第零話 プロローグ
僕の名前はアルジオン
リュード王国にある有名な家系のフォード家の三兄弟の末っ子として生まれた。
フォード家は最初は有名ではなかったが、その三兄弟によって一気に有名になったのだ、良くも悪くも。
この世界ではモンスターが出現し、それを討伐するために王国の騎士団や魔術師団、そして冒険者がいる。冒険者の場合は、戦闘能力さえ持っていれば誰でもギルドに登録する事が可能で、登録をすれば冒険者として活動する事ができる。
そして、この世界では11歳の時に才能が開花する。
それは剣士としての才能か、魔術師としての才能か、それとも商人としてか、何かはその時まで分からないが、人は必ず何かしらの才能を持っている。
とは言っても才能で今後が決まるわけではなく、剣士の才能が開花しても、魔術師として活躍する人もいる上に才能の開花はある程度操作できて、11歳になるまでずっと剣士として訓練させたりすれば剣士としての才能を開花する可能性が高いのだ。
それを利用し、兄のライオットは剣士の才能を開花させた。
将来は騎士団の団長になる事間違いなしと言われたらしく、両親はかなり喜んでいたらしい。
一方で姉のフェリアは魔術師としての教育を施し、魔術師の才能を開花させた。
その実力は伝説の魔術師リーウェンも認めるほどだったそうだ。
伝説の魔術師リーウェンは常人では考えられない、全ての魔術を使う事が出来た。
どんな病も治し、モンスターも普通は国の戦力を集めて戦うようなドラゴンであってもリーウェンであれば一人で倒す事が出来た。
そして数々の功績から英雄と呼ばれ、そんな英雄にフェリアの実力を認められたとなれば世間はさぞかし大騒ぎになったのだろう。
そんな兄弟たちがいる中、僕も魔術の才能を開花させた。
といってもそれは黒魔術だったけど。
黒魔術とは、使おうとすると制御が効かずに、使わなくても暴走したりととにかく危険で、効果もバラバラで、使う度に自身や相手の寿命を減らしてしまう。
そんな魔術だから世間からは黒魔術を開花したものは悪魔の子と言われ、恐れられていた。
しかも黒魔術は一種の呪いに近く、11歳の才能開花を迎える前に才能が開花することがあり、開花した場合髪の色が黒色に変わる。
僕の場合は9歳の時に黒魔術の才能が開花し、髪の色も金色から黒色へと変色してしまい、それ以降家族からは人として扱われることがなくなった。
両親は兄と姉には優しく接しているのに、僕に対しては
「近寄るな! このゴミが!」
「お前がいるとライオット達が呪われる!」
「さっさと消えてしまえ!」など罵詈雑言の嵐。
唯一兄が心配する素振りを見せてくれてはいたが、僕と関わると両親に怒られてしまうため、話しかけてはくれなかった。
そして11歳を迎えた時、僕は森へと捨てられた。
両親達は本来才能が開花するはずの11歳を迎えると何か変わるのではないかと思っていたんだろうけど、何も変わらなかった。
森に捨てられた後はただ彷徨っていた。移動しても何も変わらないのに、助けを求めてただ動く。
すると、草が擦れる音がした。助けが来たと思い音の方を向くと、そこにはモンスターがいた。
白い毛に、鋭い牙を持った狼。その名も【シルバーウルフ】
シルバーウルフは僕に近づいてきて、そして飛びかかってくる、そこで僕の意識は途切れた。
そして、目が覚める。気づいたら僕はベッドの上で寝ていた。シルバーウルフに襲われたはずの僕が何故ベッドの上にいるのか、突然の事に困惑していると一人の女性が僕の所へとやってくる。
顔は若いのに、大人の雰囲気を持っている。
彼女の銀色の髪のショートカットに青い目、僕はそれを見てただ、綺麗だと思った。
そんな僕に、女性が話しかけてくる。
「森での事、覚えてる……?」
僕はその質問に答えるのに時間がかかった。
この人は誰なのか、ここはどこなのか、様々な疑問が頭を巡っていたから。
「……覚えてない」
「そっか……。今日から君は、私のお手伝いをするの。分かった?」
「うん……」
何も分からない女性の言葉に、僕は了承してしまうが、別にどうでもよかった。
どうせ断ったって居場所はないのだから、僕を必要としてくれる彼女のもとにいたかった。
「あの、名前は……?」
「君が知る必要はないでしょ? 逆に聞くけど、君の名前は?」
「いやっ、でも……」
「名前を教えて」
「アルジオン……」
「そう、アルジオン。いい名前じゃない」
「ありがとうございます……」
僕が黒魔術の才能を開花している事に彼女は気づいてるはずなのに、何も言わない。
僕の黒い髪に何も反応しないのは彼女が初めてだった。
こんな僕を必要とする彼女は謎に満ちていて、僕の好奇心が彼女のそばに居る理由を塗り替えていた。
最初の頃は何をすればいいのか分からなくて、迷惑しかかけていなかった。
「あれ……? 本の順番バラバラだ」
「あっ……ごめんなさい……」
本棚に本を整理するように頼まれたのだが、緊張からかうまく整理できなかった。
「まだ覚えてる途中だもんね、次は気をつけよっか」
怒られると確信して怯える僕を、彼女は優しく注意するだけだった。
家じゃ何をしても暴言を吐かれ、腹いせに殴られたりするのは当たり前だったから、彼女が何故そうしないのか理解できない。
「僕を……怒らないんですか……?」
「もう怒ったでしょ?」
「殴ったり、蹴ったりしないんですか……?」
「……いい?アルジオン。殴ったりして怒る人は人としてダメ。それに、私は人のミスは気にしない。ミスくらい、私で補えるから」
「まぁ、だからといって甘えた事をするのは許さないけど。でも、アルジオンはそうじゃないでしょ?」
「うん……」
正直、彼女が何を言っているのか分からなかった。
でも、両親とは違う。温かい言葉で、僕を想ってくれてる事は理解できた。
しばらく時が経ち、時間はかかったけれど、手伝いで迷惑をかける事はなくなった。
「ありがとう、アルジオン。優秀で助かるよ」
「あの、僕はどう……」
「『あの…』じゃなくて、師匠って呼んで。まだ慣れないのかもしれないけど、これから人前で話す事もあるのかもしれない。だから、頑張って」
「師匠……」
「ふふ、いい子だね」
何故森の奥にある師匠の家にいたのかは分からないし、師匠もこの事を話してはくれない。
でも、僕は気にしない。これ以上僕の居場所を失いたくはないから……
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