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第一話 僕と師匠①

「師匠。用意されたもの、これで合ってますか……?」


「ハイポーション3個に、普通のポーションが5個……うん、合ってるよ。ありがとう、アルジオン」


「あの…何に使うか聞いてもいいですか…?」


「んー? これはね、取引に使うんだ。今日は大事なお客さんが来るから、アルジオンなら大丈夫だろうけど、失礼のないようにね」


「はい……師匠」


初めての来客。僕は不安だった。こんな見た目の僕が周りにいると、師匠の印象を悪くしてしまわないか。


「あの、師匠……僕がいたらお客さんの……」


「それ以上言ったら怒るよ。君は何も考えなくていい。それに、他人の容姿で気分を害するような奴、こっちもごめんだ」


師匠の言葉は普段と違って少し冷たい。

これは、僕が自分を貶してしまった時に師匠が出す態度だった。


師匠は僕が自分を貶す事を酷く嫌っている様子で、一度僕が注意されても直さなかった時、師匠は僕のことを本気で叱った。


「何故そんなに自分を貶すんだ! 自分を愛す必要はないが、自分を責めることだけは絶対にするな!」


師匠の言葉は強く頭に残っている。いつも優しい師匠が、本気で僕を怒ったから。

でも、師匠がそこまで怒るようなことをしてしまった自分を心の中でいつも貶している。師匠の話の意味を、僕は理解しているつもりなのに、意識をしないと自分を貶してしまう。


「アルジオン、そろそろ来る時間だ。準備をして」


「は、はい……!」


師匠の言葉で僕は気を引き締める。

緊張や不安、そして何よりも怖い。

自分が師匠に迷惑をかけないか、自分を見て何か言われてしまわないか。


「大丈夫……! ほら、隣においで……」


「で、でも! 僕が師匠の隣になんて…!」


「アルジオンが隣にいてくれた方が心強いんだよ……?」


「そ、そうですか……」


僕が隣にいた方が心強いという言葉が、嘘か本当かは分からない。

でも、そんな言葉が僕にとっては嬉しかった。


「失礼します」


遂に客がやってきた。少し歳をとっている、中年くらいの人だった。

中に入ってくるなり僕の方を見て、少し驚いたような表情をする。また何か言われるのか…そんな風に思っていた。


「その……隣の方は……?」


「私の大事な助手だよ、いつも彼には助けられていてね……」


師匠はそう言って僕に頭を撫でてきた。人前なのに、そういう事をされるのは少し恥ずかしい。


「師匠! 恥ずかしいです……」


「いつもやってる事じゃないか。それで……? 本題に入らなくていいのかな?」


「あぁ、よろしいですか……? では早速、以前に頼んでいたポーションなのですが……」


「もちろん、用意しているよ」


「そうですか……! それは良かった。最近になってポーションを買う人が増えてきましてね、今回の場合は緊急の依頼だったのですが」


「何かあったのかい?」


「最近になってフォード家がポーションを要求していましてね……」


「……!」


『フォード家』僕はこの言葉に反応してしまう。

家族がいる場所、そして僕が絶望の底に落とされた場所、僕を捨てた奴らがいる場所。


言葉を聞いて息が乱れる。

だめ、早く普通にならないと師匠に迷惑をかけてしまう。そう思えば思うほど、息が荒くなっていく。


「すまない。助手の体調が優れないようだ、一旦席を外してもいいかな?」


「もちろんです……! 助手の方のお身体の方がお大事ですから……!」


「それじゃ少し失礼するよ」


師匠は僕を寝室へと連れて行く。


「師匠……僕の事は……大丈夫ですから……!」


「アルジオン、私に嘘は付かないで。言いたくない事は言わなくてもいい…でも、話す時に嘘だけは言わないでくれ」


そう言って師匠は僕をベッドに寝かせる。師匠の目は心配をしている目で、対応へと戻っていく。

また師匠に迷惑をかけてしまった。何もできないのに、迷惑だけはかけてしまう。そんな僕が情けなくなる。


そんな事を考えていると涙が溢れてしまう。師匠が戻ってくるまでに、この涙を収めなければ。

そうやって収めようとすればするほど、涙が出てきて、自分でもどうすればいいのか分からなくなってしまった。


「アルジオン、今終わらせて……!? どうしたんだ!? どこか苦しいのか!?」


師匠が戻ってきてしまった。心配させないようにって、思っていたのに。


「ちがっ……」


涙でうまく喋れない。早く事情を教えないと、余計に心配をさせてしまうのに。


「私に話せる事なら話して……? 大丈夫、きっと力になれるから……」


師匠は僕の涙が苦しみによるものじゃない事を察したらしい。


僕は涙を流しながら、必死に喋ってなんとか師匠に事情を説明した。


「そうか、君は優しいな……でも、そんなに気にしなくても大丈夫だよ……」


師匠の言葉は、優しくて余計に涙が止まらなくなってしまう。師匠も、それを分かっているのか、何も言わずに抱きしめてくれた。


「ごめんなさい……師匠の服が……」


「構わないよ、これは汚れではないからね。それに、汚れだったとしても洗えばいいだけだから」


まだ僕は、師匠のことを詳しく知らない。でも優しい人だと言うことだけはわかる。

僕の事を想ってくれていることは…………

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