第30話-2.宇音と出会った場所
練習に明け暮れる毎日。そんな中、次のライブの日程が決まった。
「次のライブは一周年ライブで七月五日にやります。曲目は、『GARDEN CALL』のみです。
『GARDEN CALL』だけ? そんな事は初めてだ。一体どうやってやるというのだ?
「最初は通常の『GARDEN CALL』、次は私がヴォーカルを歌う『GARDEN CALL』、最後はお客さんもステージに上げて一緒に踊ろうかと思います」
お客さんも踊るのか? それはまた聞いたことのない発想だ。
「いつも同じ曲ばかりだとお客さんも飽きるので客さん参加型にしようかと思いました。一周年なんだし、こんなことをしてもいいのかな? と遊び心も入れてみました」
もう一年になるんだな。それしにてもお客さん参加型の『GARDEN CALL』もどうなるのか楽しみだ。
杏子の話を聞いていると、隣から声が聞こえてきた。
その後すぐに練習が終わり解散となった。帰り道、真凛を降ろした後に宇音が話をはじめてきた。
「直之さん、久しぶりに大和旅館に行きたいんだけど」
「え? 何で?」
「何でって、私たち出会って一年が経つでしょ」
「そうだった」
さっきもカフェファクトが始まって一年になるんだなって思った。宇音と会うのも一年になるんだった。
「その記念に、私と直之さんの出会った場所にもう一回行きたい」
「記念って?」
「直之さんと私の愛を確認したいの」
「愛? 僕は愛してないから」
「ひどい!」
宇音は血相を変えてそう叫んだ。
「宇音の事は好きだけど、女性と言うよりは、仕事のパートナーとしては好きかな」
「そんな……」
宇音はがっかりする。僕もそうは言ったものの宇音は仕事のパートナーって言えるのかな? 何をもってパートナーなのか分からないまま言ってしまった。
「私は一人の女の子として見て欲しいんだけど」
「今すぐには無理だよ」
「何で?」
「僕は、実は女性に慣れてない」
「……」
宇音は黙り込んでしまった。家にまだ帰る途中なので表情はよく見えないが、少し下を向いているシルエットだけは見えた。
「でも、今までキスしたりハグしたりしてもしっかりしてきたじゃない。もしかして、ガマンしてたの?」
「あ、あまり慣れてなくてさ」
「そうだったの、ごめんなさい」
なんか、宇音はすぐに謝ってきた。以外に素直だ。これで少しはおとなしくなってくれるかな。
「だったら、一つずつ克服していってくれないかな?」
「と、言うと?」
「私に慣れてくれないかな? 私を女の子として見てくれないかな? 私もそれなりのことをするから」
いや、反省してないだろ。おとなしくなってくれ。
「今回は、いろいろお話しましょう。そのために泊まるっていうのは?」
「話って言うのは?」
「え? 私と直之さんが出会った場所に行くんでしょ? その時の話がしたいな」
それなら行っていいかな? 宇音はなぜ大和旅館にワープしたのかとかも知りたいから。
「宇音、大和旅館に行こう!」
「ホントに!? ありがとう!」
いつもならこのタイミングで抱きついてくる宇音だが今回は抱きついてこない。なんか気を使わせているんだったらそれはそれで申し訳ない。
宇音とは仕事パートナーのようなものだが、なぜ大和旅館に泊まろうと思ったのか? それは大和旅館にどうやってワープしたのか知りたかったからだ。
でも、若奈の話を思い返したら武将も出てきたって言ってたな。そう考えるとなんか怖い。
「直之さん、私と会った場所へ、一緒に行こ☆」
「分かった」
目的は違うが、僕と宇音は大和旅館へ行くことになった。
********
と言うわけで、僕達は今大和旅館に来ている。エントランスに着いて部屋の鍵ももらった。
「宇音、着いたな。今日はゆっくりしていくぞ!」
「話が違う」
宇音は機嫌が悪かった。その理由は
「折角直之さんと二人っきりで水入らずのはずだったのに」
「私は早く水が欲しいです」
真凛も同行していた。水入らずのはずだった宇音に対して、水がいる真凛。
どうして真凛がここにいるかと言うと、実は事前に宇音には内緒で他のアイドル達にも声をかけておいたからだ。もう宇音から襲われることはないとは思うが、二人っきりだと何をされるか分からない。心配だったので他の人たちにも声をかけたと言うわけだ。でも結香たちはすでに他の用事があったので、真凛だけが来てくれた。
織田さんと緑にも既に用事があると言われたのだが、なんと同じ大和旅館に泊まることだった。織田さんは真凛が一人にならないように真凛も一緒に連れて行くつもりだったので、僕が予定を尋ねた時、『行き先が同じなら青海さんをお願いしてもいいですか?』と任された。
ということで、結果的にこのような感じになっていた。
「宇音、そんな言い方したら真凛が悲しむよ」
「ごめんなさい。突然のことで。直之さんもそうならそうと言ってくれればいいのに」
「悪かった」
それは僕にも非がある。
今は若奈と待ち合わせをしてるので、しばらくここで待っていた。そうしていると若奈がやってきた。相変わらず薄黄緑色の着物がよく似合っている。
「吉田さん、こんにちは」
「若奈、来たよ」
「青海さんも御一緒に来られたんですね」
「そうだよ。それでちょっと、早く真凛を池に連れて行かないと宇音がね」
