第16話-1.大みそかライブ、その会場は?
ライブから一週間が経った。打ち上げの日なので、宇音と緑と真凛を乗せて行くことになった。ちなみに、いつも一緒に乗せて行ってる海音は結香と一緒に行った。
僕はその三人を迎えに行くために公園へ行った。
「吉田さん!」
「織田さん!」
「吉田さん、この前は栗ありがとうございました」
「あれは大和さんが持って来たものですけど」
「分かってますって。でもおいしかったですね、あれ。大和さん、また持って来てくれませんかね?」
「それは織田さんが大和さんに言ってみてください」
「言ったんですけどね、秋にしか持って来れないから、次は来年だと……」
「まあそうでしょうね」
栗はもう収穫が終わっているのか、持って来れないらしい。でも、あれは一体どこで採れた栗だろうか?
「それで、村原さんと北原さんはなぜ食べなかったんでしょうか?」
「それは僕からは言えません」
「何でですか?」
「言えないような事ですから」
体型を気にしているから食べなかったという事だが、口が裂けても言える訳ない。
「とにかく、その事には触れてはいけないです」
「そうですか」
「じゃあ、急いでるんで失礼します」
織田さんが落胆している所で僕は逃げてきた。そして、いた。宇音と緑と真凛だ。
「直之さん、もうみんな来てるよ」
「こんちは……」
「お疲れさまです。よろしくお願いしますね」
そんな三人を車に乗せて、早速会場へと向かった。
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今日行くお店は街の中心部にある。僕は車をコインパーキングに置いた。しかし、なかなか宇音が出てこなかったので宇音を引っ張り出した。真凛はまだ肩を貸さないと移動が難しいが、宇音が反対の腕にひっついてきたりして、文句を言いながら会場にたどりついた。
「ここなの? なんかおうちみたいだね」
宇音がそう言う、今日の会場は居酒屋である。一応、外で待つが、宇音、真凛、緑には先に店の中に入ってもらった。すると、
「直之さん! 待たせてごめんなさい!」
杏子が駆け寄って来た。宇音たちは店の中に入る直前だったため足を止めた。
「あ、直之さん、先にお店の中に入ってて」
「いいの?」
「いいから、私がみんなを誘導するから」
「悪いな。また杏子に任せるよ」
外の事は杏子に任せて、僕達は店内に入った。
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杏子が残りのアイドルを引き連れてやってきた。みんなが席に着いたところで杏子は僕の横に着いた。飲み物が揃ったら僕の背中を押してくる。
「さあさあ直之さん、乾杯、お願いします!」
杏子はそう言うので、僕はまた音頭を取ることになった。
「みんな、ライブお疲れ様! カンパーイ!」
無事乾杯を終えて、僕は席に着いた。
「直之さん、お疲れ様」
杏子は横からもう一回乾杯してくる。
「今回はどうだった?」
僕は杏子に聞いた。前回はあまりの観客の少なさに泣き崩れてしまった杏子。今回はどうなんだろうか?
「曲が同じよね。次は変えて行かなくちゃ」
杏子が指摘したのは、僕が予想していないことだったが。僕も気になっていたことではあった。
「それは僕にも原因がある。もう新曲は出来てるから。あとはパフォーマンスをどうするかだ」
「あ、出来てるんだ」
「ああ、杏子には聴かせてないんだった」
そう言えば、杏子には聴かせてなかったな。あの時期、杏子に怒られてちょっと近づくのが怖かったからな。そう、杏子は怒ると意外と怖いのだった。
「いいよ。直之さんがよければいい」
「そうか? 聴きたいんじゃないのか?」
「練習しながら聴くよ。いい曲が出来てるって信じてるから」
「ありがとう」
「いい曲が出来てるって信じてるから」。杏子にそう言われると嬉しいな。杏子の表情も柔らかいものになっていた。だが、後ろから聞こえてくる会話が気になる。
「織田さんと紅藤さんの関係はどうなのでしょうか?」
「黙ってないでなんか言いなさいよ!」
若奈が緑と織田さんの事について言及している。それにしても結香は緑にそう怒鳴るのは酷いと思うぞ。
「私も、気になる」
「それは……」
海音もその答えが聴きたいようだが、緑は何も言えずにいた。
「恥ずかしい……」
緑は恥ずかしがっている。後ろから聞こえてくる声だけの情報なのでどういう感じになっているのか分からないが。
「直之さん!」
「あ、ごめん!」
杏子に大きい声で話しかけられた。びっくりした。
「直之さんはどうだったの?今回のライブ」
「よかったと思うよ。今回の杏子のMCはよかったよ」
「ありがとう。でも私がずっと話すのもどうかなって思って、次回はもっと他の人と絡みたいな」
「いいんじゃないか? 僕は急に絡まれたけど」
「プロデューサー直々に何か言葉が必要かなと」
「いや、別にいいよ。心臓に悪いし」
「直之さん、まだ若いんだから。もっと場数を踏んでみる?」
「って言う事は次もいきなり振られるの?」
「振って欲しい?」
「余計な事しなくていいからさ、他のアイドル達に話させてあげて」
僕は謙遜した。いきなり振られて話すのは極力嫌だ。
「分かったよ。考えるね」
「ありがとう、杏子」
僕はお礼をしたが、杏子はまた固い表情をしていた。アイドルの事を考えているのだろうか?
