第37話.地獄のダンスレッスン
「真春ちゃんをカフェファクトに入れてよ」
「私も真春ちゃんたちと踊りたい」
『GOD BRIGHT』のライブが終わった後の帰り道で、結香と宇音は僕に詰め寄る。しかし、真春を入れるとなると由利乃の事も考えなければならない。それにまだ一部のアイドルが反対しそうだから、今入れるのはまだ早い気がする。
「いや、できたらもう入れてるけど」
「だったら入れてよ!」
「ダンスを教えてもらえればいいんだから!」
結香は文句を言っているが、宇音は今何を言ったんだろう。
「宇音、何か言った?」
「真春ちゃんたちにダンスを教えてもらおうよ」
「うーん、みんなに話を聞かないと何とも言えないなあ」
「みんな納得してくれないのかな?」
「うーん、特に啓子がさあ」
「え? 村原さん、ホール貸してくれたんじゃないの?」
「そこなんだよ。あの二人、どうやってホールを借りたんだ?」
宇音の疑問は僕の疑問でもあった
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そこで僕は、結香と宇音を携えたまま、啓子に『GOD BRIGHT』の裏事情を聞きに行った。
「啓子さん、今でも『GOD BRIGHT』の加入に反対なんですか?」
「そうよ」
啓子はまだ彼女たちを認めていない。だったらなぜホールを彼女たちに貸したのか。
「でもさ、『GOD BRIGHT』にホールを貸してますよね? あれは何故?」
「黄桜さんから交渉があって」
黄桜さんの魔の手は啓子にまで及んでいたとは……。でも啓子は強いぞ。
「何ニヤニヤしてんのよ」
危ない。啓子に心の声を読まれていた。
「あれは黄桜さんが貸してくれるか、エアホッケーで決めようって言って来て、面倒くさいから貸したのよ」
いや、なんというか、黄桜さんも啓子も策士だなあ。
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啓子と別れた後、僕たちはさっき彼女が言ってたことについて話していた。
「事前に黄桜さんが手を打ってたのね」
「そうなるな」
「それに村原さんが断れなかったと。でも、村原さんって絶対断りそうだけど」
「黄桜さんが押して、啓子があっさり折れたんだな」
「確かに、いつもの村原さんのイメージとは違うなあ」
啓子はきっぱり断ってくれそうだけど、あっさり黄桜さんの条件を飲んでしまった。それが意外だと結香は言っているが、宇音はどう思っているのか?
「宇音もそう思うのか?」
「してやられたって感じだね」
「宇音、言い方が……」
「直くん、これ、もともとどんな話だったっけ?」
宇音と会話していたが、結香の指摘で話が脱線していたことに気付いた。
「えーと、真春たちにダンスを教えてもらいたい、だったかな」
「それだ!」
結香は手をポンッと叩いて納得した。
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翌日、結香は元気よく出社してきた。まあ、練習場所になんだけど。練習場所の隣には教室のような部屋があるが、僕は大体そこにいる。練習は午後だけだが、昼休み中に移動してきている。
「今日真春ちゃん来てるよね?」
「いるぞ」
「じゃあ、早速突撃で」
「ちょっと待って! どう頼むか決めたか?」
「私にダンスを教えてほしいって……」
それで分かってくれるかな? 理由があってもいいはずだ。
「他に言いたいことはある?」
「他? 個人的に教えてほしいだけなんだけどなー」
「そうなの?」
「うん、あ、よければ有浦さんも誘おうか? 言い出しっぺだから」
結香が宇音を誘うのはいいけど、言い方が……。
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というわけで、結香、宇音と一緒に練習場所に行くと真春が出迎えてくれた。
「こんにちは、吉田さんも来たんですね」
「結香からお願いがあるって」
「真春ちゃん、突然で悪いけど、ダンスを教えてくれないかな?」
真春は驚いた表情でこちらを見ている。
「僕からも頼むよ。今の結香、結構やる気あるからさ」
「えーっと、何から教えましょうか?」
「前教えたあたしのダンス、あれをもっと上手に踊りたい」
「分かりました。私だけでは分からないこともあるので、助っ人呼んできますね」
「助っ人?」
「はい」
結香は僕に近づいて僕だけに聞こえるようにこう言った。
「何か嫌な予感がする」
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真春が言ったその「助っ人」を前に自分の曲を踊ってみる結香。
「全然だめね」
「そんな……」
酷評を出しているのは「助っ人」の由利乃である。
「まず基本からね、手が伸びていない。これは結香さんの不安の現れです。振り付けは覚えているみたいなので自信を持ってください」
「はい」
「あと、サビに入る前に間違えたでしょ?」
「はい」
「間違えるのは話にならないので自分の持ち歌ぐらい完璧じゃないとアイドルは難しいかもね」
「……厳しい……」
由利乃の言葉に、僕の隣にいた宇音も思わずそんな感想を漏らす。
「持ち歌を持てるってことはそれなりに認められてるので頑張ってください」
結香は由利乃のその言葉に無言でうなずいた。他にも多くの部分に指摘を受けながら結香は何回も踊っていた。
「結香の奴、よく食いついて行くな」
「結香さん、由利乃に期待を持たれましたね」
「期待?」
「前のユニットの時にもありましたけど、由利乃は伸びそうな人にはより厳しく教えますよ」
「えー?」
結香の顔が、今まで僕が見たこともないくらい引き攣っている。
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そしてまた、結香は由利乃に教えてもらったが、結香はやはりついていけなかった。
「結香さん、サビの前、手の向きが違うって前にも言ったでしょ!?」
「ごめんなさい!」
「分かったらやってください!」
由利乃の厳しいレッスンは続く。
「それにしても結香、食いつくなあ」
「凄いですね」
真春もこれには感動している。そう、結香は頑張る女の子だ。
「前よりはいいけど、まだまだですね」
「……」
結香は無言で由利乃を睨みつけた。
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ようやくレッスンが終わったようなので結香を励ましに行った。
「結香、よく頑張ったな」
「あたしは一回挫折してやめようとしたことがある。でも今はみんなと会えなくなるから絶対に逃げ出さないよ」
結香は最初のころと比べてものすごく強くなっていた。




