第15話-1.プールでブレイク!
「哲子に言ったのはいいものの、どうすればいいんだ?」
僕は新曲の作成をスタートした。次のライブまではあと一ヶ月半。その間に作曲から作詞、アイドル達が歌詞や振り付けを覚えて、衣装も作らなければならない。無理な場合は次までには披露できない。そうなると、まだ未定であるその次以降のライブまで待たなければならないが、今のままでは時間的に厳しい。
「それはそうとして、まず哲子に話を聞かなければ……」
僕は哲子に連絡を取って、約束を取り付けた。
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「約束は取り付けたが、どうしてこうなった」
僕が今いるのはレジャープールである。もう今年も終わりだろうが、最近は九月までやってるのか。そして、哲子と待ち合わせているのはプールエントランスの中にあるレストランの前だが、またしても啓子がいるので話しづらくなる。
「おはようございます」
「吉田さん、おはようございます」
「おはよう。水着持って来たわよね?」
「はい」
この後は僕達も外のプールに行く予定なんだけど、今日は曲のイメージを考えるために哲子と話がしたい。
「ここで話を聞くのね。何か面接みたい」
「ちょっと改まりすぎかな」
「いえ、いいと思いますよ」
哲子はいいと言ってくれた。早速、話をしよう。
「話を聞きたいんだけど、哲子について知りたい、ってそれだけなんだけど」
「私がどういう人か……。結構難しい質問ですね」
「ちょっと。哲子が困ってるじゃない」
「すみません。村原先輩。私の代わりに答えてくれませんか」
「私が!?」
「客観的な意見になるけど、啓子さん。お願いします」
「ちょっと。吉田さんまで改まって。まあいいわ」
啓子は渋るも哲子の事を話し始めた。
「初めて会った時は気の弱そうな子だと思っていたわ。でも、芯は強かった。あとはそうねえ、私と二人の時はよく話すわ。普段はおとなしいけどね。あまり話さない子だけど、普段はそう言う事はないわ」
多分それは哲子より先に啓子が話してしまうからだと思うが……。しかも啓子と哲子は意見がほぼ同じなので話しようがないのでは……。
「吉田さんは啓子の事をどう思うの?」
「それは……」
いきなり聞かれても答えが出て来ない。
「だったら何で、哲子に歌を歌わせたいと思ったの?」
「ちょっと、言いにくいんですけど、怒らずに聞いてください」
「何よ?」
啓子の真剣に聞こうと顔を近づけてくるその顔が怖い。
「前の歌は青と白のイメージだったんですけど、だったら今回の曲は赤と黒のイメージにしようと、それで考えたところ、哲子が適任だと思ったんです」
「……。怒るも何も、言ってる意味が良く分からないわ」
哲子も口にはしていないが不思議そうにこちらを見ているので、言っている意味が伝わっていないようだ。どう説明しようか?
「えっと、赤って情熱などを表す色なんですよ。黒って言うのは暗い、よく分からないとか、そう言う感じの。僕が見た限り、アイドルについて意見も出してくれるし、情熱がありそうで、ちょっとおとなしめ、黒なイメージで。緑もおとなしいけど、どっちかというとクールなイメージですからね」
「私が色になるとは思いませんでしたが、そう言う風に見られてるのですね」
「ごめん、何か怒らせたみたいで」
哲子は「いやいや」と言いながら、僕の方を見つめてこう続ける。
「よく考えたら、そうだと思います。村原先輩がほとんど意見を言って下さるので、私があまり話さない大人しい人に見えるのかと思います。でも私も話すのは好きですよ」
「うん。僕と普段あまり話さないから、分からなかったのかも」
「ごめんなさいね。吉田さんはプロデューサーさんだからもっと積極的に話していかなければダメなのに」
「ダメな事はないよ。それを言われると僕にも言えることになる」
哲子が啓子ばかりと話しているように、僕も杏子や結香、宇音の方にコミュニケーションが偏ってるような気がする。
「哲子は哲子のペースでいい。これから哲子の曲が出来ても、だよ」
「ありがとうございます。そういえば、曲はまだ出来ていないんですよね? どんな感じの曲になりそうですか?」
「伝わりにくいですけど、さっき言ったような赤と黒のイメージで行こうかと思うよ。青と白は海と砂浜、赤と黒は何だろうか?」
「血と暗闇ね」
「村原先輩、物騒ですよ!」
「間違ってもそういうイメージにはしませんから!」
啓子がとんでもない爆弾をぶち込んできたから今日はこれで終ろう。さあ、話し合いが終わった後は……。
「夏のひととき、恋の予感がする」
「なーに言ってんのよ! さっさと行くよ!」
僕が『GARDEN CALL』の歌詞の一節を呟くと、結香に引きずられてしまった。
「直之さん、何で引きずられているの?」
「杏子! こいつがさあ、暴力振るってくる」
「誰も暴力なんかしてないし!」
「と言いながら叩くな! いてっ!」
結香は暴力していないと言いながら僕の頭を叩いてくる。凶暴だ……。
「北原さん、泳ごう?」
「ちょっと待って、こいつを突き落としてから行く」
結香にそう言われて僕はプールに落とされた。杏子は遠くで見ているだけだ。いや、助けてくれ!
