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咲いてはいけない百合の花

作者: 虹彩霊音


ユリとは、ユリ目ユリ科のうち主にユリ属の多年草の総称。漢字で書くと、()()である。




…兄弟や姉妹が欲しかった。


一人っ子は恐らくそう言うだろうね。時にはご飯やおやつを分けっこしたり、時には喧嘩して仲直りして。私の知り合いも訳ありの兄弟だ。前、楽しそうに話していたのを覚えているよ。


大抵の人は兄弟姉妹が居ることには嫌気はささないだろうね。私にも姉と妹が居る。三姉妹だ。ま、人間の姉妹じゃないから姉妹の定義とは違うだろうけど、同じ時期に同時に生まれたし互いにそう見ているんだから姉妹でいいじゃない。人間じゃないから簡単には死なない…とは思う。いや、案外そうでもないかも。まぁ、そこは気にしなくていいよ。自分で言うのもなんだけど、私達は仲が良い。いや、良すぎる。少しだけ、話すよ。別に誰が悪いだとかの話でもあるまいし。



 

私達は人里から遠い場所にあるお屋敷に住んでるんだ。あれ、そうでもないかな。距離感がわからないや、まぁいいか。かなり広いよ、廊下でかけっこできるくらいに。よく妹…幻とやってるんだけど、最後は姉さんに怒られるんだ。楽しいから別に良いんだけどさ。今は姉さんと一緒に居る。あんまり表情が変わらなくてちょっと扱いに困るんだ、まぁそれは一人でいる時の話なんだけど。本人公認なんだけどさ、姉さんは私達のことが好き過ぎるんだよ。いや、ほんとに。これがみんなの言うシスコンってやつ?でもさ、それさえも超えてる気がするんだよね。別に嫌いじゃないよ…嫌いじゃないんだけど…


「姉さん、あの〜…」


「どうかした?」


「その、何か…用?」


さっき姉さんに部屋に来てって言われたから入ったんだけど、姉さんはベッドに座ってって仕草をしたから素直に座ったの。それで、姉さんも隣に座ったんだけど、私の手をぎゅっとして本読み始めちゃった。たまにもみもみしてきてくすぐったい。


「用…?」


「そうだよ、何かあるんでしょ?ないの?」


「用…ああ、今考えるから待って」


うわ、用事ないのに呼んだパターンだ。珍しくないんだけどさ。


「な、ないならもう…」


「貴方は何かやることあるの?」


「えっ?今日は…特にないけど」


「じゃあこうしててもいいじゃない」


くそ!まんまとしてやられた!言い訳ができない!


「・・・」


姉さんが私の手を優しく触ってくる、もみもみしたり指を絡ませたり。嫌じゃない、むしろ安心するから構わないんだけど。


「えーっと…なんで手をもみもみしてるの?」


「もみもみしたいから」


「なんで?」


「もみもみしたいから」


姉さんは結構返答が雑である。


「…ふぅ」


しばらくすると姉さんが本に栞を挟んで閉じた。


「読み終わったんだ?」


「キリのいいとこまでね。また明日読むよ。さてと…」



ぐいっ



「ひっ!?」


肩に手を置いたかと思ったら、思い切り押し倒された。どゆこと?


「な、何!?か、顔近いんだけど!?」


「…いや、たった今貴方に用ができたからさ」


「へ?」


「今日の月は綺麗だね〜」


窓を見ながら呑気そうな口調でそう言った。確かに今日はまんまるお月様だ。とっても綺麗。


「そ、そうだね?…ふあっ!?」


顎に指をぐいっとされる。


「な、何姉さん!?何するの!?」


なんで…こんなドキドキするの!?


「…そんなドギマギしなくてもいいよ。すぐ終わる」


「ふみゅぅ!?」


姉さんの唇が私の唇に触れる。いや、ちゅー自体は今までもしたことはあるよ?でも今回のは何か違う!


