第31話-1.結香の新曲の振り付けをしよう
夏のように暑くなってきたこの日、僕は以前杏子に言われた通り自分の家にいる。彼女は二階堂さんが来ると言っていたが、それ以上のことは教えてくれなかった。
「二宮さん、どうしたんだろうね。私たちをこんなところへ押し込めて」
こんなところって言わないでくれ。ここは僕の部屋なんだが……。
今日、僕の部屋で何をするかと言うと、それは結香の曲に歌い方と振付を考えることだ。
「じゃあ、結香の曲を作ろうか」
「曲はもう出来てるんじゃないの?」
「今日は歌い方と振付を決める。元から僕の家でやりたかったんだ」
「なんで?」
「杏子にうちでやるように言われたから」
「なんでなんだろうね。二宮さん、最近なんかおかしいよ」
「理由を聞いたんだけど、はぐらかされたよ」
杏子がなぜ僕の家で結香の曲の歌い方と振付を考えるように指示したのか。その理由も気になるが、今は早く曲を作っていかないと。まだ発表はされていないが、夏のうちにライブをしようと言う事なので急がなければならない。
それと、ライブに使う『GARDEN CALL』のアレンジもやらなければいけないので、とにかく忙しい。早くしなければ。
「これから作るのは歌い方と振付なんだけど、結香の好きにしていいよ」
「え? うそ? ホントにいいの!?」
「うん」
「やったー!」
結香は大喜びしている。まあ、結香の曲だからな。
「でも、せっかく可愛くてノリのいい曲を作ったんだから片足ケンケンみたいな不細工な奴はいらないから」
「えー? 好きにしていいっていったじゃん! それにそれは恥ずかしいから言わないでー!」
「結香の曲だけすべったら寂しいだろ」
「まあそれは、そうだけどさあ」
「まあ、好きにやってみて。話はそれからにしよう」
「わ、分かったよ」
「あ、あとさー!」
「な、何よ?」
「悪いけどここを最初にやってくれないかな? サビの振付。どういう感じになるのかなと思って」
「え? あ、そう。分かった」
結香はしばらく考え込んでいたが、その後は少しづつ体を動かし始めた。
結香は僕が言った通り好きに考え始め、体を動かしている。どんな振付が出来るか楽しみだ。
「直くん、出来てきたから、音楽をかけて踊ってもいい?」
「いいよ」
振付が完成したようなので、早速音楽に合わせて踊らせてみた。僕は、サビの部分だけ流すことにした。
結香の曲であるLook At Me Moreは僕が結香をイメージして作った曲で、元気な曲調が特徴だ。
結香は、まず最初にピースを目の横に当てるポーズをした。かわいい。
その後、両手を顔の横にやった後、手をそのまま上げて背伸びを繰り返した。このポーズはのびのびしていい。小柄な結香が大きく見える。
その後結香は、また最初のポーズを繰り返し、手をゆっくり振る。いいぞいいぞ。
そして、最後にはニコッと笑って目の前でピースして手を降ろした。これは、結香のファンが増えると思う。結香は自分をかわいいと思っているからファンが増えるのはいいことだ。
「どう?」
踊り終わった後に結香は聞いた。
「いいんじゃないか?」
「何その適当な感じ」
「適当じゃないよ。かわいい振付だと思った」
「本当にかわいいと思ってる?」
「うん。結香はかわいいよ」
「ありがとう」
「しまった!」
時すでに遅し、かわいいと言ってしまった僕は結香に抱きつかれてしまった。そんな事をしてる場合じゃないが。
「ちょっと待って! まだ続きの振付を考えないといけないだろ」
「そうだった」
その後も各箇所の振付を考え、大方決まってきた。細かいところは次回以降にして、次は歌い方だ。でも、僕は歌唱指導の先生じゃないからイメージと合っているかしか分からない。
「歌い方って言われてもね」
「そうだよな。でもとりあえず歌ってみて」
僕はそう言って、困惑気味の結香にサビの部分を歌わせた。
歌唱力は普通である。つまり上手くも下手でもない。僕が歌い方を指示するよりも、これは海音と一緒に練習して歌唱力を上げた方がいい。
「そんな感じでいいよ」
「え? 一発でOK!?」
「あ、いや、歌い方はそんな感じでいいよ。後はまた海音と練習でも……」
「え? 海音ちゃんの練習ってめっちゃ厳しいって聞くけど、大丈夫?」
「結香とは特別仲良さそうだから、そんなに恐がらなくていいと思う」
「うん、分かった、ありがとう」
結香は不安そうな笑みを浮かべた。やっぱり結香はかわいいな。
「何よ、感謝してるんだからね。あたし、しっかり海音ちゃんと練習するから」
「うん、結香ならきっとうまく歌えると思うから」
「やっぱりあたしってヘタクソなのね」
「うん、ま、まあな」
「何よそれ! もう! 絶対次歌った時は歌声もかわいいって言わせるから!」
僕は笑った。まあ歌唱力は海音が鍛えてくれるだろう。
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一日が終わった。僕は結香を送って宇音を迎えに行った。
「宇音、今日はどうだった?」
「急に二階堂さんがやって来て、私の曲を作るぞって……」
「それは良かったな」
「曲が持てたのは良かったよ。でも、私の事を色々聞かれて恥ずかしかったよ」
「何を聞かれたの?」
「趣味とか聞かれた」
「何て答えたの?」
「読書は好きかな~って」
「宇音をスライスしたものを読んでるのか」
「へ、変なイジリはやめてもらえないかな」
宇音は顔を青くして言った。木でも顔が青くなるんだな。
「僕の事は答えてないだろうな」
「ちょっとそんな雰囲気じゃなかった」
「それなら良かった」
宇音だったら絶対言うかと思ったんだけど、そこは空気を読んでくれたみたいだ。僕は二階堂さんが苦手だからケンカになるのは避けたい。
宇音は開けっぱなしの僕のパソコンを見つけて覗いた。
「直之さん、何これ?」
「あーこれか。『GARDEN CALL』をアレンジしなければいけないからやってるんだよ」
次のライブまでにやらなければいけないから時間が無い。
「ていうか宇音、前にも聞いてなかった?」
「えー? そうだったっけ?」
忘れたのか? 前にも言ったけどな。まあ、これは少し前から進めているからな。でも、まだ完成までは長い。やることはいっぱいある。
「悪いけど宇音、今は作業に集中したい。また出来たら聴かせるから」
「えー? つまんないの!」
宇音はそう言うものの、ベッドに横になってマンガを読み始めた。