「そうですね。かしこまりました。では早速案内いたします」
真凛は綺麗な池があるならどうしても泳ぎたい! という事なので宿泊中は中庭に泊まることになる。若奈は僕達を中庭の方に案内してくれた。
中庭と言えば僕と宇音が出会ったところだ。宇音もまたここの庭へ転移してやってきた。
「あれからは不可解な事件は起きてないんですよ」
「それはよかった」
資料室とは違い、こちらでは転移がもう起きていないらしい。そうなれば余計に宇音が転移してきた理由が謎である。話をしているうちに中庭にある池に着いたので、僕達と若奈はそこで真凛と別れた。
「じゃあ真凛、ゆっくりな」
「ゆっくりしていってください」
「ありがとうございます」
「それでは、お部屋へ案内いたします」
僕達は若奈の後ろを着いていって部屋へ案内された。
「あーあ、もっと中庭にいたかったのに……。でもこれで邪魔者はいなくなったし、もう一回中庭にでも行こうか?」
「中庭にはその邪魔者もいるけどいいかな?」
「あっ……」
「真凛の事を邪魔者扱いするのはどうかと思うけど」
「ご、ごめんなさい……」
宇音が戸惑っている。宇音もかわいい一面があるようだ。
僕と宇音は中庭へ出た。若奈はなぜか中庭にいた。
「若奈? いたのか」
「はい。今休憩時間なので」
「そうか」
「はい。でも思い出しますね。有浦さんと会った時のこと」
「そうだな。ここだもんな」
僕は若奈の隣に座った。すると宇音が僕の隣に座った。
「うふっ。相変わらず仲いいですね」
若奈はそう言うが、最近では僕達の関係性も変わりつつある。
「有浦さんはいつから吉田さんの事が好きなんですか?」
「会ってすぐよ。一目惚れ」
「すごいですね」
宇音は最初から僕の事が好きだったのか。まあ、宇音はかわいいしな。僕も最初に会った時は宇音をかわいいと思ったけど。
「吉田さんはいつから有浦さんが好きですか?」
「いや、好きになった覚えはないんだけど」
「ひどい!」
僕は宇音を怒らせてしまった。やばい。事実だけど。
「でも宇音は最初会ったときにかわいいと思ったよ」
「今は?」
宇音はそう聞いてくる。手強い奴だ。
「さっきの仕草はかわいかったな。宇音が真凛の事を邪魔者って言ったから邪魔者って言うなって言ったんだけど」
「え? 有浦さんと青海さんは友達ではありませんか?」
若奈は横からそう聞いてくる。
「友達なんだけど。なんでそう言う事を言うのか分からない」
「うふっ。吉田さんは皆さんから好かれていますね」
「それは、どういう事?」
「え? 私が今言った通りですが?」
若奈に質問したら適当にはぐらかされた。それにしても僕がみんなから好かれてるとは初めて聞いた。どう言う事なんだろう?
「大和さん、そろそろ旅館の仕事に戻った方がいいんじゃないかな?」
あーまた宇音の嫉妬が始まった。
「若奈、まだ大丈夫?」
「あ、そろそろ時間ですね。すみませんが、これで失礼します」
若奈は旅館の業務へ戻った。相変わらずいい角度のお辞儀をして若奈は去った。
「もう! 二人で私と直之さんの出会ったところに行くのが目的だったのに!」
「っていうか最初から真凛がいたし、ほら」
「はあ」
宇音は真凛にため息つかないでくれ。ったく。なんでこの子は他のアイドルと仲良くできないんだ?
「宇音、そんなため息つかなくても」
「そうだね、ごめんなさい。折角楽しい思い出を話そうと思ったのに」
大和旅館と言えば、温泉の壁がもろい、若奈を連れ戻すために母親と対峙、結香を探しまわったりとか、思い出されるものは大変なことばかりだ。だから、今日こそは楽しい思い出を作りたい。
「宇音、今日は楽しい思い出を作ろう」
「じゃあ、そろそろ話してもいいかな」
宇音はここから自分のことを話し始めた。
「直之さん、私が育ったのは妖精の国なの」
「妖精の国?」
「そう。妖精の国には学校があって私はそこに通っていた」
「学校、僕らの世界にもあるな」
「うん。あるある。私はまだ若いのよ。私は植物の血も受け継いでいるから人間よりも長生きなの」
「うん」
まじまじと聞いていた。少し考えないと頭がついていかないが、植物は確かに長生きだな。
「転移してきた日はちょっと寄り道して帰ろうとしたのね。自転車に乗っていたから少しは遠回りもできる」
宇音が自転車か……。今想像したけど、自転車は大丈夫なのだろうか?
「そうしたら、気がついたらここにいた。自転車が無かったから。どこか危ないところに来たのかなと思って」
「それで」
「そうしたら、ちょっと経ってたら、男の人が現れて」
「それが、僕?」
僕は宇音が気がついたらこっちの世界に転移したのだと分かった。
「そう、私の心を奪っちゃって……。こんなかっこいい人がいるんだったらこっちの世界にいてもいいかなって」
「そんな勝手に転移する事は出来るのかな?」
「わからない」
宇音のセリフを持ってこの話はここで途切れた。
「部屋に戻ろうか?」
「もうちょっといようかな。この運命の場所をもうちょっとこの目にとどめておきたい」
僕は何言っているんだとしか思えなかった。顔が熱くなってきたから僕は宇音から離れて一人になろうとした。
「直之さん? 私を置いてどこに行くの?」
宇音から離れたかったんだが離れられなかった。