「ふあっ…ね…ねぇ…は…ん…べろ…入って…ああ…」


容赦なく姉さんのべろが私のに絡まってくる。くすぐったい感覚に近いんだけどちょっと違う。


「あ…づっ…あ…や…べろ…ちゅうしないで…」


ぎゅっとベッドのシーツ掴んで、事が終わるのを待ってた。体が何かぴくぴくしちゃう。


「…ぷはっ」


にゅるって姉さんのべろが抜ける。


「寂滅…好き…」


妖艶な瞳、火照った頬、姉さんは私の体に寄り添う。


「!?」


姉さんの手が私の服の中にゆっくり、優しく入っていく。


「……寂滅?」


「づっ…や…だぁっ…やめ…てぇ…」


多分、泣いてたんだと思う。それを見た姉さんは


「…!ご、ごめん寂滅!!」


咄嗟に退いて、謝った。


「その…あの…!なんていうか…」


「…姉さんのバカ!変態!!」


とにかく姉さんから逃げたい、それだけだった。



「・・・」


「よぉ、窓から邪魔するぜぇ。お、上の姉ちゃんどうかしたのか」


「・・・」


「…わりと不味そうだな?よかったら話聞かせてくれよ」





次の日の朝、目覚めが悪かった。あんなことがあったからそれもそうか。まだあの時の感触が残っている気がする。


「・・・」


誰かが歩いてくる音がする、それが誰なのかは嫌でもわかった。ガチャとドアノブに手をかけたけれど、何を思ったのかそのまま通り過ぎていった。


「…気持ち悪い」


だから少し外に出ようと思う。特に変なことをするわけではないのだけれど、窓からこっそり抜け出した。





「…そうか、下の姉ちゃんとキスしたのか」


そうエルドラドは言った。


「別に、今までもやってきたんだろ?それに、姉ちゃんは自他共に認めるシスコンじゃないか。下の姉ちゃんも別にそんな怒ってないだろ?」


「…そうならこんな情けない気持ちにならないよ」


「…え、マジでキレてる?」


「多分、絶対」


「どっちなんだよ」


「わからない」


「あー…まぁそこは置いとくか。どうしてキスした?」


「…好きだから」


「好き?」


「そう、妹が好きだから」


エルドラドは少し困った顔をする。私は妹が好きだ。それだけだ。…多分。


「妹が好きなだけじゃ…駄目なのか?」


「…さぁな、俺には答えようがねぇよ」


エルドラドは少し呼吸をして


「…ただ先に言っとくが、悪いとは言わねぇよ。だがよ、いくら自分達が好かれているとわかっていても、実の姉にそんなことされたら驚くだろ?」


「…そうだな」


私は顔を押さえていた、多分泣いているんだと思う。バカらしいな、私が泣く権利なんて毛頭ないのに。


「…ただ、妹達と一緒に居たいだけなんだ。離れたくないだけなんだ…」


それだけでいい、他はどうでもいい。まだ口の中にあの子の温もりが残っている。平気でこんなことを思える自分が心底胸糞悪い。妹に了承さえも取らないで、あんな行動をとったのだ、とんだクソ野郎だ。手に残っている柔肌の感触、微かな香り。あの時の私は気が狂っていたのか、だからあんな行動をとったのだろうか。自分でもわからない、だから余計に嫌気が差す。抱きしめるだけでよかったじゃないか、あの時は何が不満だったんだ?何がしたかったんだ?許されるのなら言い訳がしたい…


「それで…どうするんだ姉ちゃん?このままでいいのか?」


「わかってるよ、なんとかしなきゃってくらい。でも…あの子に近づいたら余計嫌われるだけだし…」


もう…私は…





私達姉妹は仲がいいとは思う。特に叡智姉が私達に向ける愛はほんとに侮れないからね。前エルドラドが冗談で


「じゃあなんだ?妹とスケベできるんなら姉ちゃんは凶暴な熊にも挑むのか?」


って言ったんだけど、そしたら姉さん何したと思う?素手で熊をボコボコにしちゃったんだからね?もはや化け物だよね、熊が可哀想。ほんと、姉さんは私達が関わってるならどんなことでもできちゃう超人だよ。


…姉妹だから仲が良いんだよね?


いや、もしかしたらその可能性もあるかもな。どうしてそう思うかって?叡智姉はちょっと訳ありなんだよ、訳ありだから私達に対する愛が重いんだ。嫌いじゃないけどね。


…ま、それは寂滅姉もわかってるから叡智姉のシスコン発言は気にも留めない…はずなんだけど。最近二人の距離感?がおかしいんだよね。なんて言うの?やたら離れてるって言えば良い?まぁいつもの光景じゃないってことだね。二人とも、なんか苦しそう。


「寂滅姉ー!」


「…幻」


わーい、頭なでなでだー♪…じゃなくて


「えーと、最近叡智姉と何かあった?」


「…どうして?」


「いや、なんかギクシャクしてるなーって。気のせいなら別に良いんだけど」


「ああ…いや…なんにもないよ。…なんにもね」


「じゃ、なにかあったんだね」


「どうしてそう思う?」


「姉さんの顔、笑ってないもん。バレバレだよっ」


そう軽く笑ったら、何故か姉さん泣いちゃった。


「…えっ!?私何か変な事言っちゃった!?」


「・・・知らない」


「え?」


「知らない」


遠回しに私のことを拒絶するようにそう言った。一人になりたいんだろうな、これ以上聞くのはやめておこう。





「・・・」


俺は遠くからこっそり下の姉ちゃんを見ていた。とても、疲れているようだ。それもそうか、上の姉ちゃんの過ちが事実なのであれば、疲れるのも納得だ。だが、嫌いになれるわけがないそれが余計に嫌気がさす。


同性愛(ホモセクシャル)


この世には、同性同士…男と男、女と女で好きになる人が居るらしい。まぁ、別に誰が誰をどんな風に好きになろうが俺はどうでもいい。その人の勝手だからな。事実、龍である俺は騒霊の少女が好きになって、結婚した。だが、異種族はともかく同性愛というものは異端に思われているようだ。


はて、それはどうしてか。


結婚するのは繁殖するためだけか。否、好きな人とずっと添い遂げたいからである。故に、極端に嫌う必要は無いと思う。まぁ、嫌いなら嫌いで仕方がないものだが。


俺は長いこと生きてきたもんだから、同性愛を見た事がないわけはない。他人が同性愛だろうとそんな気にすることはないけれど、身内となれば話は別になるのだろう。抱き合うならまだしも思いっきりのキスは生理的にキツいのだろうか。……何?『女性同士は最高だろって?』じゃあ考えてみろ、たとえばお前が三人の兄弟姉妹だとして、自分以外がベッドの上で儀式をしていたとしたら?―――確かにキツイな。


参った参った、早く姉ちゃんに元気になってもらわないと困る。近々主さんのところで演奏をしてもらう約束をしているのだ。話せばわかってくれるだろうが、破るわけにもいかないだろ?それに、本人も心配だ。何?放っておけって?仕方ないだろ、できないんだから。



