第28話.ファッションモデル・マーメイド
「お疲れ様!」
「お疲れ様!」
「お疲れさまでした」
啓子と哲子が挨拶してきたので僕も挨拶をしておいた。
「吉田さん、二宮さん」
ライブが終わってまだ時間がそれほど経っていないのに、啓子が呼ばれた。しかも杏子も一緒だ。
「今日の成果を発表するわね」
「「はい」」
僕は息を飲んだ。杏子も合わせて息を飲んでいるように見えた。
「今日はね、三分の二くらいかしら」
「……」
杏子は何も話さない。またショックなんだろうか。
「難しいね」
杏子は一言だけそう言った。
「でも、少しづつ増えてるわよ。もう少しじゃない」
「まだこの三分の一も入れないといけないなんて……」
杏子にとってそれはまだまだ遠い道のりである。
「僕も、いいライブが出来るように頑張ります」
「吉田さん、次はすごくいい曲を期待しているわ」
「そんなに期待をかけられても何も出ないですよ」
啓子、それは僕が緊張するからやめてほしいのだが……。
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「ライブも終わったことだし、私、ファッションモデルになろうと思います!」
今、僕達はライブが終わった後の打ち上げをしている。そこで言った真凛の発言の内容に誰もが驚いた。
「真凛さん!?」
「辞めちゃうの!?」
「また、何で?」
宇音は驚き、杏子と僕は真凛に聞いてみた。
「服を買ったときにここで着て披露していますよね。それが楽しかったんです。それで、調べてみたらファッションモデルって言う職業があって、それになりたいって思うようになりました」
「そうなのか?」
真凛はファッションモデルという、今の自分の夢について語ってくれた。なりたいのは分かるが、真凛は性格がいいし、いろいろ率先してやってくれるから抜けて欲しくない。
「真凛さん! 辞めないで!」
宇音は泣きそうな顔で訴えている。
「真凛さんが遠い所へ行っちゃうの、いやだよ!」
宇音は真凛に何か焦っている感じでそう訴えた。
「直之さん! なんとかできないの!?」
「真凛、もうそれは決めたのか?」
「やりたいです。アイドルの中でそれが出来ればやりたいですが、出来ないなら辞めてプロになりたいです」
真凛はここでは無理だと思ってるのか? 現状は無理だけど考えれば何か出てくるかもしれない。
「真凛、僕は真凛にアイドルをしてほしい、すぐには返事が出来ないけど、アイドルをしながらファッションモデルもできるようなことを考えるから」
「私も出来る事ならみなさんともう少し一緒にいたいです。でも、ファッションモデルって楽しそうです。吉田さん、どちらもできるようにお願いできますか?」
真凛は両手を重ね合わせてこちらを見ている。これはもう真凛に残留してもらう方法を考えなければならない。
「直之さん、真凛さんに残ってもらう方法を考えてよ」
宇音はそう僕に訴える。
「私も何か考えてみるわ」
「私もです」
「出来れば今のメンバーで、いろいろな人に私たちを見てもらいたい」
啓子と哲子は何か考えてくれるそうだ。杏子も自分の思いを話してくれた。
「よろしくお願いします」
真凛は僕に改めてお願いした。
「分かった、考えてみる」
僕はそう言ったが、今のところ何も浮かばない。
僕は家に帰って宇音にも相談した。友達の事だから何か考えているだろう。
「宇音、どうする?」
「どうしよう」
「何かないの?」
「急に言われても分からない。でも、何かしなくちゃ真凛さんが……」
宇音は僕に抱きついてきた。今の宇音じゃまだ考えられないな。だったら明日、『あの人』に聞こうか?
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次の日、あの人が練習場所にいたので、捕まえて話すことにした。そう、一番意見を言ってくれそうな結香に。
「結香、真凛が辞めそうなのは分かっているよな?」
「それがどうかしたの?」
「結香にも真凛を辞めさせない何かを考えてくれないかな?」
「え? 昨日聞いてなかった!」
「聞いてなかったんかい!」
「うん、あたしに言われても、真凛さんがどうすれば喜ぶとか、そんなの分かんないんだからね」
「一応メンバーなんだから何か考えてみればどうなんだ」
「直くんの方が真凛さんの気持ちは詳しいでしょ。一緒に服を選んであげる仲なんだから」
「いや、僕はそんな仲ではない」
「そのファッションショーに使う服も、直くんが選んだものなんだからね」
その通りだ。当たりすぎてて反論できない。
「でも、残念ながら僕は真凛の気持ちは分からない。僕がそれを苦手なのは結香も分かってるだろ」
「そうだった。でもあたしも苦手だから。他の人に頼んで」
結香は協力してくれる気はなさそうだ。啓子は何か考えてくれてるだろうか?