「直之さーん!」
突然、宇音がぶつかってきた。どうしたんだ?
「ごめんなさい! 少しじゃれすぎた!」
「危ないじゃないか、気をつけてよ」
「はい」
そして、お決まりのように宇音は僕に抱きついてくる。
「宇音ちゃん、大丈夫?」
「うん」
宇音が突然僕に飛びかかって来たので真凛が心配して駆け付けてきたようだ。
「で、騒動の発生源は?」
「あそこ」
宇音が指差したのは結香と啓子と哲子。そこに入っていたようだ。
「何があったの?」
「北原さんと争ってた」
「ケンカはだめだろ」
「だって、アイツ直之さんを譲ってくれないんだもん」
宇音は何があったか説明してくれる。どうやらまた結香に何かやらかしたらしい。でもそれって僕が悪いようじゃないか。悪かったな。
「僕はあの中に入る」
「待ってー!」
代わりに僕が結香の方へ行く。すると宇音も付いてきた。ってついてくるのか?
「何でついてくるの?」
「直之さんが行くのなら」
「結香の所に行くよ」
「直之さんが私を守ってくれるよね?」
「何から守るの?」
「北原結香。私の最大の敵よ」
「争いはやめてくれないかな?」
宇音は結香を最大の敵と称す。だが結香は僕にとっては敵じゃなくて幼馴染みだ。そう思いながら僕はとりあえず結香の所へ行った。
「結香? 話に混ぜてくれないかな?」
「いいよ! 紅藤さん、織田さんと付き合ってるらしいよ!」
結香、お前はいきなり何を言い出すんだ。言う内容より時と場所を考えろ。一気に噂になる。
「ええっ!? そんなこと大声で言うなよ!」
「だってびっくりしたんだもん」
「いや、理由になってないから」
「それで、あなたたちはどうなの? さっきからくっついてばかりだけど」
「付き合ってないよ」
「好きなんだけどね」
結香はいきなり僕と宇音の関係を聞いてきた。僕が交際を否定すると宇音がすかさず告白する。いや、もう僕は何を言っても動じないぞ。
「いや! それよ! それ! それでも付き合ってないって言えるの!?」
「うん」
「何で私の想いが伝わらないんだろ?」
突っ込む結香に僕はNOを出せるのだが、宇音はそれが不満。何でいつもこうなるんだよ。
こう言う恋バナみたいなものをしていると突然杏子から声が掛かった。
「みなさん、聞いて下さい。今回もライブが無事成功しました! お客さんも前よりは多く入って良かったですよ。そして、次のライブの日程、決まりました! 次回は一二月三一日! 大みそかになります! 場所はアイドル喫茶MARIAで行います!」
杏子はこういうアナウンスをしたが、なんか歓声が変だ。歓迎している声もあるが、この人たちは反発していた。
「え、嘘でしょ?」
「もう私たちの会社のホールは使わないのですか?」
それは、啓子と哲子だった。
「え? ああ、すみません。今回は……」
杏子はしどろもどろだが、はっきり答えている。
「みんなまだ慣れてないし、早すぎるんじゃない?」
「そうでしょうか? 私はそろそろ別の場所でもやってもいいかなと思ったんですけど」
「何回か使うという約束でしたが、それは二回だけですか?」
「いや、今回は別の場所でしようとしただけで、また使いますよ」
「大丈夫かしらねえ? 私は難しいと思うんだけど」
「それもそうですよね?」
啓子と哲子が順番に質問していて、杏子は答えているがついに詰まってしまった。
「そうでしょ。前に、少しホールで様子をみていこうっていったじゃない? まだあまりお客さんがあまりいないのに他の場所でするだなんて、早すぎない?」
「村原さんの仰るとおりですが、でも、私はいろいろな場所で挑戦したいんです!」
啓子に対して、杏子はそう言い切ってしまった。言い切ってしまったのだ。
「強行開催ですか……。残念です」
「そこまで言うならやってもいいけど、失敗しても知らないわよ」
「私は成功すると思いますよ!」
「ちょっと待って!」
落胆する哲子と引き止める哲子に対し、まだまだ強気な杏子。これ以上議論するとケンカになりそうだったので僕は杏子と啓子たちの会話の中に割って入った。
「直之さん?」
「とりあえず、今日の所はこれ以上議論しないでくれないかな? 杏子」
「別に議論はしてないけど、まさか反対されるだなんて思わなかった」
杏子は僕に悲しそう顔を向けてくる。
「また、話し合わないといけないな」
そう言って後ろを振り返ると、啓子が手招きしている。なんか怖いな。なんだろう?
「なんですか? 啓子さん」
「あとで来てね」
僕は啓子に耳元でささやかれた。間もなくして外に出たら、啓子に捕まった。
「吉田さん、二軒目行こう、二軒目」
「まだ行くんですか?」
「本番はこれからよ」
「何の本番ですか」
「いいから!」
僕は啓子に捕まったまま、次の目的地へ向かう。移動中に緑と織田さんが付き合っていること聞けていないことに気付いた。また織田さんにでも聞いておこう。




