第40話ー2.リハーサル
時間が来て練習が終わった後にリハーサルがある。
僕たちはセンマイコーヒーに移動して先にいる杏子に会った。
「杏子、順調?」
「直之さん。みんな、集まった? 集まったらリハーサルをしようか」
「これで全員だな」
この店は座席は三十ぐらいはあるが、お客さんを詰め込んだら五十人以上は入りそうだ。
この店のステージもまあまあ広い。でも舞台袖は一般的なものと比べてスペースが少ない。
「直之さん、これ」
「あ、ああ」
僕は杏子から台本を渡された。そういえば、今までは実際に舞台でリハーサルしてなかったんだった。練習場所で一通り流れを確認していっていたのでこんな台本などは渡されたことがない。今までは本番になって初めて知ることも多かった。
今回は公開前にそれを細かく知れるから楽しみだ。
でも、ゆっくり台本を読もうと思ったら、特にそんな時間などはなく、杏子の余興が始まった。
「みなさん! 初めまして! カフェファクトです! 今日はよろしくお願いしまーす!」
相変わらず杏子の声は大きくてよく伸びる。元気な声だ。杏子が余興を終えようとしたその時、
「最初の曲に入る前に、あの人を呼ぼうか?」
あの人、まだだれか出てくるのか?
「私たち『カフェファクト』を作ってくださった吉田直之さんです!」
「何で僕が呼ばれるんだよ?」
「最初のころの話をして頂きたくて、あの北原さんとこの店に来た事とか」
「お断りします」
「残念! 早速曲の紹介から行こうか」
この話はすぐに終わった。でも、本当に残念だと思っているのかな?
「はい、最初の曲はアイの日常です。これは皆さんもお分かりになるとは思いますがオリジナル曲じゃないです」
そういえば、この曲だけがコピー曲だった。啓子と哲子に認めてもらうために急遽踊った曲だったな。
「その頃は人数も少なくて、ある人に認めてもらいたくて、踊った曲です」
そのあと、杏子はちらっと啓子の方を見た。
「二宮さん、なんでこっちを見るの?」
「当時の事を思い出してしまって」
「見ててすごいと思ったから、あれがなければ私は今ここにはいないはず」
「啓子さん、それ言ってもらえませんか?」
僕はいいセリフだなと思ったから思わず啓子に交渉した。
「え?」
啓子は驚いて思わず口を塞いでいた。
「え? ああ、分かったわ。ちょっと急なことでびっくりした!」
啓子の了解がもらえたところでもう一回。
「その頃は人数も少なくて、認めてもらいたくて、踊った曲です」
「でも見ててすごいと思ったから、あのライブがなければ私は今ここにはいないはず……」
「彼女は少し遅れて加入したんですけど、割と厳しく見ていましたよね」
「そうよ。みんな成長したわね」
「この時した曲がアイの日常っていう、カフェファクト唯一コピー曲です。それでは、お願いします!」
僕は機材の再生ボタンを押した。
『カフェファクト』ができる前の最初のライブでは、啓子が入ってくれるかどうかドキドキしたところからこのアイの日常のコピーが生まれた。そのころと比べて彼女たちも歌やダンスがとてもうまくなった。あのころは海音もボイストレーニングをしていなかったが、今聞こえてきている海音の声は当時よりも海みたいに透き通っていて美しい。
これから彼女には『GARDEN CALL』も歌っていただかなければならないので頑張ってほしいと思う。
アイの日常が終わり、次は『Look At to me』だ。
「次はこの曲のヴォーカル、北原結香さんをお呼びします。結香ちゃーん!」
杏子に呼ばれた結香が出てきた。杏子が結香ちゃんって呼んだのは初めてな気がする。
「こんばんはー! 北原結香です。さっき登場した吉田直之さんの幼馴染です」
「余計なことは言わんでいい!」
「直之さん? 何でさっきから時々進行を妨害するの?」
「え?」
「何で直くんの説明をしたらいけないのよ?」
「え? それは」
僕は杏子と結香に責められた。あれ? 何で僕がこんなに責められてるの?
「いいから、続きをやってくれよ!」
「変なの」
「直之さん、後で話そうね」
結香に何か言われた。杏子はそういう笑顔が怖いわ。
「この曲は、日本語でもっとあたしを見て、っていう意味です。会場のみなさん! もっとあたしを見てください!」
結香はバンザイをしながらアイドルの中へ戻っていく。結香は盛り上がっているが本番も会場は盛り上がりそうだ。
『Look At to me』が終わったら次は、『GOD BRIGHT』の番だった。
「続いては、私の可愛い後輩を紹介します!」
ここで、真春と由利乃が登場する。杏子は名前を呼ばないまま二人が入ってきた。
「こんばんは! 大沢由利乃です!」
「こんばんは!! 桃瀬真春です!」
真春がちょっと慌てたように名乗った。何でだろう?
「二人は別のユニットで活動しているんですね」
「はい」
「今回はゲストとして来てもらいました」
「「よろしくお願いします!」」
真春と由利乃は元気よくあいさつした。
「では早速聞いてください!『Let’s Play Game』」
いきなり曲に行くのか? まだ何も話してないだろう。
後この曲は初めて聞く曲だけど、これ絶対黄桜さんが作った曲だろ。
こういう二人の曲が終わった後は……。
「みなさん、最後は『GARDEN CALL』です!」
アイドル達が『GARDEN CALL』をやりきってリハーサルは終わった。今回はアンコールもない。
あとは明日本番を迎えるだけだが……。
「直之さん、お疲れ様」
「お疲れ様」
「明日までにしないといけないことが山ほどあって」
「そうなの?」
「会場候補が見つかったから二階堂さんとミーティングでしょ? あとは結香さんがもうちょっと練習したいって言ってて」
「そう、練習は私が付けてきますので!」
「由利乃は大丈夫なのか?」
「はい、結香さんは嫌がってますが、本番は明日だからみっちり教えます」
そう言って由利乃は去っていった。
「怖っ」
「結香さん、折れないといいけど」
杏子が心配していることを僕も心配している。折れて明日ライブに出ない、って言うのだけはやめてほしい。




