第四話 黒魔術
月日が経ったある日、それは突然だった。
「…!? 痛いっ!!?」
寝ていた時、突然の痛みが僕を襲ってきた。
焼けるような、刺されたような、そんな痛みがじわじわと全身に広がっていく。
「しシょう…? シしょウ!! タスケてっ!!」
今まで感じた事のない痛みに僕は焦って、深夜にも関わらず叫んで師匠に助けを求める。
「アルジオン!?」
僕の異変に気がついたのか、師匠は走って僕のもとへ来る。
「 暴走したか……!」
「イたい…! くるシい…! しショう……!」
「大丈夫! 私が治してやるからな……!」
そう言って師匠は僕の手を握ると、魔術を使っているのか師匠の手は光を纏う。
師匠が何をしているのか分からない。怖い。痛みが僕を襲い続けて、ただ苦しかった。
どれだけの時間が経ったのか分からない。ずっと師匠に手を握られている事しか分からない。
ずっと痛くて、意識は何回も遠くなった。でも、師匠の手を握ると、少し痛みが和らいだ気がして、なんとか耐えていた。
でも、既に限界は迎えていた。師匠の手をどれだけ強く握っても痛みが和らぐ事はなく、意識も失いかけていた。
そんな時、急に痛みが引いていく。
「アルジオン! 大丈夫か!? 返事をしろ!」
意識が朦朧とする中、師匠の声で次第に意識を取り戻す。
「師匠……」
「アルジオン……!」
師匠は僕を抱きしめる。師匠の息切れしていて、疲れている事が分かる。
それがどれだけの時間がかかったのか、僕は理解できた。
「大丈夫か? 苦しくないか……?」
「うん……」
何が起こったのか、僕は聞く事ができなかった。僕の中にはただ困惑が残っていて、涙を流すこともなく、ただ師匠に抱きしめられていた。
僕が落ち着いてからも師匠は僕から離れる事はせずに、僕が窓の方を見ると既に明るく、朝になっていた。
師匠と朝食を食べている時、師匠から夜の事を説明された。
「アルジオン……夜の痛みの原因だが、君の黒魔術が暴走したんだ……」
「黒魔術…」
暴走をする事があるのは知っていた。でも、まさかあんなに辛い事だとは思っていなかった。
「でも大丈夫…私が治療したから、もうアルジオンの黒魔術が暴走をする事はないよ…」
「そうなんですか……」
師匠に言われた言葉はあまり実感がなかった。黒魔術の暴走とは一生付き合わなければいけないものだと思っていたから。
僕自体は才能が開花してからさっきまでの間ずっと暴走する事がなかったから、余計に実感がない。
「それで…君が許すのであれば今から黒魔術を鍛えてみないか…?」
「どういう…事ですか…?」
いきなりされた提案の意味を理解できなかった。
闇魔術を鍛えたところで、負の効果しか与えないはず…何を目的に鍛えるのか、分からない僕に、師匠は説明をしてくれる。
「黒魔術は一般的には負の効果を与える事が多い…ただ、それは黒魔術の呪いが原因なんだ」
「でも、私が治療してその呪いはもうない…つまり、本来の効果を君は使えるようになったんだ」
「本来の効果って…」
僕がその意味を聞こうと師匠の方を見ると、そこにいたのは髪の色が黒髪に変わった師匠だった。
でも、違うのは髪の色だけでそれ以外は紛れもなく師匠と同じだった。
「あっ……え……?」
「やっとこっち見た、黒魔術の説明してる時から黒髪にしてたのに」
「し…師匠……?」
師匠がなぜ黒髪になっているのか、困惑している僕に師匠は説明する。
「私は幼い頃に魔術師に憧れていてね、将来は魔術部隊で活躍をする事を夢に見ていたんだ、でも私は黒魔術の才能を開花してしまってね…君と同じように捨てられてしまったんだ」
「師匠が……黒魔術……」
「ああ……そして、何回も死にそうになったよ。空腹やモンスターの襲撃、盗賊に襲われたりもした。だが、私は死ぬわけには行かなかった。そして、夢の為にこの黒魔術も利用しようと思った。」
「辛かった、呪いで痛みに襲われたり、容姿のせいで差別された挙げ句男に無理やり襲われたりもした…!」
「だが、私は遂に黒魔術を理解したんだ、そして呪いも解除した……。呪いを解除した後は凄かったよ、黒魔術と呼ぶには相応しくない効果に変わったんだ」
「全ての魔術を使えるようになったり、自身を含めた周りの魔力を強くしたり、治癒魔術は聖女しか使う事が出来ない上級治癒魔術よりもずっと強かった」
「特に…治癒魔術は強すぎる。私が望めばこの魔術で若返りをする事すら出来た。要するに私は奇襲でもされない限り不老不死なんだよ」
師匠からされる説明は、とても事実であるなんて思えなかった。黒魔術には呪いがあって、それを解除したら全ての魔術が使えるようになり、さらには不老不死になることもできるなんて、夢の話を聞かされているようだった。
「そしてアルジオン…君の黒魔術の呪いはもうない…つまり、君は私のように、全ての魔術を使えるようになったんだ…!」
「師匠……! 落ち着いてください!」
「あぁ……すまない」
師匠の話を止めて、僕は頭の中で整理をしていく。そうして整理していくと、一つの可能性が思い浮かんだ。
「あの、師匠って……」
「伝説の魔術師って呼ばれてたりしますか……?」
「……そうだと言ったらアルジオン、君はどうするんだい?」
師匠の顔が少し悲しそうな顔へと変わってしまう。きっと知られたくないことだったんだろう。
「えっと……そうだったんだって驚きます……」
どう答えるのが正解なのか、どんな言葉を師匠が求めているのか、僕は分からなかった。
「そうか……それで、どうする? 黒魔術を鍛えるのかい?」
僕は家族に黒魔術のせいで虐げられてきた。
でも、呪いが解けて……黒魔術を鍛える事によって変わるなら、僕が強くなって一人で生きていくことができるのなら……
「鍛えます!」
迷いなんてない。
今まで何もできなかった僕が変われるのなら、どんな事だってやり遂げる覚悟があった。
「そう……じゃあ、アルジオン。君は今この瞬間から助手を辞めてもらう……そして今度は弟子として……厳しく教えてあげよう!!」
僕は今日から、助手じゃなくて弟子として、師匠に鍛えられる事になる。
仕事の手伝いをしなくなるのは慣れないけど、そんな考えは翌日からの特訓によって考える暇も無くなった。
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