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散財が楽しすぎる件

 翌朝、朝日と共にすっきり目覚めた私は散歩に出かけることにした。朝食の準備ができていないと謝られたけど、私が早起きすぎるだけなのでそれは気にしない。できればもうちょっと寝たかったんだけど、こればっかりは習慣なのでなかなか直らなかった。

 小さいままのルーを連れて日の出直後の涼しい町を歩く。開いている店もちらほらあるけれど、どれも食材を売っているようなところだ。つまり、市場かな?果物から魔物の肉、パンまでさまざまな食材が売っている。

 ちょっと買い食いしてみたかったけど、宿で朝食を食べるつもりなので我慢した。それより気がついたことがある。いや、昨日町に着いた時から気づいていたけども。

 ……私の服、ダサすぎるな。

 ただの白いワンピースなのだけど、地味すぎる。ベルト巻いてサンダル履いて終了、ってどうなのこれは。髪もかろうじて梳かしてるだけで伸びっぱなしのままなんだかもっさりしている。お化粧?したことない。


 今の私に必要なのは、ズバリ!おしゃれである。冒険者用の服を真っ先に買うつもりだったけど、おしゃれを楽しむ服を買ってもいいんじゃない?今は店も開いていないから後で情報収集しよう。

 宿に戻ってから朝食を済ませ、私は昨日と同じ従業員の女性に声をかけた。

「すみません、この辺りでおすすめの服屋はありますか?町歩き用の服が欲しいのですけど」

「町歩き用ですね。でしたら……」

 丁寧に、複数箇所教えてくれてとても助かる。それからこうつけ加えてくれた。

「お客さまは冒険者でいらっしゃいますよね。武具や防具は冒険者ギルドで紹介している店がありますので、そちらをご参考にされるとよいと思います。ご存じでしたら申し訳ありません」

「いえ!助かりました。ありがとうございます」

 微笑み返してチップを渡す。このチップを渡す、というのをちょっとやってみたかったのだ。司令官に教えてもらった時はそんな文化あるんだあと思っただけだったが、今がチャンス!というのは理解できたので。


 腹ごしらえも済ませ、リンテウムの町に意気揚々と繰り出した私はそれはもう楽しく散財をした。まずは服、宿屋のお姉さんは価格帯と服のデザインの傾向でいくつかの店を教えてくれたみたいだったのでとりあえず全部覗いてみた。でも一番よかったなと思ったのは最初に言われたお店で、お姉さん優秀すぎる。そこでまずは何着か服を揃えて下着も買った。

 そしたらもうお昼になったので宿に荷物を置いて、ついでに着替えた。買いたての服を着るのってこんなに胸が高鳴るものなんだ!しかも試着したからサイズはばっちり、似合っていると自分でも思う。ふふ……稼いだお金を自分のために使うのがこんなに楽しいとはね……。


 ていうか私あれだけ働いてたのに貯金ないのよね!司令官は私用の口座を作ってくれたけど、そもそも砦でお金を使う用は皆無だった。そして二年前からはお金を使う暇もないくらい働かされていたので……もしかして無給だった?もちろん私の口座がどうなったかなんて知る術はない。

「ま、まあ今はちゃんと口座も自由に使えるし!よし、どんどん散財するわよ!」

 鏡の前で拳を握る。ルーが何してんの……みたいな顔をしていたのはきっと気のせいだ。

 再び町に出て、屋台で買い食いして。買い食いするのは小さい頃以来じゃない?お小遣いでおやつ買ったなあ……。普通の平民の生活に戻ったのだとしみじみしながらお肉を豪快に挟んだパンにかぶりつく。ルーもおいしそうに食べていたけど、なんかガッツリ系のご飯の屋台が多いのは冒険者が沢山いる町だからかな。


「お嬢ちゃん、一人?」

 広場のベンチで食事をしていると急に声をかけられた。顔を上げてみても……知らない人だ。何?

「なんか用?」

「いや、一人なら一緒にデザートでも食べないかと思ってさ。どう?」

 ……。ほう。これはあれだろう、ナンパというやつ。ニヤニヤしながら見下ろしてくる男の視線に覚えがある。砦で私に迫ってきた汚らわしい男たちと同じそれだ。

 私の足元でルーが「ぐるる……」と唸っている。でもここでルーを大きくして追い払っても目立ってしまう。それは都合が悪い。

 なので、使うのはもちろん「魅了」だ。

「結構よ。私に近づかないで、この広場から出ていって。そして私のことは忘れなさい」

 目を見てスキルを発動させると男は硬直した。それから無表情になり、何も言わずにそのまま命令通りに広場から出て行く。これでよし。パンの残りを食べて、魔術で手を清める。

「ルー、次は鞄を買いましょう。それからあなたの首輪と手入れ用品ね」

 立ち上がった私に大人しくなったルーがついてくる。財布も欲しいな、ウィルがくれた布は包むだけのものだから。午前に買った服を思い出しながらどんな鞄がいいか考える。「マジックバッグ」――空間拡張魔術が付与された鞄なら便利だろうけど、流石に今の全財産でも買えないだろうな。

 冒険者としてやっていくならそのうち買いたいものだけど……。そうだ、ノートと筆記具を買って家計簿をつけよう。収入・支出の管理をするのは大切だって司令官も言ってたし、幸い帳簿の付け方は知っている。ヘロヘロになっていた司令官を見かねて助けたのが懐かしい。

 次の店に向かう頃には、私は声をかけてきたナンパ男のことなんてさっぱり忘れ去っていた。


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