主導権
戦争は突然始まった。
どの国が始めた訳ではない。敵は国境の向こう側ではなく空の彼方からやってきた。
宇宙から来たエイリアン達は何も言わずに地球のありとあらゆる文明を襲い始めた。光線銃、甲殻類の形をしたロボット、ホバー移動する乗り物――
メッセージは通じず、皮肉にも分断されていた世界各国はこうして一致団結する事が出来た。
しかし敵の圧倒的な科学力の前にはそれさえも無意味だった。戦車の装甲は悉く貫かれ、ミサイルや航空機は撃ち落とされ、
ある日、とうとうエイリアン達は地球の指導者を追い詰め、文字通りお手上げだった。緑色の肌をした奴らが地下シェルターに入り込み、もはや抵抗する者は居ない。
誰もが死を覚悟したその時だった。
『直ちに無条件降伏せよ』
「言葉が分かるのか?」
『今はな。そちらの言語解析には時間が掛かった』
銃を突き付けられたまま、砕けた口調がエイリアンの持つ情報端末のスピーカーから聞こえた。
「少し訊きたい、何が目的だ」
『資源と領土だ。簡単な話だろ?』
「我々が降伏した後は地球をどうするつもりだ?」
『今後は我々の植民地とし、こちらの要件を全て聞いてもらおう。受け入れなければ根絶やしにするまでだ』
「……分かった、降伏しよう」
地球の主導権を握った緑色のエイリアン達は祝杯を挙げる事もなく、彼らの指揮官は母星でモニターに向かって話していた。
『予定通り制圧に成功したようだな』
「はい、やはり予想通り豊富な資源に恵まれているようです」
『良くやった、約束通り特区の利益配分はそのままにしておこう』
画面の向こう側の青い肌をした人物は厳しい視線を送ると頷くなり回線を切った。
「無事制圧出来て良かったな。もし予定より遅れたら銀河連盟の奴らにアルファ星の採掘権利を差し押さえられる所だった……」
通信が終わり、青い肌のエイリアンは何やら話し合っていた。
「報告です、イータ星によると地球の制圧が完了したとの事です」
「そうか。これで帝国星系の奴らの緩衝地帯には出来るな。あとは」
「幸い近くに過激派宗教団体が居ます。奴らのイデオロギーを利用して独立国家を作らせ、事実上我々の領土を広げる口実作りになるかと……」