「エルドラド、そこに居るんでしょ」


「おっと…バレちまったようだな。隣良いか?」


「うん」


ぽふんと隣に座る。


「それで…あぁ…何から話そうかな…」


姉ちゃんは聞きたくないのか、帽子をぐいっと引っ張り顔を隠す。


「ああ、聞きたくないか。そうだよな…」


「・・・話したいなら勝手に話して。嫌な情報は全てシャットアウトするだけだから」


おおん、そりゃかなり便利な機能でございますね。


「言ったな?話すぞ?…上の姉ちゃんと毎日やってたわけじゃないんだろ?」


「…抱きしめられたりするのは前々からだよ。別に、嫌いじゃなかったからそのままにしてたけど…あれは、初めてされた。だから何だって話だけどね」


そうだなぁ、したことには変わりないもんなぁ。


「あーいうのは嫌いなのか?」


「・・・」


俺の問いに困った顔で黙り込む。


「……嫌い………では……ない…と思う。そう、思いたい」


「まぁ、上の姉ちゃんのことは俺よりも知ってるだろうからわかってるとは思うけどよ、姉ちゃんはただ一緒に居たいだけなんだとよ。精神的としても、肉体的としても、だ」


「・・・わかってるよ。姉さんは…私達を失うのが怖いんだ」


そうだなぁ。


……待てよ、まさか幻にもやっているのか?そうじゃないとしたらまさか本当に姉ちゃんは…




姉さんに近づくのが怖い。動くことを、寝返りをすることさえも許されなかったあの時。顎を掴まれ覗き込んだあの瞳。赤く染まったあの頬。全てが、怖い。姉さんが自我を取り戻さなかったら私はどうなってたんだろ。


姉さんの私達に向ける愛は軽くない。


これをどう見るかで気持ちは変わってくる。もちろんプラスの意味で考えていきたいけどさ。


「姉ちゃんは、同性でキスをするのは嫌いか」


エルドラドがそう言った。


「おっと、言葉は気をつけるもんだな。深く考える必要はない、姉ちゃんが思う答えで構わない」


「…わからないや」


「へぇ」


「…姉さんだから、あんまり力強く抵抗できなかったんだよ。でも、あんな風にされるとちょっとさ…」


困るじゃない。


「俺は現場を見たわけじゃねぇからなんとも言えないな」


「…どうすればいいのかな。何かが詰まったみたいですんごく気持ち悪いんだ。確かに姉さんとは喧嘩もするよ、でも今回は違う。喧嘩したわけでもない、むしろ姉さんは私を好きで居てくれる。本来ならそれは喜ぶべきことなのに、怖いんだ」


互いに嫌いになってるわけじゃないのに、嫌いになりそう。



「やっほー姉さん、また会ったね」




寂滅姉はよく私や叡智姉の提案に賛同してくれる。でも、それは嫌われたくないから、置いていかれたくないからだと思う。自分の理想が壊れるのが嫌だから…と思う。そうだとしたら…ちょっとはわかる気がするな。


…ん?自分の理想が壊れるのを嫌う…?


「そうか!」


「うお、何がだ?」


「叡智姉も、自分の理想が壊れるのをとっても怖がってたんだよ。考えてもみなよ、私達はずっと一緒に居たんだよ?一目惚れだとかなんて起こるはずがない。……それで、姉さんは私達のことをものすごーーーく大事にしてくれている、愛してくれている。でも、姉さんきっとわかんなくなっちゃったんだ、『自分は妹達を姉妹として好きなのか、そうでないのか』って」


「…なるほどな、『自分がもしそうだとしても、相手が受け入れてくれるとは限らない。三人で一緒にずっと過ごすという理想が壊れるのを恐れていた、だからずっと我慢していた』…こう言いたいんだな?」


「そうそう」


次に私は姉さんに聞いた。


「姉さんは、姉妹で好きになるのと女性同士で好きになるのどっちが抵抗あるの?」


「…どっちも変わらないじゃない」


「じゃ、叡智姉が男なら抵抗した?」


「…さぁね。でも、姉さんが好きなら…抵抗しなかったと思う。事実、姉さんかっこいいし」


「もしかしたら、同性で姉妹だから抵抗があるんじゃないか?どちらかが欠けてれば多少はマシだったのかもな」


難しいもんだな、とエルドラドは言う。


「それは、逃げるという選択肢があるからだよ。普通の人からの告白やらなら断れば良いだけの話。でもさ、私達は姉妹で一緒の家に住んでるんだよ?下手に断れば傷ついてしまうかもしれない、それはちょっと嫌だよね。だからといってそこまで自分が嫌なものは溜め込みたくないよね」


