第五話 別れと出会い
時が経ち、18歳になった僕は今、師匠のもとから離れようとしている。
「師匠、今までお世話になりました!!」
「本当に、行っちゃうの……?」
「入団試験に合格したので、心配はいらないですよ。会える時は戻ってきますし……」
「そっか……」
約7年間、僕は師匠にひたすら鍛えられてきた。
「アルジオン! シルバーウルフくらい一人で倒せるようになれ!」
「し…師匠! 僕じゃ無理ですって……!」
シルバーウルフを一人で倒させてきたり……
「アルジオン! まだ100周もしていないぞ! 何疲れているんだ!」
「そりゃ……あんだけ……走ったら……というか……まだ走るん……ですか……?」
師匠が用意した一周1kmのコースを100周走らせてきたり、ありとあらゆる事をやった。
そのおかげで師匠程とはいかないけど、魔術師としては優秀なくらいにはなった。
そして魔術師団の入団試験に挑み、筆記は危なかったけど実技の方でなんとか合格した。
師匠がいなかったら魔術師団に入る事などあり得なかっただろう、師匠の存在は僕の人生を大きく変えてくれた。
「本当に……ありがとうございました……」
「アルジオンが居なくなると、寂しくなるよ、辛くなったらいつでも頼っていいからな」
「師匠の特訓をしてきたんですから、何があっても辛くならなそうですけどね」
「それもそうだな……アルジオン、行ってらっしゃい!」
「行ってきます!」
別れる時の師匠の寂しそうな顔が、僕と師匠の思い出を蘇らせてくる。
今後会えないわけではないが、会う頻度が減るのは当たり前な事で、いつ会えるのかも分からない。
そう思うと、僕も寂しかった。
入団式を行うため、僕は魔術師団へと向かっていた。
そして到着すると、僕と同じように魔術師団に新しく入団する者達がいる。
ここからは僕だけの力で生きていくんだ……そんな事を思っていると、突然声をかけられる。
「おい! お前……黒魔術の才能を持ってんのか……?」
僕と同じくらいの身長だが、相手の方が少し大きく、おそらく190cmくらいはあるだろう。
短髪の赤い髪、目つきは鋭く赤い目をしていて、全体的に筋肉質な男だった。
「おい! 聞いてんのか!?」
「そうだけど……それがどうかしたの……?」
「ハハハッ! そんな事馬鹿正直に言う奴がいるかよ! いいなお前……気に入ったぜ……!」
僕が質問に答えると相手の男は笑って、そして僕の事を気に入ったと言う、正直気に入られても仕方ないし、こういうタイプは少し苦手なのだが、服装を見る限り僕と同じ新しく入団する人らしいので、仲良くしておいても無駄ではないか……
「君、名前はなんていうの?」
「俺か!? 俺の名前はジャック!! 俺の魔術の火力を見て驚くなよ!! 俺はな! 上級魔術が使えるんだ!」
声でかいなこいつ、やっぱり苦手なタイプだ……
「ジャックか……いい名前じゃないか、僕はアルジオン。よろしくね」
「アルジオン! かっけえ名前じゃねえか!」
「そうかな……?」
正直名前は捨てられた家族に付けられたからあまり好きではないんだけど……
「なんでこんな所に悪魔の子がいるんだい…!? 最悪の気分だよ……!」
突然そう聞こえてきて、声のする方を向くと、そこには明らかに嫌そうな顔をしている事が分かる表情をした人がいた。
金髪の長い髪に金色の目、少し細い体、そして鞄には自分の顔が描かれており明らかに自分への愛が分かる格好をしていた。
どうしてこうも自分が苦手なタイプばかりの人間と出会うのだろうか、まあ好きな人間がいない以上どうしようもないのだろうけど。
「あぁ!? いきなりなんだお前!」
ジャックが金髪の男に怒鳴っている、変な事には巻き込まれたくないんだけど……
「逆にキミは良くそんな奴と隣で歩けるね……! 僕なら近づくだけで死にたくなってしまうよ……」
「てめぇ……! アルジオンの事馬鹿にしてんじゃ…!」
「やめてジャック。面倒な事にしないでくれ」
僕はジャックを止める。
流石に入団式の前に悪名が付くのは困る、無視してればいいだけだし、関わるのも嫌だった。
「行くよジャック。君も入隊式の前に魔術師団をクビにはなりたくないだろう」
「アルジオン……だけどよ…!」
「こういうのは慣れたよ……」
師匠から聞かされた体験、僕が実際に受けた事を考えるとこのくらい大したことない。
「ボクから逃げるんだね……! 黒魔術を覚えてる奴はその程度ってコトか…!」
うぜぇなこいつ!!近づくだけで死にたくなるなら関わってくんなよ!!
