第28話-7.真凛のファッションショー 本番
宇音は更衣室に真凛の着替えを手伝いに行った。その間にちらほらお客さんが入って来た。そのお客さんは十数人くらいいて、女性が多いと思った。中には真凛が履いているようなロングスカートを履いている人もちらほらいる。
「さあ、これから青海真凛さんのファッションショーを始めます。司会は有浦宇音です。よろしくお願いします」
会場からは拍手が巻き起こった。一部で声援みたいなものも聞こえてきたから真凛のファンの他に宇音のファンもいるのかなと思った。
「本日のファッションショーでは衣装を二着披露するんですが、途中着替えのため一旦休憩になります。その間は私がお話をして繋いでいきたいと思います。それでは早速青海真凛さんに登場してもらいましょう! よろしくお願いします!」
宇音がアナウンスを終えるとプールの入り口からワインレッドのスカートを履いた真凛が現れた。これから真凛のファッションショーが始まる。
真凛がプールサイドに入ってきたらお客さんからは人数と割にあわないくらいの大きな声援が上がっていた。その観客の脇を真凛が颯爽と澄ました表情で身体をうねらせながら歩いて行く。
僕もこの真凛は綺麗だと思った。
真凛はプールサイドを半周歩き終わるとそこでくるりとまわった。
その後、両手を腰に当てるポーズをしてお客さんの方を向いて微笑んだ。すると観客からはまたもや大きな声援が上がった。話し声らしきものも聞こえてきたが、遠くからなので何を言っているか分からなかった。僕もこの時の真凛は美しいと思っていた。
さらに真凛はその衣装のまま水中に潜って泳いでいった。プールを往復して行って元の場所へ戻った。どこまでも潜って泳げるとはさすがは人魚である。
そして、真凛は服を濡らしたまま上がって来た。そこでまたさっきと同じ決めポーズをする。服を濡らしてまでファッションショーするのはちょっと斬新だ。お客さんの声援もますます大きくなっていった。僕はこの時の真凛もやっぱり美しいと思った。同じ事ばかり思っているが本当に美しかった。
それから真凛はプールサイドを歩いて外に出るが、外に出てもしばらく観客席からの声援は鳴りやまなかった。
やがて声援が無くなった後、宇音が繋ぎの話を始める。強張った表情。宇音も力が入っているようだ。
「いかがでしたか? 真凛さんは今、次の衣装に着替え中です。ここから十分の休憩に入ります。その間に私がお話で場を繋ぎたいと思います。青海真凛さんは私の友達でいつからか分かりませんが、ファッションモデルになりたいと言っていました。そんな中、そちらにいる吉田直之さんが中心になって企画しました。直之さんは私の好きな人で、一緒に暮らしてます!」
おいおい、何言ってんだ?
「直之さんはとっても優しくて照れ屋さんで、いつも私たちを見守っています。ああ、こんな時が永遠に続けばいいのに、なんて思ったりもしています」
宇音、分かったからやめてくれないか? ほら、お客さんの僕に対する目つきも怖いし。
「ちょっと! 何言ってんのよ!? やめなさいよ!」
あれ、よく見たら啓子と哲子が乱入してる。そして結香は後ろから二人を止めているみたいだ。
「ちゃんとやってるかと思って様子を見に来たら……。何言ってるのよ」
「来ちゃいました」
啓子は宇音を叱っていて、哲子が一言付け加えた。
「ごめんなさい! 夜遅くまで考えたんですけど、だめですか?」
「吉田さんのいい所ばかり言ってどうするのよ。こんな男の事より、ちゃんと真凛ちゃんの説明をしなさい!」
啓子、止めてくれてありがとう。ただ、『こんな男』って言い方ひどくないか?
「ごめんなさい! うーん。真凛さんも、優しいです。直之さんと同じく」
「余計なものを付け加えなくていいのよ!」
「はい!」
啓子、僕の事を『余計なもの』って言わないでくれ。
「あ、そろそろ時間だ。はい、それではファッションショーも後半戦です。早速登場して頂きましょう! 青海真凛さんです! どうぞ!」
まったく……。ハプニングだらけだったが、宇音は繋いでくれた。すると、啓子と哲子は僕の所にやって来た。今日は何を言われるのだろうか?
「いつも熱いわねえ。今はファッションショーなんだから、そこまで熱くならなくても」
「宇音が勝手に僕の話をしてきたんですよ」
「そう。吉田さんはどう思った?」
「どうだったって? いい迷惑ですよ。お客さんの目つきが怖いし」
「そりゃあ、あれだけ堂々と言われたらね」
それはそうだ、誰も僕の事を話せとは言っていない。真凛の事を話せって言ったのに……。気付いてみたら真凛はプールの前に立っていた。僕が目の照準を真凛に合わせた瞬間、彼女はプールへ飛び込んだ。
そして真凛は水中の中で数回転し、浮いてきた。潜っている時、息はどうしているのだろうか? 目が回らないのだろうか? とリハーサルでも思った疑問がまた頭の中を回ってきた。
さらにプールの向こう側まで潜って泳いでいった。一回水面で息継ぎをするとまた潜り、今度はこっちまで帰ってきてプールから上がってきた。大変そうだけどよくこんなことが出来るな。しかも泳ぎも綺麗である。さすがは水中に強い人魚だ。
ここでまたお客さん達は盛り上がり、今日一番の大歓声が響き渡った。
「すごいわね」
「これは次もやらないといけませんね」
啓子と哲子はそう言った。プールサイドに上がってきた真凛は決めポーズをして、出口まで歩いて退場した。相変わらず歩き方も綺麗だった
結局真凛は最初から最後まで美しかった。僕もまた真凛のファッションショーをやりたいと思った。またプールを貸してもらえるのであれば。
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こうしてファッションショーは無事終わった。宇音には反省すべきところがあるので僕は彼女を呼び付けた。
「宇音、何言ってんだよ!」
「え? ちゃんと真凛さんの話をしたよ」
「だったら僕の事はいいじゃないか!」
「直之さんが中心になって企画したって言いたかったの」
「あれは哲子が企画したんじゃないかな?」
「そうだけど、真凛さんのために何かしようとしたのは直之さんだよ」
それを言ったのは僕だけど。
「ありがとう」
宇音はそう言って顔を近づけてきた。
「吉田さん」
「あっ!」
そんなところに真凛がやって来た。なぜか宇音は声を上げていた。
「今日はありがとうございました。また次回もやりたいです」
「満足してくれてよかった。またやろう」
「ありがとうございます」
真凛は頭を下げた。そういえば真凛も若奈のような綺麗なお辞儀をした。
「ファッションショーも終わったことだし、早く帰ろう!」
宇音は僕らの体に手を回してプールの出口の方に押し込んでいった。
宇音の怪力はいつも痛いが、こうして真凛のファッションショーは無事終わった。