「…なら、どうすれば良いのさ?」


「ほっとけよ」


「えぇ…?」


「時間は物事を解決してくれるよ。叡智姉も寂滅姉のことを好きになるのをやめるし、寂滅姉も少しは受け入れることができると思うよ」


「…暗黙の了承じゃない。なんの解決にもなってないし」


「うーん、それもそうだなぁ…」


しばらく悩んで気づいたんだけど、私が隣に座っても姉さんは離れないんだよね。


「姉さんは私が隣に居ても平気?」


「? うん、別に」


「じゃ、これは?」


姉さんの手にゆっくり触れて、指を絡ませる。


「別に」


「んー」


次に、姉さんの後ろから優しくぎゅー。


「これは?」


「・・・」


あちゃー、やりすぎたかな。


「嫌じゃないよ」


あ、良かった。


「・・・」


ありゃりゃ、しまった。これからどうしよう、離れるべきかなぁ。


「幻?」


うーん、姉さんを抱きしめてるの案外悪くないんだよね。姉妹の温もりってやつ?私が離れたくない…安心しちゃう…



「…上の姉ちゃんは本当に、裏腹もなく、純粋に一緒に居たいだけかもな」


「え?」


「姉ちゃんのヤバさは二人も知ってるだろ?ただ、もっと仲良くなりたかっただけ。愛情表現の仕方が過激すぎただけかもしれないな」


「そういうもんかな」


「たとえ、過激すぎたとしてもそれを完全に拒絶するのは少し残酷なんじゃないか?姉ちゃんを嫌いになるのはそれが真か偽か解ってからでも遅くないだろう」


俺がそんな理想的なことを言うのだが、幻はまだ姉ちゃんを抱きしめるのをやめていない。やはり、姉妹というものはくっついているのが定石なのか。


「ん、どうしたのエルドラド」


「いや…ずっと抱きしめてるなって」


「エルドラドもやる?」


「おおん…」


俺も幻にしょっちゅう抱きしめられてるし、上の姉ちゃんに寄り添ったこともある。だが、やはり男女で抱きしめ合うのはまた別になるのでは?


「それじゃ、失礼して…」


姉ちゃんの腹辺りに腕を回して抱きしめる。…なんてこった、悪くない感触だ。心地いい、良すぎる!


「く、くすぐったいよ〜」


誰かとくっついているだけでこうも安心するものなのか。不思議だ。


「ちょ、お腹揉まないでっ。えっち!」


「うわ!エルドラドえっちだ!えっちえっち!!」


「えっち連呼するな!」


だが、これ以上抱いているのもアレだろう。俺は姉ちゃんから離れる。


…誰かと一緒に居ると、心地いい。


そうか、だから姉ちゃんはシスコンレベルにこの二人が好きなのか。


「・・・!?」


俺は遠くに上の姉ちゃんが居たことに気づいた。その表情は至って冷たい。きっと、先程の光景を見てしまったのだろう。


「ち、違うぞ姉ちゃん!さっきのは…」


「…そう」


力無い返答だけして、姉ちゃんは行ってしまった。やばい、やばすぎる。


「・・・姉さんは、ただ私達と一緒にいたいんだよね。じゃあそれを拒絶するのは駄目だよね…」


「…うむ」


「…姉さん探しに行ってくる」




「…本格的に、嫌われたのかな」


私はそう呟いた。寂滅は幻はおろかエルドラドにも拒絶反応を示さなかった。…いや、当たり前か。あんなことをされたわけじゃないんだし。


「…姉さん」


後ろから私を呼ぶ声がする。私は振り向かないで答えた。


「…寂滅は、私のことを嫌ってる?」


「うーん、少し話して説得したから大丈夫…だと思うよ。それで…叡智姉は寂滅姉や私のこと好き?」


「…そうだな」


「どんな風に?」


「普通に」


「普通〜?嘘だぁ、普通ならあんな壊れたりしないじゃんかぁ」


ケラケラと笑われる。


「・・・」


「えーっと、姉さん?」


笑いすぎたと思ったのか、少し様子見をするかのように喋る。


「こ、こっち向いてよ」


「…そう」


私は振り向いた、振り向いたら私は幻を木に押し付けていた。


「ひぎゃっ!?な、姉さん!?」


「ごめん…痛い?」


「い…たくはないかな…びっくりしただけ」


幻の顎を掴む。


「ふにゃっ」


透き通った瞳を覗き込む。


「ね、姉さん…ちゅ、ちゅーするの?」


「…しないよ、見ていたいだけ」


「そ、そうなんだ…」


「・・・私は、寂滅や貴方が好きだ。姉妹同士だからあんな毛嫌いされたのかもしれないけれど、私は姉妹だからこそ好きなんだと思う。それに…」


私はあることを言いかけたが、やめて別のことを喋った。


「…姉妹を好きになるのは変だというのは言われ慣れた、変態と言われるのも慣れた。私はなんと言われようとも貴方達を好きでいるのはやめない。だけど…もしそれで貴方達が傷つくのなら…やめる。でも、私は姉妹だから好きでいたい。姉妹という輪廻を千切りたくない。それは正しいのか?それとも正しくないのか?」


私からしたら真面目な質問をしたつもりなんだけど、幻からしたらちんぷんかんぷんだろう。そんなのはただの苦し紛れだ。寂滅の言い分もわかる、だが私の言い分もわかってくれ…


