第六話 騎士道
キンッ!と剣と剣がぶつかる音が聞こえ続ける。
「なんで俺達がこんな場所に来なくちゃいけないんだ……!」
「僕のセリフなんだけど、僕何もしてないのになんで連れてこられてるの。どうしてくれるのジャック…!?」
「キミ達……騒いでる暇あったら仕事しなよ……!」
「お前のせいだろナルシスト!!」
「ショーンって呼んでよ!」
ここは騎士団にある訓練場で、騎士達が己の力を磨くために訓練に励んでいた。
なぜ僕達がここにいるのかというと……
あの後結局両方呼び出されてしまい、連れてかれた場所は、面談室らしき場所だった。
「まずは名を教えましょう……私はメアリー、魔術師団の第6部隊隊長です。以後お見知り置きを…」
「アルジオンです」
「ジャック…」
「ショーンです! よく覚えておいて下さい!」
ジャックはかなり不機嫌そうにしているし、ショーンは今から怒られるの分かっててよくそんな元気でいられるな。
「さて……入団式も行ってもないのに騒動を起こすなんて、いい度胸ですね……とりあえず、言い分を聞きます」
隊員にそう言われると、金髪の奴が話し始める。
「ボクはただ普通にしてたんです…! そうしたら、そこの黒髪の人に暴言を言われて…!」
まあよくも平気で嘘つけるなこいつ…というか僕を巻き込まないで欲しかった。巻き込むならジャックだけにしてくれよ……
「嘘つくなよ! お前がアルジオンに悪魔の子だとか言ったんじゃねぇか!」
僕を庇ってくれてめっちゃありがたいんだけど、隣でそんな大声で叫ばないでほしいなぁ……とはいえジャックは悪い奴じゃない、できるなら軽めに済ませたいんだけど……
「どっちが暴言を吐いたか聞いてるんじゃない……! どっちから魔術を撃ったの!」
「こいつだ!」 「この人です!」
ジャックとショーンがお互いに指を指す。
「ショーンさんが撃ってきたので咄嗟に防壁陣を展開しました、ジャックは魔術を撃ちかえそうとしただけで撃ってはいません」
とりあえずショーンが悪くなるように話し、事実と嘘を織り交ぜておく。
「そう……とはいえ、君達は友達みたいだから真偽は分からないわ」
「まぁ僕は関係ないので…ジャックとショーンさんで話しててください」
「アルジオン!? 何逃げようと…!」
「ジャック達が変な事しなければ今頃僕は平和に入隊式に出れてたんだよ…!」
僕は少し怒りながらジャックに迫りそう言う。
「まぁ…正直な話、どちらが魔術を放とうとしたのかは周りにいた人に聞けばすぐにわかる事です。問題は、魔術をなりふり構わずに放った人がいる事なんです!」
「そこで……貴方達には騎士道について学んでもらうべく、騎士団の方へ一ヶ月派遣します」
「はぁ!? なんで騎士団の方に行かなきゃ行けないんだよ……!」
「そうだよ! それにボクは何もしてないよ! ホントだって!」
「え、それって僕もですか?」
「この二人だと反省しなさそうなので、アルジオン君にも行ってもらいます」
メアリーさんはそう言う。
騎士団への派遣というのは簡単に言えば魔術をしばらく鍛えることは難しくなり、それは事実上の謹慎に近かった。
いや、流石にそれはまずい……クビにならないだけマシではあるけど、いくらなんでも魔術師団から離されるのは普通に良くない……!
