第30話ー3.大和旅館物語
今日は二階堂さんとデート。しかも、大和旅館にお泊まりだ。
前に『私と大和旅館に泊まってもらえませんか? いい所だから。そうしたら有浦さんに会わせます』と言ったら二階堂さんが快諾してくれた。
メイクも服にも力を入れて来た。後は告白して付き合うだけだ。有浦さんのことは諦めてもらおう。
私と二階堂さんは、早々に部屋へと向かった。部屋へは男性の従業員が案内してくれた。
「確かに、明るい雰囲気だな」
二階堂さんは大和旅館を気に入ってくれたみたい。
「でも大和はここの女将の娘らしいよな。態度とかいいし」
「私もそう思います」
「また大和に会ったら礼を言っておく」
「今日も旅館で働いてるんじゃないですか?」
「あー、旅館の手伝いをしてるって言ってたな」
二階堂さん、大和さんに挨拶に行く気じゃ……。そんな事はやめてほしい。
「もうちょっと部屋でゆっくりしていきましょう」
「そうだな」
よかった。私は安心した。
「でも、話すことがないな」
「今までのことを話しましょう」
「そう言えばだが、二宮は何で急にアイドルになったんだ?」
「吉田さんにアイドルにならないかって言われて」
「それでなったのか。あの男、ああ見えて意外とやるな」
二階堂さんは直之さんのことをどう思ってるのかな? 嫌いなのかな?
「あいつ、いっつも有浦宇音と一緒にいるからな。入って行けねえ……」
二階堂さんはそう言って頭を抱えた。私が有浦さんに会わせてあげると言ったらもうそれとないチャンスだろう。それは私の提案に乗るよね。
「間違えても、有浦さんを襲ったりしないでくださいね」
「さすがにそれはしないな。でも、周りのガードが相当固いな……」
彼女の周りには直之さん以外に真凛さんがいる。緑ちゃんは何かあったら織田さんに報告しそうだし。
「ちょっとお茶でも買いに行くか。酒はまだ早いし」
「私も行きます!」
なんとしてでも二階堂さんと付き合わなくちゃ。私はかなり焦っていた。だから私は二階堂さんについていった。
二階堂さんと自動販売機に行っていたら後ろから大和さんに声を掛けられた。
「こんにちは」
「あっ! 大和さん」
「大和、御苦労様」
「二階堂さんもいらしてたんですね」
大和さんはこっちをまじまじと見つめつつ挨拶をした。
「それにしても、二宮さんまで来ていたとは……」
「大和さん? さっきから他に誰かいるような言い方だね」
「実は、吉田さんと有浦さんがいらしてます」
「何?」
……。え? え? ちょっと待って。いったい何なの? この展開。いきなりピンチになっちゃった。
「有浦宇音、一目見ておかなければ」
「ダメです!」
「あー! もう、しゃあねえなー」
また有浦さん……。私の告白は成功しそうにない。折角ここまでおしゃれにしてきたのに……。
「とにかく、部屋に戻りましょう。直之さんに見つかる前に」
「分かったよ」
私たちは慌てて部屋に戻った。
「二宮、顔が怖いぞ」
「だって、いきなりピンチですもん」
私は怖い顔をしているらしい。でもこうなったら考え込んでしまう。どう乗り切ればいいかって……。
そして、ここで二階堂さんに気に入られなかったら、彼は有浦さんと結ばれるのだろうか。いや、有浦さんの直之さんに対する想いの強さを信じたい。
「一応、アイドルのメンバーではある。敵じゃないんだぞ」
そんな事は分かっている。元々私と有浦さんは同じチームの仲間。でも、今の有浦さんと私は恋のライバルだ。
「ダブルブッキング、しかもよりにもよって直之さんと有浦さんだとは……」
「何を言ってもダメか」
だって、今一番会いたくない組み合わせじゃん。
「二階堂さん、間違っても直之さんと喧嘩しないでくださいね」
「俺もそれはしたくない」
曖昧な表現で信用できないけど、それはやめてほしい。有浦さんへのナンパはもっとだ。
「これじゃあ、あまり外には出れませんね」
「もう一回言うけど、あいつらは敵じゃない。俺もあまり納得はいってないが」
そう言われても……。
********
お風呂からの帰り道で、直之さんと有浦さんに会った。
え? 私は凍りついて一言も発せなかった。
「杏子と二階堂さん! 何でここに!?」
直之さんがそう言っても誰も何も言わなかった。二階堂さんは有浦さんの方を見ているし。
「お前ら、何でここにいるんだ?」
え? ちょっと、二階堂さん……。
「ちょっと、この人が来たいって……」
直之さんは有浦さんを指した。
「有浦宇音……」
二階堂さんは有浦さんの方を見つめている。悔しいので私が割って入った。
「あの! 二階堂さん、また続きは次でいいじゃないですか!」
二階堂さんは有浦さんから目を離さない。私はそんな二階堂さんを背中を押して部屋に戻った。
「二階堂さん、有浦さんにはまた会わせますから!」
「有浦宇音……。かわいかったな」
二階堂さん……。有浦さんとはまた今度でいいじゃないすか!
でも、二階堂さんが吉田さんとぶつかることなく戻れたから良かった。
それにしても二階堂さんはどれだけ有浦さんのことが好きなんだろう。私にも勝ち目があるのだろうか? ない。私は二階堂さんに悔しい気持ちを叫んだ。
「だから二階堂さん、今日は私のことだけを考えて下さい!」