「普通に女性が好きってわけじゃないんでしょ?」


「…妹達にしか興味が湧かない変態だからね」


「それじゃあ、聞きたいんだけど良い?」


「答えられることなら」


「寂滅姉と私、どっちが好き?」


「…どっちも」


「駄目〜、選んで」


「……選ばなきゃいけないなら、どうしてもと言うのなら」


―――寂滅だよ。


「へぇ、どうして?」


「貴方には彼が居るじゃない。流石に人のものをとったりしないよ」


そう、幻とエルドラドは結婚してるんだから。それくらい私もわかってる。


「…他に聞きたいことは?」


「んーん、もう無いよ」


「…そう、それじゃあ…家に戻るから、寂滅に伝えておいて。『百合の花の成長を促す肥料ではなく、その身を枯らす除草剤になって』と」


「……はぁい」



……私は、誰かを愛しちゃいけないのかな?もしそうなら…誰か私を消してほしい。



……無理矢理好きになるのをやめてと言っても、姉さんの中に何かしらの負のエネルギーが残る。それを私は望まない。


「ん…わかった」


「それじゃ、私も戻るけど寂滅姉はどうするの?」


「…もう少し外に居るよ」


「はーい、じゃ伝えておくね。遅くまでいちゃだめだよー」


「わかってますよー」


今は…酉の刻くらいか。戌のうちに帰れば良いよね。さっきまで頭を回転させてたから疲れた、休も。


「…お花だ」


ふと思って、私は花占いをしてみることにした。


「私は、姉さんのことが…」


好き、嫌い、好き、嫌い……


「・・・好き。姉さんは私のことが…」


好き、嫌い、好き、嫌い…


「…好き」


…当たり前のような気がする。


「・・・ふぅ」


帰るか。



「…ガルルルルル」


左方面から大きな牙獣が出てきた。なんか怒ってる。


「あー、ここ貴方の縄張りだった?ごめんごめん、すぐに出るから」


「ガァァァァァァァァ!!!」


大きな声をあげて襲い掛かってくる。


「ちょ、やめてってば!」


「グゥゥゥゥゥゥ!!!」


「ああもううざったいな!」


思わずおでこをぶん殴っちゃった。大きく後ろに怯んだんだけど…


「!?」


もっと怒らせちゃったのかな、体が金色に光ったんだ。なーんかどっかで見たような感じがするなぁ。


「あわっ!?」


って暢気に考えてたらエネルギー砲撃ってきたんだけど!?


「そっちがその気ならこっちもやっちゃうからね!」


相手が獣ならこっちも獣だ!そう思って私は狼に変身する。相手は私をとことん排除しようとしてくる、岩盤は抉るわ思いっきり殴ってくるわで正直攻撃させる気がない。おまけに今日は満月じゃないからあまり力が出せない。


「くそ、脳筋野郎めっ!……うぎゃっ!!!」


右前足に痛みが走る、抉れた岩盤の隙間に足が嵌まって動けない!!


「あゔっ!痛いッ!!痛いッ!!!」


荒く岩ごと掴まれて、握りつぶされる。色んな骨が折れそう。



キィィィィィン



突如鼓膜が裂けそうな不快音が鳴り響く。気づけば獣は遠くに吹っ飛んでいた。


「ね、姉さん!」


姉さんだった、何も言わずに私を抱えて走る。




「ね、姉さん」


「…どうして」


「?」


「どうしてこんな遅くまで外に居た!今何時だと思ってる!?戌の刻が過ぎるまでには帰れと言っただろ!」


え…もう過ぎちゃってたの?気づかなかった…


「ご、ごめんなさい…」


「謝れば許されると思うか!ふざけるな!夜に現れるのは妖怪だけじゃないんだぞ!!」


「か、帰ろうとしたんだよ!でも、あれに遭遇しちゃって…」


遠くから獣の声がする、追いかけてきたみたい。


「執念深いな…家の近くまで来るなんて」


姉さんは私を家に無理矢理押し込むように入れる。


「絶対に開けるな、良いな!?」


ドタンと勢いよくドアを閉める。その後聞こえてきた雑音と咆哮。争う音が嫌でも聞こえてくる。私はその場に伏せて耳を塞いでた。




「・・・疲れた」


あの獣を追い払ったのは良いのだが、結構ダメージを負ってしまった。血が止まらない。足を引きずりながらドアを開ける。


「・・・」


そこに寂滅は居なかった、きっと自分の部屋に行ったのだろう。視界がぼやけるせいで部屋に行くのも一苦労だ。


ようやく自分の部屋についた。ドアを開けた瞬間体力の限界がきてさ、そのまま倒れたよ。もう、動く気力も湧かない。


「…」


疲れた、このまま寝てしまおう。


・・・。・・・?


誰かに引っ張られてる感触がする、体を動かすのが面倒だから目を開けて確認した。狼の姿をした寂滅だった。ベッドに運んでくれたのだろうか。床で丸くなって寝ている、自分の部屋で寝れば良いのに。まぁ、そんなことは今はどうでもいいや。疲れた、寝る。





「…おう、その姿で歩いてるだなんて珍しいな」


私は白い狼にそう言った。


「貴方もそうじゃない、別に虎になる必要なんてないでしょ?」


「そうだけどさ、人間の振りしてるのも疲れるんだよ。たまには元に戻らないと」


「…ねぇ、蒼冬ちゃん」


「何だ?」


「貴方は…音廻ちゃんのこと、好き?」


「おう、好きだぞ?」


「違う、そういう意味じゃなくてさ」


「ああ…なるほど。うーん…そう言われると返答に困るな。まぁ、妹として好きだと思うぞ」


「へぇ…」


「叡智殿と何かあったのか?」


「どうして姉さんだってわかるの?」


「そりゃ、あの人の愛情表現はすごいからな」


「・・・」


「その様子じゃあ、ちょっと大変なことになってるみたいだな」


私はとあるものを彼女に渡す。


「…これは?」


「音廻のプレゼントついでに暇だから三人分作った。やるよ、月と太陽と星…三人を象徴するものだ」


「…ありがと、姉さん達にも渡しておく」


狼は三つのガラス細工のブローチを咥えるとそのまま走っていった。




今日は三人はライブをやっている。俺は舞台裏からその光景を見守っていた。ここなら最前席よりもよく見えるんだよ残念だったな!ゲフンゲフン、まぁ手伝いやらはちゃんとやったぞ。上の姉ちゃんの静かな音楽、下の姉ちゃんの力強い音楽、そして幻の全てに馴染む音楽が三つ巴となり均衡を保つ。三人ともこの時はとても楽しそうだ、リハーサル以上に体を動かしてノリノリである。ふと気になって、俺はオーディエンス達を覗いた。大半は人外であった。いや、そんなの別に不思議でもなんともないのだが、中には同性同士で見にきている者も居た。ただの友達だとは思う。


「……」


不味い、マジで見つけてしまったかもしれない。二人で会うことを目的としているような二人組を見つけてしまった。まぁ、そんなことは今の三人は気にする余裕もないだろうな。つか、手を繋いで軽いイチャつきをするんじゃない、家でやりなさい!


