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冒険者たちの回想

 王都に戻り、屋敷に着くと俺たちは冒険者の皮を脱ぎ捨てる。いや、冒険者ではあり続けるんだけど、もう一つの仮面をつけると言った方が正しいのかな。少なくとも俺は冒険者をしている時のほうが素だ。

「もう、フェルドが急にあんなこと言うからびっくりしたわ。ステノさんに惚れたなんて言わないでしょうねえ?」

 ロサ――ロザリンディア・アルトアが首を傾げる。冒険者の時と一番変わるのはロサだ。口調は若干改まる程度だが、雰囲気が出てくるのが不思議だ。

「フェルドがああ言ったのなら何かあるのだろう。()()()のか?」

 ウィル――リア・ウィリディス・トレシア様がロサを嗜めた。俺は頷く。

「ええ、()()()()()。とんでもない称号がね」

 俺――フェルドルス・パウレアはリア様の言葉を肯定する。まさかあんなものが見えるとは思わなかったから、あのとき一番動揺したのは俺だろう。


 元々はル・ボルアを倒す予定だった。ル・ボルアは定期的に現れる、ラム・ボルアの変異種だ。今回はかなり大きく育った上に、現れた場所が悪かった。あれでは「魔の森」の奥には行けなくなってしまう。

 そんなわけで俺たちにお声がかかったのだが、森に入った途端に聞こえてきたルプス・グランディスの遠吠えにははっきり言ってビビってしまった。狼系の魔物(ルプス)だとはわかったが、あんな強い威圧をできる個体が森に現れたのならル・ボルアよりも厄介だ。

 倒せなくともとりあえず現状把握が必要だ。俺たちは急いでル・ボルアの目撃地へ向かったが――そこにいたのはル・ボルアの残骸と大きなルプス、そしてひとりの少女だった。

 しかも少女は無防備に木の根元で眠っていた。ルプスは、おそらくルプス・グランディスだろうと推測できる。「死の地平」に生息している魔物だが、なぜこんなところに。こちらを見ても襲ってこないのだから少女の従魔なのか?

 ル・ボルアの魔石を放置しているのも罠ではないかと怪しまざるを得ない。俺たちは頷き合ってとりあえず少女と接触することにした。そして、俺は「真名開示」のスキルを発動する――。


【呼称】ステノ・マシュー

【称号】「砦の守護者」「魅了の悪魔」


 「魅了の悪魔」?不穏なそれに眉を顰めたのと少女が目を覚まして立ち上がったのはほぼ同時だった。警戒するようにこちらを見ているが、その顔立ちはひどく整っている。

 「魅了」の悪魔――美しさを盾にして男を誑かせたというのだろうか?それにしては地味な服を着ている。だがこんな軽装で森を進んできたのだろうか、訳ありなのは間違いない。「砦の守護者」というのも気になった。

 ひとまず警戒を解くために話しかける。わかったのは彼女がル・ボルアを倒したということ、ルプス・グランディスは従魔であるということ、そして名前を偽らなかったことだった。

 話の流れで町まで案内したが、少女――ステノは俺とリア様を避けてロサにばかり話しかけていた。「魅了の悪魔」というと男好きなのではと考えてしまうが、女性が好みなのか?いや、この態度は男を警戒しているというのに近い。俺はともかくリア様は美形なのに全く興味がなさそうだった。美しくはあるが、称号の印象との差が激しい少女だ。

 そしてステノは「魅了の悪魔」、つまり何かしら悪事を企んでいるのなら乗ってきそうな俺の王都への誘いも断った。女性ひとりだし警戒している可能性は大いにあるが、少なくとも短絡的な犯罪者ではないのだろう。それが俺の結論だ。


「なるほど、『魅了の悪魔』か。妙な称号だな」

「でも~、ステノさんはむしろ男性が苦手に見えたわ」

 ロサは俺と同じ印象を受けたらしい。リア様も頷く。

「そうだな、僕たちの正体を知らないのだとしても、A級冒険者に見向きもしなかった。あれば本気で興味がないのだろう」

「冤罪じゃないのかしら?」

「そうだとしても『称号』は全くの偽りを示すことはないよ。少なくとも何かしら『魅了』をしていたのだと思う」

 とはいえ現状は彼女を取り締まったりすることはできない。「称号」だけで逮捕したり裁くことは不可能なのだ。俺が「真名開示」を自分の判断で使えているのはかなり特殊な事情なのだから。

「監視をつけるほどではないだろう。むしろ僕が気になるのは『砦の守護者』の方だな」

 顎に手を当てて考え込むリア様を横目に、ロサも頷く。

「わたくしも、ステノさんは犯罪者ではないと思うわ。フェルドの誘いに乗らなかったのですし、たまに様子を見に行くくらいでいいのではないかしら?わたくしなら警戒されなかったのですから、仲良くなれると思うわあ」

「では何かあればロサに頼むことにしよう。リア様、それでいいですか?」

「ああ……」

 どこか上の空なリア様は気になるが、ステノのことは上に報告するほどでもないだろう。偶然見つけたのだし、敵意を持ってリア様に近づいたわけではない。

「しかしル・ボルアと戦えなかったのは残念だったな。いろいろ作戦を考えてたのに」

「そうねえ。とはいえ『魔の森』の奥にはまだまだたくさん魔物がいるわ。わたくしたちは『死の地平』に辿り着かなくてはならないのだから」

「そうだね。山越えは無理だから結局『魔の森』を越える必要がある……」

 そこに潜む数多の困難を考えるとワクワクする。やっぱり俺の素は冒険者に違いない。

 一応は、王族リア・ウィリディス・トレシア様の護衛を仰せつかっている、れっきとした貴族ではあるんだけどね。


【呼称】フェルドルス・パウレア

【称号】「パウレア子爵家長男」「A級冒険者」「リア・ウィリディス近衛騎士」「魔剣使い」


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