第34話.振り付けの創作をやってみよう
次の日から真春と由利乃はダンスの練習をするようになった。
「吉田さん、結香さんにまた今度ダンスの作り方を教えるって言われました。由利乃さんは訳分からないって言ってましたが」
「あー。あれは、ここではダンスも自分たちで作ってるから、そのやり方を教えるってことだよ。それで、由利乃は?」
「置いてきました」
「置いてきた?」
真春のキャラとは思えない対処法だけど……。
「由利乃さんの言い方ってちょっと挑発的なんですよね。みなさんとまたトラブルを起こしそうなので」
「今回は特に激しかったのか?」
「本当に訳が分からなそうだったから。説得に時間がかかりそうです」
こりゃあ由利乃は納得しないとは思うが、なぜだろう? 『GOD BRIGHT』の時の経験を大切にしてるのかな?
「由利乃さん、実力は高いんですけどね。だから『GOD BRIGHT』では人気があったんですよ」
「なら抜け出す理由はないよな」
人気があって実力があったらなぜ辞めたんだよ。すると真春がこっちに近づいてきた。
「でもスタッフさんとはうまくいかなかったんですよ。いろいろ求められて、私も厳しい練習についていけなかったし」
「なんかそれ、うちの練習が甘いように聞こえるんだが……」
「すみません! 辛くて、心が折れて、でもアイドルがやりたくて」
真春が泣きそうになってきたからこの辺で話を変えよう。
「ごめんごめん、うちは振付師がいないからさ、こういうことは自分たちでやってるんだよ」
「そうなんですね。そういうことは昔のグループでは専門の人がやってましたね」
真春はそう説明してくれるけども、そりゃうちも専門の人を雇えればいいけどさ、そんな人脈も予算もない。悲しいことだけど。
「だから、ダンスの作り方も教えたほうがいいかなと思ったんだよ」
「分かりました。由利乃さんにもそう言っておきます」
「分かった」
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そして振り付けを教える日が来たのだが……。
「すみませーん! 由利乃さんが熱を出してしまいまして」
「そうなの? まあ、最近めっきり涼しくなったからな」
今は九月、確かに急に涼しくなってきた。
「しょうがないな、由利乃にはまた今度教えるか」
「ありがとうございます」
「今日は二人、振り付けを教えに来るよ」
「そうなんですか? カフェファクトの人たち、まだ顔と名前が一致してなくて」
「人数が多いからな、一人ずつ覚えていこう」
「はい」
僕は真春を練習場所に案内して宇音と真凛に会わせた。
「左の大きい方の女子が有浦宇音さん、右の女子が青海真凛さん」
「大きい方って言わないで!」
「ごめんごめん、分かりやすいと思って」
「他にも言い方があるでしょう……」
それは宇音の言う通りだが、僕はもう次の事を考えていたのでそこまで考えてないかった。
「この二人は今までいろいろ振り付けしてきたから丁寧に教えてくれると思うよ」
「よろしくお願いします」
「こんにちは桃瀬さん」
「桃瀬さん、よろしくね」
あとは宇音と真凛に任せればいいだろう。でも、今日は若奈も連れてこようと思っていたが、家の都合で忙しいとのことだった。次の機会にしよう。
そしてあともう一人、この人を忘れてはならない。
「みんな、揃ってた!」
結香が来た。これで今日の役者はそろった。それにしても今日は来るはずの杏子がいないな。
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ここから今日の振り付けのレッスンが始まるが、まずは真春が宇音と真凛から振り付けについての説明を受ける。
「じゃあ、有浦さん、青海さん、よろしくお願いしますね」
「はい、まずは振り付けをなぜ作るかを教えましょう。作ってくれる人がいなかったから、最初に振り付けを創作するオーディションのようなものをして私と宇音ちゃんが一番上手だったから選ばれました。そこからずっとカフェファクトでは自分たちのうたの振り付けは自分たちで作ることになりました」
「へぇー。『GOD BRIGHT』は振付師に全部依頼してもらっていたのでなんか新鮮です」
「そう言っていただければ嬉しいです」
「随分今までとやり方が違うのですが、私でもできますか?」
「それは大丈夫ですよ。私も最初は経験がなかったけど振り付けが作れるようになりました」
「できるかなー?」
真凛や宇音の説明を受けても真春には自信がないようだ。そこから真凛は大胆な答えを出す。
「さっそくですけど、これから結香ちゃんが振付をするから、これを自分の好きなように変えてみましょう」
「はい」
早速結香が自分の曲を踊って見せる。
「はい、大丈夫です。早速考えます」
「一回で覚えるなんて、すごい!」
「あたしもうちょっと踊らなくちゃと思って練習したのに」
さすが真春の記憶力の良さ! 宇音と結香も驚きを隠せないようだ。
真春は覚えたダンスを一通り、間違えずに踊って見せた。
「この踊りはこれでもいいと思うんですけどね」
「あたしもいいと思うんだけど、これは変える課題だからね」
真春はこの踊りを納得しているが、これは結香の言う通りダンスを変える課題である。
「なんで自分の振り付けを褒めてるのよ」
「なによ? 悪い?」
「そんなに自分が可愛いの?」
「うん!」
「何を……」
「ケンカはやめてください! ねえ、ねえ!?」
「今は振り付けを教える時間だから、みんなで仲良く教えましょう」
結香と宇音がまたケンカになったので真凛がそれを止めた。みんなで仲良く……か。
「……ごめんなさい」
「あたしが悪かった。またあとでしましょうね」
また後でケンカするのかよ。別にしなくていいのに。
「それで、どこか気になる点はありますか?」
「気になる点と言われても難しいですね」
「うーん。では、どこから変えましょうか?」
「どこから変えましょうか?」
真春はそういうと、もう一回丁寧に踊り始めた。
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真春の気になるところを真凛たちの助言を聞きながら直すことになる。それを結香が終始真剣な眼差しで見つめていた。
「今手を伸ばしたよね、ちょっと曲げて伸ばした方が可愛いと思うよ」
そう宇音がアドバイスすると、結香は目つきが鋭くなる。まだ怒ってるのか。
「はい」
真春は宇音や真凛の言うことを素直に聞くなあと、僕は感心した。始めて一時間ぐらいで振り付けは完成した。
「いや、よくこんな短時間でできましたね」
真凛が絶賛するように真春はあっという間に課題をクリアした。これは真春が優秀なのもあるが、真春が真凛たちに助言に耳を傾けながら作っていったことが大きい。
「桃瀬さん、すごい!」
「桃瀬さんは上達が速いからすぐにできるようになるよ」
結香も宇音も、一緒に真春を褒める。だが、その後、二人は一瞬相手の方を睨んだ。なんで仲良くできないんだよ。
「ありがとうございます!」
真春はそれに対してお礼を言う。僕にはこのときの真春が輝いて見えた。