…と、脳内でツッコんだところで俺は思った。この世は自由過ぎる、自由過ぎて自分勝手な奴らが沸いてしまう。


人類を滅ぼそうとする者。

他者のエネルギーを糧にし、強くなろうとする者。

自分の欲を満たしたいだけに妾をとる者。


勝手な奴らばっかりだ。人間はおろか人外さえもそうだ。結局そこに差異はなかったんだ。俺だってそうだ。


勝手に他人を好きになる。

勝手に同性を好きになる。

勝手に誰かを愛したくなる。


勝手にしとけ。



「・・・・お?」


三人が俺を見ていた、いつのまにかライブは終わっていたらしい。


「考え事だ、気にするな」


・・・いつもなら三人の音楽を聞いていれば気分が上がるというのに、今日は案外そうでもない。どうしてだろう、別に三人の音楽に迷いは現れていないし、何より一番鬱なのは何故か楽器を持たない俺である。いっそのこと叫びたい、この意味のわからない感情をぶちまけたい。




「・・・あれ」


ライブ終わり、私は喉が渇いたから何か飲もうと漁っていたんだけど、前に暁さんから貰った酒瓶が消えていた。


「確かここに置いといたんだけどな…」


辺りを探しても見当たらない、どこにいったのだろう。



ガタン



「!」


妹の部屋から大きな音が聞こえた。はしゃいでいるにしては一瞬すぎる、何より妹達の声が聞こえない。私は気になって妹の部屋にノックして入る。


「入るよ…」


その先の光景を見た私は驚いた。妹二人がぐったりしているではないか!


「二人共!大丈夫か!?」


すぐさま二人の安否を確認する。良かった、怪我とかしているわけじゃないみたいだ。


「ねぇ…さん…うみゅう…」


ぽけーっとしたなんとも言えない表情、私は机の上にあった瓶を見る。酒瓶じゃないか、しかもほぼ空じゃないか飲み過ぎだ!!!


「ふあー…喉渇いたからこれ飲んでたんだけど…何か…ぽーっとしちゃって」


「これ酒瓶だよ…酔ったんだな。ベッドで寝なさい」


「うわー、姉さんにえっちされるー」


「酔っ払ったのを計らってえっちするのはルール違反だぞ!」


「そうなの?」


「そうなんだ」


いやいやいや、今はそんなふざけてられないか。


「むふー、姉さーん♪」


寂滅が安定しない足取りで私に近づいて抱きしめる。…え?


「ちょ、寂滅どうして…」


酔っ払いデバフですか?


「姉さん…は…私と幻どっちが好き?」


!!!???


多分今ほど鳥肌立ったことはないと思う。


「それ…は…」


「あ、私じゃないよー」


この言動に幻は関わってないらしい。どうして私に聞くんだろう、私にあんなことをされた寂滅本人がだ。


とりあえず落ち着こう。落ち着いて考えてみよう。・・・・・やっぱり選びたくないなぁ。


「ふふ、姉さん誤解してるでしょ?」


「何?」


「『姉妹』としてだよ。どっちが好きなの?」


「それなら余裕で答えられる!どっち『も』だ!!!」


だって、どちらも大切な唯一無二の妹なんだから。後ろめたさも恥じらいも一切無い。


「じゃあ…『どっちとちゅーしたい?』」


ふぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???


どうかお願いです、誰か私の耳が腐ってると言ってくださいお願いします。


「深い意味なんてないよ、ただ聞きたいだけ」


答えて良いの?答えて良いものなんですか!?答えを出して良いのですか!?


…恐らく、寂滅は幻より少し多めに酒瓶を飲んでしまったのだろう。顔も幻より赤い。もしかしたら、寂滅からキスをされてしまうのではないか。私にとってはご褒美です!…だなんて言ってられっかよ!今は真面目にやろう、うん。


「二人は今酔っ払ってるじゃないか、ちゅーはまた今度な」


「別に選んだ方とするってまだ誰も言ってないよ?」


墓穴掘ったァァァァ!!!掘ってしまった!!!なんてこった自爆してしまった!!!


「と、とにかく落ち着いてくれ。座ってくれ、ほら」


私は妹のベッドを拝借する、ぽんぽんと隣に座るよう指示する。


「はぁーい、わかりましたぁー」


そう言うと、寂滅は私の太ももの上にお尻を乗せた。


「えへへ、お姉ちゃんに座るー♪」


ァァァァァァァァァァァァァァァァ


不味い、ご褒美すぎる。鼻血を出しそうになるのを必死に抑える。お姉ちゃん呼びとかやめてください死んでしまいます。


…というよりか、あの時は私のことを避けていたというのに今は真逆で本当にくっついてくる。酒の力は恐ろしい。


カタカタカタカタ


「うひゃっ、貧乏ゆすりしないでよ〜」


「仕方がないじゃないか」


誰かが脚に座ってると貧乏ゆすりしちゃわない?私だけ?