「結香、何をするんだよ!」
「直くん、一緒に遊びましょ!」
「嫌な予感がする……。嫌な予感しかしない……」
しかも杏子はすでに泳ぎ始めている。
「吉田さん、結香ちゃんとくっついていたけど、何?」
「大丈夫ですかー?」
啓子と哲子が後から追ってきたらしく、やっと僕に追いついたようだ。
「村原さん、ちょっと直くんと遊びたくて」
「そうね。たまにはいいんじゃない?」
と、このタイミングで僕はプールサイドに上がった。
そこからプールサイドからプールを見渡すと啓子や哲子、杏子や真凛は全員泳ぐのが速い。それに加えて真凛はほとんど水面に上がって来ない。
「おはようございます、吉田さん」
「あ、おはよう」
若奈に話しかけられて、僕は少しはっとした。
「吉田さんは泳がないのですか?」
「ちょっと、プールに危険な奴がいて」
「そうですか? 此方は、皆さんのんびりしています。江坂さんが泳がれないみたいなので、御話伺ってた所でした」
「海音は何て言ってた?」
「今日は北原さんにはついていきませんでしたね、という内容の話でした。そこからお互いの話をしていました」
「どんな話なの?」
「そうですねえ、江坂さん、近々アップデートされると言われてました」
「そういえば近づいているみたいだな。どうなるんだろう?」
「江坂さんも緊張しているみたいでした」
「まあ、動きが良くなるとか、良くなる点は多いけれども」
「私は機械が苦手で、そのような事は分かり兼ねますが……」
「僕も詳しいことは分からないなあ、結香なら少しは知ってるかも」
「直くん、呼んだ?」
見返してみるとそこに結香がいた。やばい、捕まるぞ。
「出た、逃げなくちゃ」
「逃がさないわよ! さあ、こっちに来なさい!」
「うわー! 助けてくれー!」
「うふふっ」
僕は結香に連行される。若奈はそれを見て笑っている。それにしてもなぜ誰も僕を助けないんだよ?
「もう! 探したんだからね」
「そりゃ探すだろ、逃げて来たんだから」
「それにしては分かりやすい所にいたよね」
「結香から逃げられたらそれでいいと思って」
「何よ!? でも、今度は二度と逃がさないわ。ほら」
僕は結香に押されてプールの中に入った。プールの中に入ったら褐色の腕に絡められた。
「直之さん、一緒に遊ぼう☆」
「くそ、宇音に捕まった」
「有浦さん、ありがとね」
「どういたしまして」
「おい、何でお前ら組んでんだよ?」
結香と宇音が協力し合うとは、これは今までなかったパターンだ。
「何でって、北原さんから頼まれて、私も一緒に遊びたかったから」
「だから、ここは有浦さんに頼ろうかと思って。で、今こうやって捕まえてるわけなの」
「分かったから離せ!」
「本当は光にも浴びたかったんだけど、直之さんが来たから一緒に遊ぼうか」
「離せって言ってるんだけど」
「離したら逃げるよね? 嫌だ」
「じゃあ遊ぼうか?」
結香はそう言った。もう僕は上がれそうにないので、彼女たちと「遊ぶ」事にした。
何をしたかと言うと、
「直之さん! がんばれー!」
僕と結香はまた水泳競争をしていた。今度こそは勝とうと思うのだが、泳げば泳ぐほど離されていく。もう途中から諦めていた。
「直之さん! がんばれー!」
僕がゴールすると結香はずっと見てた。
「直くん、またあたしが勝っちゃった」
「はあ、はあ……。いつからこんなになったんだ?」
僕は結香に負けることに納得がいっていない。何せ僕の知っている彼女は全然泳げない彼女。じゃあ、目の前にいる彼女は、何だ?
「村原さんに鍛えこまれたからね。あの人、泳ぐの速いでしょ」
「速かったな」
「あたしから見ても上手だと思った。それまでは全然ダメ」
「そうだな。僕はそっちの結香を覚えているよ」
「いや、そっちは忘れていいのよ!」
「だってさあ、その感覚で育ったんだもん」
「忘れて!」
「ぎゃあああ!」
僕は結香に絡め取られた。これは危ないだろ。水の中だし、何か大きいものが当たってるし。
「吉田さん!」
突然、後ろから杏子の大きな声が聞こえた。彼女が声を張ると結構な大声になる。
「うわっ!」
「楽しそうだね」
「あ、いや、これは……」
「私と水泳勝負しよう!」
僕は杏子に手を握られて連れていかれた。こうして突如発生した杏子との水泳勝負。僕は勝てるのか? いや、結香に負けたのに勝てる訳ないだろ。
「準備はいい」
「いいよ」
「じゃあ、行くね! 北原さん、号令よろしく」
杏子は近くにいた結香に号令を任せ、結香の「よーい、どん!」と共に発進した。
そこからは予想した通り、杏子は全速力のクロールで猛進していった。僕は今にも溺れそうなクロールで追いかけていく。
「がんばれー!」
「もう、直くん、遅い!」
そこから頑張って僕は頑張って泳ぎ切った。杏子はまだ水の中にいた。
「直之さん、泳ぐの、楽しいよね」
杏子は万遍の笑顔でそう言ったが、泳ぎの苦手だった幼馴染みには負けるし、泳ぎの上手い人と泳いでボロ負けするし、不愉快なだけだ。