「もう我慢できねぇ!! 俺のダチ馬鹿にしてんじゃねぇぞ! このナルシスト!!」
「おいジャック…!」
「ボクの事をナルシストって言ったかい……!? キミは痛い目を見たいらしいね…!」
ジャックが堪えきれなくなってしまい、金髪の奴に突っかかってしまった。
正直僕もイラついていたのでジャックに加勢しようかと思ったが、いくらなんでも初日で問題起こしてクビになったら師匠に合わせる顔がない。
「丁度いい……! 俺の力見せてやろうじゃねぇか!!」
「ボクに勝てると思わないでほしいなっ……!」
そう言ってジャックと金髪の奴が魔術を放とうとする。
おいおい……勘弁してよ……!だからこういうタイプは苦手なんだ…!
「死ねぇ!! ナルシストォォォォ!!」
「【ジャック】!!!!」
ジャックが上級炎魔術を放とうとする瞬間に、僕が咄嗟に魔術を使い、ジャックは僕に名前を呼ばれた瞬間に、魔法が使えなくなったようだ。
「なっ……! なんで魔術が出ねぇんだ!?」
「ふっ……僕に怖気付いたようだねぇ……! そんなキミにボクの力を見せてあげるよ…!」
金髪の奴が魔術を放とうとする、唱えているのは中級雷魔術のようだった。
僕は魔術でジャックの前に防壁陣を展開し、後ろに隠れる。
「お、おい! これお前が…!?」
「そうだけど…! 効果があるか分からないからジャックも盾にさせてもらうよ…!」
「はぁ!? おいアルジオンちょっと……!」
「そんな事しても無駄だよっ! ボクの魔術を受けてみろっっ!!」
ジャックが慌てている間に、金髪の奴が魔術を放ってくるが、防壁陣がなんとか防いでくれた。
というよりかは、防げるように出したのだが。
「あぁ良かった…なんとか防げたみたい……」
「お前よく普通に俺を盾にできたな!?」
「ジャックのせいで面倒ごとに巻き込まれたんだ、僕の盾くらいにはなってくれ…!」
「つーか魔術撃てなかったのお前のせいだろ!」
ジャックの言う通りで、僕が魔術を使えないようにした。
というのも、軽い言い合いで終わらせれば注意だけで終わると思っていたから。
ただ、ジャックが魔術を放ってしまうと戦闘しようとしたことになり、そうなるとジャックに重い処罰が下されかねない。
ジャック達の騒動に僕も巻き込まれることは殆ど分かっていたので少しでも軽い処罰にしておきたかった。
別に防壁陣が破られるとは思っていない。
ただジャックに暴走されてイラついたのでビビらせようとちょっとした嫌がらせで言っただけだった。
「貴方達何してるの!!」
ジャックと話していると、魔術師団の制服を着た女性が来た。胸元に星のマークがついているので、恐らく魔術師団の偉い人なんだろう。
「防壁陣……貴方達! 魔術を放った音が聞こえたけど、どっちが撃ったの!!」
「あの人だよ……! あの赤髪の…!」
「はぁ!? お前が撃ったんだろうがナルシスト!」
団員を目の前に、金髪のやつは丁寧な態度を取る一方で、ジャックは普通に暴言を吐いてしまう。
「おいジャック…! あの人多分偉い人だから…! 少しでも印象良くして…!」
「聞こえてますよ! 両方来なさい!!」
まさか初日にこんな問題が起きてしまうとは……大丈夫なのかなぁ……?
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