「えっちえっちー♪」


「そんなに嫌ならどきなさいよ」


「やだー、今日くらい良いじゃんかぁ」


幻は助けてくれる気配を見せない、ちくしょう!尊死してしまう!


「ていうか、痺れてきたから本格的に退いてほしい」


「うーん、じゃあねぇ…ちゅーして」


その言葉を聞いた瞬間、私の理性に限界がきた。思い切り上体がぶっ倒れた。でも後から考えたらこれが正解だったかもしれない。妹とのちゅーを避ける唯一の手立てだったから。




「・・・・あれ」


いつのまにか私は眠っていたらしい、ベッドに横になっていた。幻を真ん中にして川の字三人で寝ていた。ええと、ライブが終わって喉が渇いたから何か飲んだのは覚えてるんだけど…


「うーん、頭が痛い」


痛くなるから考えるのをやめた。しかし、三人で寝るのは…一人よりもずっと安心するな…


「・・・」


すると、姉さんが突然起きてベッドから降りる。私は咄嗟に寝ているフリをした。どうやら起きていたことに気づいてないらしい。姉さんはドアノブに手をかける、こちらの様子を伺うとそのまま外に行ってしまった。しばらくして私も姉さんを追いかけて外に出た。



さっむ!!!流石に夜は寒いか…


「…あ」


姉さんは岩の上に座っていた、空には欠けた月が昇っている。


「…寂滅」


「わっ、気づいてたんだ」


「私の妹センサーを舐めないでほしいね」


それもそうか。


「…私達は、姉妹で良かったと思う?」


姉さんのその言葉に私は思わず真顔になる。


「寂滅は、私が姉で幻が妹で良かったと思う?」


「…当然、だよ。姉さん達が姉さん達で居てくれて私は嬉しいよ」


「そう…今日のライブは、楽しかったと思わない?」


「え?まぁ、ライブはいつも楽しいけど…」


「何も変わらないただただ楽しいライブを続けられるって…幸せなんだね」


「…うん」


「そのライブをこれからもできるように今、私達の関係は保っておきたい。崩したくないんだ。だから、今のうちに言っておく」


姉さんは岩から立ち上がって私の方に向き直る。夜風が私達の髪の毛を揺らしている。


「…私は、寂滅が好きだ」


「……!」


「貴方は辛いことがあったら励ましてくれる、中にある寂しさを滅ぼしてくれる。そんな貴方が…私は好きだ…」


声が掠れてる…泣いてるのかと思った。事実姉さんの瞳は潤んでいる。


「貴方は…自分が辛くなるとわかっていても、他人の幸せを優先するとても優しい子だ…とても、感謝しているよ」


姉さんは目を閉じた、私を見なくて済むように。瞼に押し込まれた雫が姉さんの頬を伝っていく。顎から落ちて、地面に落ちていくのと同じタイミングで姉さんは言った。


「お願いだ…私を嫌いになってくれ…好きにならないでくれ…」


そう言った瞬間、一気に姉さんの瞳から涙が溢れ出した。次々に地面に落ちて、岩と土に浸透していく。


「あ…ああ…」


自分で言うのも苦しいのだろう。それでも姉さんは、私達の今の関係を優先した。姉さんからしたら拷問のようなものだ。


「もし、これ以上私が狂ってしまって今の関係が壊れてしまうのなら…いっそのこと貴方から離れてほしいんだ、嫌われた方がっ…マシなんだっ…私はッ…貴方の姉で居たいッ…私の中に芽吹きつつある百合の花を無惨に引きちぎってくれ…」


「姉さん…」


私は姉さんに近づいた、岩から降りてと言った。姉さんがひょいと降りた瞬間、私は姉さんを抱きしめた。


「頑張ったね…姉さん…」


「あ…ぐぅっ…ぐふっ…」


「でもね、姉さんのこと嫌いになるわけないから。ずっと…好きだから」


「違う…それじゃだめなんだ…」


姉さんの背中を摩り続ける、呼吸も安定してきた、落ち着いてきたようだ。


「戻ろう、寒いから」




「・・・」


姉さん達が外で話してる。話してる内容こそは聞こえてこなかったが、私にはわかった。叡智姉は覚悟を決めたんだ、今のこの関係を保つことを決めたんだ。寂滅姉に好きにならないでみたいなことを放ったんだろう、叡智姉からしたら自殺みたいなものだ。


