第17話-2.厳しくなった海音
「はぁ~。着いたー」
僕達は啓子とこの前行った居酒屋の畳部屋に入った。そこで、昼間作った振付の確認を哲子にしてもらおうとした。
「とにかく、食べない?」
「村原先輩、それまでに酔っぱらわないでくださいね」
「今日はほどほどにするわよ。気分いいから」
「気分いいから飲まないんですか……」
僕は啓子の言うことを聞いて呆れたが、とりあえず、彼女には踊ってもらわないといけないので前のように酔っぱらってしまっては困る。
「啓子さん、そろそろ」
「そうねえ」
食事が一段落したのでそろそろ本題に入ることにした。
「見ててね」
啓子は立ち上がって踊る準備をした。今日、考えられた振り付け。一日では全部は考えられなかったので一番だけ踊る。
「さすが村原先輩! よくこんなダンス、考えましたね!」
「私だけじゃないわよ。青海さんがいろいろしてくれた。もちろん私もたくさん考えたんだけど」
「そうなんですか?」
「そうよ! そりゃ私が考えなくちゃ」
「あの、青海さんはどんなことを考えたんですか?」
「ここが踊りにくいとか、最初は動きを押さえた方がいいとか」
「何か先生みたいですね?」
「そうよ! で、あんたの方はどうなのよ? あんたの先生は?」
「何回も歌いました。疲れた、て言うか声を出しすぎました」
「でも、声は枯れてないわよ」
「歌うと運動した後みたいに息が上がっちゃって、もっと声出してって言われました。この曲はもっと声を出していいって」
「確かに、元気な曲だからねえ」
「声を出して歌ったら今度は好きな人に届けるんだからもっとしっとりと歌い上げてって」
あちゃー! 海音がなんか賢くなりすぎてるなー。結香の奴、アップデートで何をお願いしたんだ?
「どうしたの? 吉田さん、具合でも悪いの?」
「いや、啓子さん。海音が成長したなーと思いまして」
「アップデートしたからじゃないの。何が起きたかは知らないけど」
海音の性能が大幅に良くなったからこのような指導が出来るようになったのはいいのだけど。
「哲子、いろいろ疲れさせてごめん」
「いや、吉田さんが謝ることじゃないですよ」
僕の謝ることじゃないけどつい言ってしまった。
「そうよ。何が悪いのよ?」
「そうですよね。多分、アップデートが原因で厳しくなってるんだと思うんですけど僕の責任ではないし」
「誰の責任でもないと思うけど」
「そうですよね」
僕はどうしても結香が何かしたんじゃないかって言う思いがあるけどここでは言えないな。
「でも、センターに抜擢したからにはがんばります」
「がんばってね」
「ありがとうございます!」
「私の可愛い後輩がアイドルになってセンターなんて私も夢見ているみたいだわ」
啓子がそう言うと哲子は笑顔でこちらを見た。
「村原先輩? 今なんて……」
「聞いてなかったの?」
「いや、村原先輩、そう言うこと滅多に言わないじゃないですか」
「いやね。嬉しくて」
その様子を見ている僕も何だかほほえましくなった。
********
翌日、ちょっと気になることがあったので海音の所へ向かった。そう、保管倉庫の西にあるいつもの部屋だ。そうなんだが、扉を開けたら何やら人がいっぱいいた。
よく確かめたら海音だけでなく結香と宇音と真凛もいた。
「直くん、何隠れてるの?」
結香にそう言われたので僕は部屋の中に入った。
「何しに来たの?」
「海音と話があって」
「どんな話なの?」
「それが、結香にもちょっと関係あるかもしれないんだけど」
「私と海音ちゃんに話? なんなの?」
結香はジトーッとこっちを眺めてくる。あと、何か知らんけど宇音が身体をくっつけてくる。
「分からないなあ。教えて、って有浦さん、何くっついてるの?」
「ちっ、ばれたか」
「いや、ばれるでしょ。で? 直くん」
「で、何でお前らはここにいるんだ?」
「『ら』って言うのは有浦さん達も入るのよね? それは……」
結香の言う通り、結香と宇音と真凛がなぜいるのかを聞いている。思えば昨日もこの組み合わせで帰ってたよな。
「さては、昨日の続きか?」
「続きってわけじゃないけど、昨日はご飯を食べてみんなを送って行ってただけよ」
「結香がか?」
「何よ?」
「何でもないけど、結香がみんなの送り迎えを……ねえ」
「直くん!? バカにしてるでしょ?」
バカにしているつもりだが……とは言えないので本題に入る。
「本題に入るけど、海音はどんなアップデートをしたんだ?」
「あ! 話変えようとしてる!」
「さっきの事については何も言えないんで」
「ふーん。バカにしてるんだ」
「ノーコメントで」
「バカにしてるんでしょ? 答えたら海音ちゃんの事について教えてあげる」
「ぐぐぐ……」
結香がそう迫ってくるので、僕は思い切って答えた。
「バカにしてました。ごめんなさい」
「うーん、いろいろ出来ようになったんだよね? 海音ちゃん」
「はい」
「あの、哲子の指導も、その賜物か?」
「指導が上手くなるようには設定されてないはず、ね? 海音ちゃん」
「はい、哲子さん、歌ったことがないようなので、みっちり、教えました」
「あれ、なんか海音、怖くなってないか?」
「いや、それはないよ? ね、海音ちゃん」
「はい」
「はい」だけだと分からない。なんかいつもより口数が少ない感じがするが、何でだろう。
「直之さん! 私も構ってよ!」
「いでっ! 今凄い吹っ飛んだが!?」
「直くんを取らないでー!」
僕は宇音に思いっきり抱きつかれて吹っ飛んだ。何でいつもこうなるんだよ?