「師団長には許可は私からもらっておきますので、安心してください」
「とは言っても騎士団に行くのは邪魔になるんじゃ……」
「騎士団からも許可はもらいますし、昨年もあったことなので気にしなくて大丈夫です。それに、騎士団の仕事も手伝えるので暇ではありませんよ」
「とりあえず! 問題を起こしたことを、一ヶ月間反省してください!」
ということがあり、数日が経った。
要するに僕は二人の監視役として巻き込まれてしまったのだ。
「まぁまだサボってないかの監視で済んでるからいい方か……」
現在は訓練を無断欠席している人物がいないか、そして出ないように監視を任されている。
「アルジオン! 何もなかったか?」
監視をしていると、声をかけられる。
彼女の名はライディアさん、現在騎士団でNo.3の実力を持ち、トップクラスの実力を集めたと言われている騎士団第一部隊を率いている人でもある。
ライディアさんの金色の長い髪に黄色の目は綺麗で、更にはとてつもない美人だった。
しかし、ライディアさんの顔には額から頬へ傷がついており、それが騎士として前線に立ってきた事を教えてくる。
「ライディアさん! お疲れ様です。特にはなさそうでしたけど……」
「どうかしたのか?」
「これは報告したほうがいいんですか?」
僕はそう言いながら指を指し、その先には言い合いをしているジャックとショーンがいた。
「お前がいなかったら俺は今頃こんなとこ来なくて良かったんだよ!!」
「それはボクのセリフだろう! キミが余計な……」
「アルジオン……! 報告、感謝しよう……!」
ライディアさんは笑みを浮かべて、ジャック達の方へ向かっていく。
僕はその笑みに少し恐怖を感じ、それは師匠が特訓をさせようとしてくる時以来だった。
「おい貴様ら! 何呑気に喧嘩している!! そんなにムカついているなら丁度いい…! 私の相手をさせてやる……!」
「ラ、ライディアさん……! あの、これは……」
「問答無用!! 私と手合わせできるんだ……感謝して欲しいくらいだよ…! さぁ、分かったらさっさと来い!」
ライディアさんはそう言ってジャックとショーンをどこかに連れて行く。
ご愁傷様とは思いつつも仕事を任されているので気にせずそちらの方へ向かうことにする、それにジャック筋肉質だしまぁ大丈夫でしょ……
騎士団に任された仕事は、団員の監視や団員達の服の洗濯、浴場の掃除等基本雑用ばかりで、これくらいの雑用なら師匠の家にいた時にやってきたから問題ないし、監視も騎士の人は問題を起こさないのでただいるだけで良かった。
そして現在は昼食の調理を手伝っている最中だった。
「アルジオン君って料理できるのか? 凄い上手だな!」
「昔から時々作ってたので……」
僕と話している人はライアンさん。基本は騎士団にある食堂で調理をしているが、騎士としての実力も高く、ライディアさんと同期らしい。
「ライディアって厳しいでしょ? なんかされなかった?」
「僕はされてないですけど…友人はどこか連れてかれて行きましたよ。相手してやるって言ってました」
「ありゃ、そりゃ大変だな! 友人君死んでるかもよ…!」
「そこまでなんですか…?」
ライアンさんと話していると、ライディアさんがジャック達を連れて調理場に入ってきた。
「すまないな、教育を終えてきた」
「ライディア? それ教育じゃなくて虐待じゃない?」
ライアンさんはライディアさんにそう話し、ジャック達の顔は今にも死んでしまいそうな顔をしていた。
「ジャック…? 大丈夫か…?」
「……やばい……殺される……」
あのうるさいジャックがここまで静かになるなんて…!
「シ…ショーン…?」
「ママ…今までありがとう…」
ダメだ…! 二人して死にかけてる…!
「こりゃ重症だな……ライディア! いくらなんでもやりすぎだ…! こいつらは魔術師で、騎士じゃないんだぞ…!」
「仕事をサボっていたのはこいつらの方だ! 私は…」
「だとしても僕達がずっと担当するわけじゃないんだから、注意するだけで良かったでしょ…」
「……はい」
ライアンさんがライディアさんを叱り、ライディアさんが落ち込む。
ライディアさんが落ち込んでいる姿はかなり珍しかった。
「とりあえず今後こういうことはしないように! ただの暴力にしかなってないよ!」
「はい……気を付けます……」
ライディアさんは落ち込みながら調理場を出て行った。
「君達大丈夫? 立てるか?」
ライアンさんがそう問いかけても、ジャックとショーンは返事をしない、というか気絶している。
「気絶してるか……アルジオン君、彼達を医務室に連れて行ってあげて、料理の方は問題ないから」
「分かりました……」
何をされたらこうなるんだ……正直、想像をしてもモンスターに襲われたんじゃないかと思えてくる。
最初は不安だった騎士団への派遣も、時間が経つと慣れて、意外と平和に終わりそうだった。
とは言ってもジャック達が余計な騒ぎさえ起こさなければだが………
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