第18話-1.冬到来
気付けばもう十二月。僕は今日も真凛たちの様子を見るために公園に行く。
「あー、今日も寒い!」
十二月らしく、最近は毎朝寒い。僕は手を擦りながら偶然発見した織田さんに近寄る。
「吉田さん! おはようございます」
「織田さん!」
「こっちです!」
僕は織田さんに案内されて緑の家に向かった。すると、緑は踊っていた。
「今は新曲の振り付けを練習している所です」
「そうですか。すみません、新曲の振り付けの発表が遅くなりまして」
織田さんはそう説明するが、振り付けの発表は二、三日前にしたばかりだ。内容を精査しすぎて遅くなってしまって申し訳ないことをしたと、この光景を見て思った。
だが、僕の前で踊っている緑はすでに振り付けどおりに踊れている。ただ、動きが小さい。
「大丈夫ですよ。俺に出来ることがあったら、何でも言って下さい」
「分かりました」
織田さんにできることは、当日になりそうだな。
それは当日までに考えておくこととして、次に真凛の様子を見に行くために池に行ってみた。
「あ、直之さんだ!」
「おはようございます」
「おはよう。寒くないのか?」
僕はここに来るだけで震えているのに、二人には寒さと言うものがないのか、こんな寒空の下で池に浸かっている光景など見たことがない。驚くとともに気になったので僕はそれを聞いてみた。
「あまり寒くないです。人魚ですから」
「私も。寒い時でも水浴びしないと生きていけないから」
「そうか」
僕はそれ以上の返事が出来なかったが、宇音も真凛も大事なアイドルだから元気ならばそれでいいと思う。
「吉田さん、すみませんがこの服じゃあそろそろ寒いですね」
「ああ、そうだった。冬服を買わなくちゃいけないんだったな」
「はい」
「また買いに行こうか?」
「はい、行きましょう」
「何それ?」
僕は真凛と服を買いに行く約束をしようとしたが、宇音が一瞬で表情を曇らす。僕は真凛と服を買いに行こうと言っただけなのに、一体なぜ不機嫌な表情をしたのだろう?
「ごめんね宇音ちゃん、一緒に来る?」
「え?」
真凛がそう言うと、宇音は僕の方を見ながらさらに不機嫌な顔をした。僕が何かしたのか? 本当に。
「直之さんが行くって言うのが悪いんじゃない!」
「いや、なぜ僕が悪者になるんだ?」
「私も一緒に行きたい! 一緒がいい!」
「僕と二人がいいのか」
「宇音ちゃん、私と一緒じゃだめかな?」
真凛が宇音を宥めている。真凛が、こういう時でも優しく接するところを僕は気に入っている。
「直之さんは、私と一緒がいいの? 真凛さんと一緒がいいの?」
それでも宇音の論調が変わらない。何でそう言うことを言うんだろう?
「僕は真凛が言うように三人で行きたいと思うけど」
「そうなんだ……」
宇音は落ち込んでしまった。
「なんで落ち込むんだよ」
「だって、私は直之さんと一緒に行きたいのに……」
「一応一緒だけどな……」
そう言うと、宇音は真凛の方を向いて呟いた。
「真凛さん……」
宇音は真凛の方を不安そうな顔でずっと見ている。
「宇音ちゃん、服を買いに行くくらい好きじゃない人とでも行くよ。私と二人でも行っていもいいよ」
「真凛さんと二人でもいいね☆ すぐ決まりそう」
「はいはい、僕はどうせ優柔不断ですよ」
「何かあったのかな?」
「ちょっとね、前……」
「あ、いいよ! 今言わなくても」
「また話すね」
真凛は小さくうなずいた。
「で、どうするんだ? 三人で行くのか」
「宇音ちゃん?」
「三人でいいよ」
僕と真凛が質問することでようやく決着がついた。だが、この後も宇音は僕にまとわりつき、真凛と一緒に引き離すもかなり時間がかかった。
ようやく宇音を引きほどくことに成功した僕は、保管倉庫の西の部屋に海音の様子を見に行った。ここには海音の他に結香が遊びに来ていた。
「あ、直くんが来た」
「あれ? 結香、学校は?」
「今日はないよ」
「ないのか」
聞きたいことはたくさんあるが、それしか聞けなかった。
「結香、海音の様子は?」
「うん、あたしには優しいよ、ね?」
「はい、結香ちゃん、よく、遊んでくれる」
「『には』ってなんだ?」
「哲子さんには厳しいよね?」
「はい」
海音は哲子に厳しく接しているのを認めている。でも、それでいいのか?
「認めちゃったよ」
「哲子さん、なんか言ってた?」
「厳しいとは言っていたけど……」
「そうなの?」
結香は僕にそう聞くが、何か心当たりでもあるのだろうか?
「大丈夫だよな? メンテナンスで何もしてないよな?」
「海音ちゃん、いるけど。直くんから頼まれたことは依頼した」
「足のステップが……。って言うやつか?」
「うん。まあ、海音ちゃんも成長しているんだよ。厳しく指導できるくらい自信がついたんじゃないのかな?」
結香がそう言うなら、そう言うことにしておこう。
「あ、そう言えばね、あたし来年ヒロイックに入るかもしれないから」
「え!? 嘘!? 何で!?」
話が途切れたと思った瞬間、結香から衝撃発言があった。結香がヒロイックに入社だと!?これには僕も大きな衝撃を受けた。体も衝撃を受けたように吹っ飛ぶほどびっくりしてしまった。
「今就職活動してるんだけど、ここを受けて、結果待ちなんだけど」
「それで『入るかもしれない』なんだな?」
「うん」
それにしても、結香が僕の後輩になるのか。どんな後輩になるんだろうか。まさか、仕事中僕のことをいじってばかりいるんじゃないのか?
「何よ、ニヤニヤ笑って。やらしいこととか考えてないよね?」
「いや、何でそうなるんだよ」
「何か気持ち悪い笑い方してたから」
「しれっと気持ち悪いって言葉を使うな」
「だって気持ち悪いもん」
「結香……」
結香……。真顔で『気持ち悪い』と言うのはやめて欲しい。心に突き刺さるから。
「でも、結香がここに入ったらどうなるんだろうな?」
「そんなに変わらないと思うよ」
「何でそう言い切れるんだ?」
「あたしもここにはバイト先のように通っているような感じで、そう変わらないんじゃないかな?」
結香は明るい顔でそう言うがそうかもしれない。今も楽しいから、あまり変わらないんだったらそれはそれでいいと思う。
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午後からはみんなで練習場所に行く。僕も宇音と真凛を連れて行った。最近のアイドル達の練習は凄く白熱している。大みそかライブまで一ヶ月を切ったため、みんなやる気が出ている。
真剣に踊っている杏子に邪魔にならないように挨拶だけして、僕は啓子と哲子の所へ向かった。
僕は最近、連日啓子と哲子についていることが多い。特に哲子は次のライブに向かって張り切っている。
そう、大みそかライブで哲子が初センターの曲『目を合わせてPARTY NIGHT』の発表が初めて行われるからだ。
「どうです? 踊れます?」
「大丈夫よ。哲子なら出来るわよ」
「そうですか」
そう言って啓子は哲子の頭を撫でる。哲子は「村原先輩、ありがとうございます」と言って踊っている時に見せた真剣な表情を和らげた。




