよ。じゃあ」

「ちょ、ちょっと待ってよ!なあなあ、俺たちと一緒に行かないか?いろいろ教えてあげられるから」

「結構よ」

「そんなこと言わずに。後で困るのは君だぜ?」

「……」

 ギルド内ってナンパ可なの?チラリと受付に視線をやると、気づいてはいるみたいだけど他の冒険者の対応で忙しそうだった。期待できないなあ。

 私の行く手を阻むのは背の高い男性冒険者二名だ。装備の質は、中の下といったところ。私の方がいいもん使ってるわね。

 二人か。行けるか?人目が多いのは嬉しくないのだけど。軽くかけられるかな。

「邪魔だから、退いてくれる?」

 睨みながら言うと二人は急にぎこちなく後退り始めた。「あ、え……」とかなんとか口籠る横を通り抜けて建物を出る。

 ――今のはなかなかうまくいったのでは?「魅了」は強くかけすぎると相手の顔から感情が消えるので側から見て「何かした」というのがわかりやすいのがネックだ。けど一瞬怯ませるくらいなら不自然じゃないだろう。複数人相手にうまくいったし、魔物を立ち止まらせるのと似たようなものね。

 人間相手に「魅了」を使うのはリスキーだけど、能力を把握する必要はある。なんだか妙に声をかけられるのは私が一人だからなのだろうか。ルーもいるのに、失礼な奴らね。

 とにかく今後こういうことがあったら遠慮なく「魅了」を使ってやってもいいかもしれない。こういう使い方は「魅了」っぽくないので、もしかしたら別のスキルと判断されるかもしれない。そうしたら儲け物だ。


 その後の薬草採取は、薬草の生えている場所を見つけるのが簡単すぎたので先に「魔の森」へ行くことにした。採取した薬草はすぐにギルドへ持って行った方がいいだろう、萎れていたらきっと評価が下がるだろうから。帰りに戻ってくることにして徒歩で「魔の森」へ向かう。

 この間通り抜けた時とは違い、確かに生き物の気配がする。特にテラ・ニム――蜘蛛の魔物や、ル・ボルアを小さくしたような木のゴーレムを多く見かけた。この小さな木のゴーレムはラム・ボルアという。これまで「死の地平」に棲んでいる魔物にしか詳しくなかったけど、直接何種類か見たおかげでスキル「魔物図鑑」が芽生えていた。これは魔物の情報を記憶することに対して補正がかかるスキルだと思われる。現に町の図書館でサラッと読んだ魔物についてもよく覚えていた。

 これ、できれば砦にいた時も欲しかったなあ〜。司令官に言われていろんな魔物の情報を必死に記憶して報告書作成を手伝ったのだけど、私自身は前線に立つことが少なかったから魔物の姿を見る機会は多くなかった。もう少し前線に出ていればスキルが身についたのかも知れなかったのに。

 とまあ、過去を振り返っても仕方ない。ラム・ボルアやらテラ・ニムならルーが大きくならなくても「魅了」の足止めがあれば倒せるレベルだ。しかし私の初級魔術ではなかなか倒せない。

雷よ(ニトリス)雷よ(ニトリス)雷よ落ちよ(ニトリストニトリス)!」

 何度も何度も魔法を当てて、ようやく真っ黒焦げになって倒れたテラ・ニムの無残な死骸になんとも言えない気持ちになる。でも魔術って使わないとより高ランクなスキルを獲得できないんだから!冒険者になったんだから、ルーと魅了以外にも魔術を使ってある程度は戦えるようになりたい。


 何度か無抵抗な魔物を嬲るという非道を成した後、疲れ切った私は帰ることにした。「魅了」をかけて動けなくした魔物は、ルーのように一撃で倒すならいいけど、何度も魔術で攻撃していると逃げ出そうとするのだ。その必死にもがいている魔物にしか「魅了」をかけ続けなくてはいけないから気力を使う気がする。実際逃げ出されたので、ルーに追いかけて止めを刺してもらったこともあった。

「『魅了』も使うと強力になったりするのかしら」

 ふと疑問に思う。聖女として散々働かされていた時に使っていたのは応援することだったから、抵抗する相手を封じるのとは少し違う。でも応援する力が強くなった実感とかなかったし。「魅了」はこれ以上強くならないのかな。

 なったらなったで困るので、いいことだと考えておく。薬草を摘んで帰ったら今日のクエストは終了だ。

「魔の森」で倒した魔物の魔石はまだ売らないことにしておいた。

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