「おかえり」


「…ただいま、起きてたんだ」


「寒いから起きちゃった、早く早くー」


私は姉さん達がベッドに入るのを催促する。


「むふー♪あったかぁい♪」


「そう?さっきまで外に居たから冷たいと思うけど」


そうじゃないんだよ姉さん。ふわぁ、あったかくなったら眠くなってきたなぁ…


「ん」


ぽん、と叡智姉の手が私の頭にのる。寂滅姉は私の体を優しく抱きしめる。


「…おやすみ」


その言葉を最後に、私は喋るのをやめた。意識を閉じて、明日の朝に時間を送ろうと思う。




「ぐあぁ…」


俺は朝になったことに気づいて、大きな欠伸をして起きる。


「…あいつらは、元に戻ったのかな」


そう願いたい、もうあんなギクシャクした光景は見たくないのだ。


「わっ、屋根から音がしたと思ったら貴方だったの!」


下の姉ちゃんの声がする、窓から俺を見ていた。


「いつから居たんだ?」


上の姉ちゃんも続いて顔を出す。


「あー…昨日姉ちゃんが外に出た時くらいかな」


「えぇ…あれ見られてたのかよ…」


「邪魔しなかったから良いだろ?…ところで幻は?」


幻がいつまで経っても顔を見せないことに俺は疑問符を出す。俺が来たら真っ先に来るのはあいつなのに。


「―――隙ありっ!!」


その声が聞こえた時間、俺の背中に何かが纏わりつく。


「エルドラドっ、エルドラドー♪」


「おう、元気なことで」


「ちょっとー、そこに居たら危ないよー」


「あ?俺がここから落ちるわけがな――」


そう言った瞬間、俺は足を滑らせて幻ごと落ちた。俺の方が圧倒的に重いから俺が下になって幻は助かったのだが…痛い。


「ふふふ…あははははは!!」


すると上の姉ちゃんが笑い出した。姉ちゃんがこんな良い笑顔で声を出しながら笑うのは滅多にない。


「あはははは!フラグ回収するの早すぎてめっちゃ笑えるんだが!!あはははははは!!!」


「…ぷふっ」


「あぁ!下の姉ちゃんも笑ったな!?」


「笑ってない笑ってない…w」


「嘘つけ!草生えてるぞ!」


「ぷふー…wぷぷぷ…w」


「おい…お前も笑うのかよッ…w」


そういう俺もつい笑ってしまった。仕方がない、こんな風景を見せられたら、笑ってしまう。




遊んでいる三人を眺めながら、私は本を読んでいた。たまりませんね!!!


「…ん」


ふとそこで寂滅と目があった。寂滅は私のところまで来ると…


「姉さんも遊ぼうよ〜」


「ええ?私は傍観者で充分だよ」


「良いから良いから〜」


そのまま腕を引っ張られて、連行される。うん、悪くない。


「…で、何の遊びしてるの?」


「高い高い〜♪」


エルドラドが幻の脇腹辺りを掴んで天高く持ち上げていた。


「うひゃっ、くすぐったいよ揉まないで〜」


「うるせぇ!もっと揉むぞオラ!」


「ひゃっ、うひゃー♪」


楽しそうだな。


「・・・」


私は寂滅を横目に見る、昨日のことは正しかったはずだ。傷つくのは私だけなんだから。妹達はあの重みから解放されたはずだ、締め付けられるのは私だけで良い。


「……おおっと、ここに鬱っぽい騒霊が居るぞぉ〜?」


「うわ!な、なんだよ!」


「そんな鬱なんてどっか投げ捨てちまえ!ほら、手伝ってやる」


「ちょ、待て。何をする気―――」



「lunatic高い高いだッ!オラァッ!!」



エルドラドのその声が聞こえた次の瞬間、私は真上に吹っ飛んでいた。風圧が凄い。


「・・・おお」


ようやく勢いが弱まって、辺りが見えるようになる。人里が、神社が、森が、丘が、全て見える。


「凄い…」


と、感極まっているのも束の間。私の体は猛スピードで自由落下を始めた。




「・・・っと、どうよ?俺のlunatic高い高いは」


「おごぉ…」


意識がぐらぐらする。でも…


「…確かに、嫌なことは忘れられたかな」


「おう!それは良かったな!」


しばらくすると、後から私の帽子がふわふわと落ちて、エルドラドの頭に丁度被さる。


「お、何か急に見えなくなったぞ!」


「ちょ、私の帽子返せ」


「何も見えないからどこに姉ちゃん達が居るのかわからないぜ!」


そのまま適当に歩き始めるエルドラド。


「くそ!絶対とってやる」


次の遊びは帽子取り、エルドラドの頭の帽子をとった人が勝ちだ。空を飛んだりするのは無し。


「わー、楽しそう♪」


妹達もノリノリだ。


「行くぞ!」


「おー!」


「お!?何か急に体が重くなったぞ!ふぉぉぉ!」



昼、私は姉さんを自分の部屋に呼んだ。


「何だ?」


「良いから座ってよ」


私は姉さんを隣に座らせると、手を握った。


「・・・」


姉さんは少し目を開いた。


「さて、とっとと用事済ませちゃうか」


そう言うと、私はゆっくり姉さんの唇と自分の唇を重ねた。


「んぐ…」


「…ふぅ」


「えっと…寂滅?」


「…ご、誤解しないでよね。今のは『姉妹』としてのちゅーだからね!」


「そ、そうか…」


「だからあの…これならいつでもしてあげるから…」


「…ふふ、ありがとう。……よし!許可貰ったからスケベしても良いな!?」


「え!?違うそうじゃない!ちゅーはしてあげるけどそれはやっ…あっ…くふぅ♪」


良かった、通常運転の姉さんだ。


「やぁー、犯される〜♪」


「さぁどこから攻めてやろうか!」


そこでガタンと扉が開く。


「姉さんずるい!私も入れて!」


「わひゃっ、くすぐったい!エルドラドっ…助けてよっ」


「女同士の中に入るのは不純なので」


「うわー、敵しか居ないよ〜」




…兄弟や姉妹が欲しかった。


一人っ子は恐らくそう言うだろうね。時にはご飯やおやつを分けっこしたり、時には喧嘩して仲直りして。私の知り合いも訳ありの兄弟だ。前、楽しそうに話していたのを覚えているよ。私達は三人姉妹なんだけど、姉さんが私達を好きになるってことがあった。それは別にいけないことではないとは思う。生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた私達は、簡単には離れたりしない。



さぁ、今日も騒霊らしく騒ごうか。




ユリは、ユリ目ユリ科のうち主としてユリ属の多年草の総称である。漢字で書くと百合なのだが、そちらは()()()()()()()で使われることが多いようだ。



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