第32話-2.謎のアイドル?
午後に練習の合間を縫って結香とMV用のDVDを買って帰る途中、路上で声を掛けられた。
「すみません。前お会いしましたよね」
怪しい人に声掛けられたと思って僕と結香は足を速めた。
「あのー前PV撮影していましたよね」
「あれ?」
僕はやっと思い出して、結香と一緒に足を止めた。
「あの時の?」
「はい。また会えましたね」
また会えたのはいいけど、今日は一人だ。相方はどうした。ここは以前PV撮影をしたところだ。こんなところで会うとは、偶然と言うか出来過ぎている。
「前もここで会ったよね」
「今日は話したいことがあって、ずっとここで待っていたんです!」
「はい?」
僕が話しかけると、相手の女の子も話があるようだった。なんだろう?
「私たちを入れて貰えないでしょうか?」
「え? え?」
まさか!? カフェファクトに入りたいと言ってくるアイドルがいるなんて! 僕はびっくりして驚くことしかできなかった。
「なんで、いきなり」
「ちょっと今いるグループがあまり良くなくて。前いたもう一人の子と一緒に。いいですか?」
「急に言われてもな」
「考えてくださっていいですよ。決まったらまたここに来てください。待ってます」
「で、名前は?」
「GOD BRIGHTの桃瀬真春です。あ、そろそろ時間なので今日はこの辺で」
と言って彼女、GOD BRIGHTの桃瀬真春さんは走り去って行った。
「何だったんだろう?」
「急に入れてって言われてもな」
「GOD BRIGHTってアイドルか何かかなー。だったら怪しい人ではないけど」
僕と結香は疑問を共有しながら練習場所に戻った。
練習場所に戻ってから、僕は杏子に報告した。
「杏子、さっき外に出てたときに、女の子に声を掛けられて、うちのアイドルに入りたいって言われた。杏子はどう思う? 入れようとしてもいいだろうか?」
「え? どういうこと?」
杏子は不思議そうな顔で僕に聞き返してきた。
「前から撮影の時に興味ありそうに話しかけてきてた子なんだけど、今日たまたま会って話をしたら急に入りたいって」
「どんな人なの?」
「今日は女の子が一人いて、GOD BRIGHTって言ってたかな?」
「え? 『GOD BRIGHT』ってどこかで聞いたことがあるな」
GOD BRIGHTは有名なアイドルグループなのか? 一体杏子はどこで聞いたんだろう?
「あっ、たまに二階堂さんが話してたなー。私もどんなアイドルグループなのかはよく分からないんだけど」
「そうなのか」
そのアイドルグループは二階堂さんの知り合いなのか? 僕もどんなグループなのかは分からないんだけど。
「ああ、そういえばその女の子『ちょっと今いるグループがあまり良くなくて』なんて言ってたな」
「え? 練習が厳しかったのかな?」
「そこまでは聞いてないから分からないんだけど」
「うーん、また二階堂さんにでも聞いてみようかな。私もちょっと分からないし」
「とりあえず、見学させてもいいだろうか?」
「私はいいけど。その前にその子に私も会いたいな」
「でも、まだその子の連絡は知らないんだよ」
「そうなの?」
残念ながらまだ連絡先は交換していない。またあの場所に行けば会えるのだろうか? 僕も杏子と桃瀬さんを会わせてみたい。
「でも、私たちのアイドルグループに入りたい人がいるなんてね」
「本当にそう思うよ」
僕も結香も、今日はそれに驚かされた一日だった。
次に、僕と杏子は具体的に出会う手段を話し合った。
「で、どうやって会うの?」
「街で会うしか手段がないのよね? でも、街でどうやって会うの?」
「だったら、僕と彼女が最初に会った方法を使おう。PVでも作ろうか」
「何のPVを作るの?」
「……決めてなかった……」
「カフェファクトについてのインタビュービデオ撮ろう。CMに使えそう」
杏子が妙なことを言う。CMとはなんだろうか?
「杏子、今度は何を考えてるの? CMって」
「ホールもそろそろ満員だから、集客を頑張ろうと思って。そろそろ他の会場でもライブがしたい」
僕は杏子の思いを受け取った。カフェファクトについてのインタビュービデオを撮る、当日はこの方法で行こう。ただ、これはPVとは言わないだろ……。
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作戦当日、僕は結香と杏子を連れて街に出た。インタビューは結香が受けることになっていて、桃瀬さんが来たらインタビューするふりをして、見学に来てもらうように話しかける。見学と言うよりも遊びに来るぐらいでいいんだけど。
問題は今日来てくれるかだな、まあ、そのためにも何日か別の日も準備している。
そう弱気にはなっていたが、彼女達はやってきた。
「「こんにちは!」」
「こんにちは」
「今何をしてるんですか?」
「ちょっとPVの撮影を」
「PV撮影ですか?」
桃瀬さんはすぐ反応した。
「何のPVですか?」
「えーと……」
このPV撮影は別にPVを作ろうと思ってやっているわけじゃないので何て言おうか困っていたら結香に腕で小突かれた。
「直くん、早く誘ってよ」
「ライブ用のPVを撮影してるんだ!」
本当はCM用のPVだって言わなければいけないんだけど、『GOD BRIGHT』ってすごいところだからいうのはちょっと控えたい。まあ次のライブでも流すつもりでいるので間違いではない。
「そうなんですか?」
「うん」
「何してるのよ? 早く誘ってよ」
「質問に答えてるんだよ。結香も答えてやってよ」
「うん、でも、直くん、今の質問で嘘ついてたよね」
「何が?」
「ライブ用のPVじゃなくてPR用のPV。うちのグループもこんなことができるようになったのね」
結香が本当のことを言っているが、うちのグループってこんなレベルだ。桃瀬さんはどう思ってるんだろうか?
「この人は、前PV撮影してたかわいい人ですよね?」
「え? あたしの事?」
結香はとっさのことで驚いていたが、僕も桃瀬さんが結香にさらっと『かわいい』って言ってるのは驚いた。
「ありがとう! あたしの事をかわいいって言ってくれて。じゃあ、まず見学に行こうか」
「勝手に話を進めるなー!」
結香の話が飛躍しているのを止めようと思ったら思わず怒鳴ってしまった。先走って話を急に進めないでほしい。
「はい! 分かりました! ぜひ見学させてください!」
「ちょっと待って! 勝手に決めないで!」
桃瀬さんが返事しちゃったじゃないか! 僕は勝手に話を進めようとする結香を止めた。
「何よ。勝手に入って来ないでよ」
「話が飛びすぎだよ。それは僕が聞くんだから。見学するにしても僕が案内することになるから」
「なんで?」
「手が空いてるからだよ」
作曲で忙しいにしても結局一番手が空いてるのが僕である。
「あなた、名前は? 私は大沢由利乃といいます」
「僕は吉田直之というよ」
「吉田さんね、じゃあ、見学よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
今話しかけていた大沢さんのほうがちょっと大人っぽい。大沢さんに続いて桃瀬さんも挨拶した。
「いつ来る?」
「うーん、今度の水曜日でいいですか? 昼から空いてるんで。この二人で来ます」
「うん。杏子、それでいいかな?」
「私はいいよ」
杏子は後方にいながらも彼女らの様子をしっかり見ていたようで、前に来て挨拶した。
「こんにちは、カフェファクトのリーダーの二宮杏子です。カフェファクトを気に入ってくれてありがとう! よろしくお願いしますね!」
と言って杏子は頭を下げた。二人のアイドルは杏子の勢いに圧倒されていた。
これで、見学の日程は決まったな。僕は見学の場所を伝えて彼女と別れた。