「啓子さん、ちょっといいですか?」
「何よ?」
啓子はいつもこんな感じのきつい口調で答えるので、話しかけづらい。
「昨日の真凛さんを引き止める方法、何か考えてくれましたか」
「吉田さんは何か考えてくれた?」
「アイドル活動の中でファッションショーが出来れば残ってくれると言うところまでは考えが行きついたんだけど、そこから先は……」
「私たちもそれは分かってるけど、私もそれ以上は思い浮かばない。哲子が何か考えているみたい。真凛さんがいればいいんだけれど、やっぱり来てないみたいね」
真凛が来ていないと言うのはまずいことである。事は早く済ませた方がいいかもしれない。
と言うわけで、僕達は公園に向かって真凛を説得に向かうことにした。
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「結構大人数で説得するんだな」
ということで、公園に集まったのが啓子と哲子、そしてなぜか結香や緑も一緒で、宇音が真凛と一緒に待っているらしい。
「で、何で結香がいるんだよ」
「直くんが上手く説得できるとは思えないから」
「僕が心配で来たのか」
「うん」
それはともかく、確かにみんなで説得できるのは心強いが、ここまでメンバーが揃うとは思わなかった。
緑の家の前で待ち合わせしてたので、早速緑の家の中へ入る。
この日は織田さんが仕事でいなかったので、緑の家の中で相談できると思う。
僕達が五人で家の中で待っていると、真凛と宇音がやって来た。
「直之さん、真凛さんだよ」
「こんにちは」
真凛は挨拶してから、こうなってしまった理由を語った。
「はい、吉田さんから服を買ってもらってその度にファッションショーを開いていました。それが楽しくて、そんなときにファッションモデルっていう職業があると知って目指すことに決めました」
「いや、それは直くんが悪いんじゃないの?」
「何でだよ!」
「吉田さんが服を買った、からなのね」
「まるで僕が悪いみたいだけど」
結香と啓子は僕が服を買ったのが悪いと考えているようだ。緑も頷いている。頷かなくていいから!
「スカートが欲しいって言ったのは私です。吉田さんを責めないでくれますか?」
「真凛……」
真凛は本当に優しい。アイドル達の僕へのイジリを止めてくれた。
「さあ! 真凛さんをファッションモデルにする方法はある?」
「宇音、真凛を辞めさせたいのか?」
宇音は真凛を辞めさせたいのか? それだけはさせてはいけない。
「違うよ、アイドルをやりながらモデルをやる方法はない? ってことだけど、それなら真凛さんは辞めなくてすむ」
そうか、真凛がアイドルに残りながらモデルもやる方法を考えるのか。
「じゃあ、ここでモデルの仕事は出来ないかな?」
僕が公園でやることを提案した。いつもファッションショーをやってるし。
「誰がこんなところまで来るの? バカじゃないの?」
「バカは言いすぎ! でも、ここだと私だけになるかな?」
「そうね。お客さんはまず来ないわね」
緑も笑顔でうなずいている。いいと思ったんだが揃いも揃って却下とは……。
「青海さんの事ですし、プールとか水辺でやるのはどうですか?」
「その水辺とは?」
哲子はプールを提案する。いや、公園の池も水辺なんだけど……。
「練習場所のプールですよ」
「ダメって、言いたいところだけど、私も運動不足だし、泳ぎながらでも見られるからいいわね」
「泳ぎながら見れるんですか?」
「大丈夫よ! たぶん……」
啓子はなんか器用な事を言ってるぞ。それはともかく、借りれるかな? こういうイベントで使うのならば貸し切りにしないといけないので職員に交渉しないといけない。
「問題なのはプールがファッションショーのために貸し切れるかどうかだけど、一応それでいこうか」
「ありがとうございます!」
真凛は今まで深刻な顔をしていたが、やっと笑ってくれた。じゃあ、頑張ってプールを使えるようにしよう。そのために僕はプールを借りる段取りを考えた。
「交渉は啓子さんに一任します」
「何で私に押しつけるのよ?」
「すみませんでした。杏子と相談します」
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「青海さんのファッションショーをプールでやりたいんだね。別に私は通さなくてもよかったんだけど。直之さんはまだ施設の使用許可書の書き方が分からないんだね?」
「うん、杏子が書いてくれるなら、それでもいいけど」
「書き方を教えるので、一緒に受付に行きましょう」
交渉を杏子に一任しようとしたがそれも失敗した。結局、僕と杏子とで一緒に施設の使用許可書を書いて提出した。
後はファッションショーが無事させてもらえるかどうか連絡を待つだけだ。




