第13話.宇音と結香の直之争奪戦
13.宇音と結香の直之争奪戦
ライブが終わって数日後、僕は家でゴロゴロしている。アイドル達も大きなイベントが終わったため、練習したりしなかったりしているようだ。杏子のようなやる気のある人は毎日やっているようだ。だけど、今僕の隣にいる人は急にやる気が無くなったのか、あれからと言うものの、ゴロゴロしかしていない。
「ねえ、直之さん」
「何?」
「服が欲しい」
「いきなり言われてもな」
これが結香や若奈だったら喜んで買っているだろう。だが、今僕の目の前にいる彼女は、身長は二メートル、褐色の肌に緑色の髪の毛、この子が着る服など売っているのだろうか。その少女の名は有浦宇音。今、僕のベッドに入ってくつろいでいる。
「それよりさ、何で僕のベッドに入ってるの?」
「だってここ、直之さんの匂いがするんだもん」
「いや、ここ僕の家なのに何で後から来た宇音がベッドに入ってて、僕が床へ寝っ転ばなければいけないんだよ?」
「だったらこっちに来てよ」
「何されるか分からないから嫌だ」
「もう、来てってば!」
「やめて! 襲いかからないで!」
僕は宇音に襲われそうになる。ほんと、宇音は凶暴なので全然嬉しくもない。
「分かったよ。襲われるくらいなら僕の方から行くからさ」
「やったー!」
僕は布団の中に入った。もちろん、宇音は布団の中から出ることはない。
「で、服が欲しいの?」
「うん」
「でも、宇音のサイズの服は売っていないなあ」
「そこを何とか、お願い」
宇音は自分の胸の前で手を合わせる。
「そう言われても……」
何か宇音と恋人のようなやり取りになっている。いや、僕達は付き合ってはいないのだが。
「ダメ……?」
「そんな顔するなよ……」
宇音は悲しそうな顔をする。でも、うちには服を縫ってくれる人がいる。その人物に頼めば……!
「生地なら、買ってやろう」
「ホントに! やったー!」
宇音は子供のように喜んでいた。ありがとう、浅田さん。そして、よろしく頼む。
「だけど、このまま外へ出るのもなー」
「え?今まで出てたじゃない」
「それはアイドル達の配慮があってのものだよ。僕一人ではかばいきれないよ」
「えー?じゃあ今日はどうするの?」
「宇音、ちょっと体を貸してくれないか?」
と言うと、宇音は余計に抱きついてきた。
「いや、そうじゃなくて、ちょっと離れるけどいいか?」
「嫌だ、って言ったら?」
「我慢してよ、少しだけだから、大人しくしててよ」
「本当に少しだけだよね?」
「ああ」
僕はせわしく衣服を探しまわった。そしてこれを宇音に着せて……っと。
「よし、完成!」
僕の目の前の宇音は白いサンバイザーに黒いサングラス、黄色い服にロングスカートを履かせた。これで樹には見えないだろう。
「これで外へ出るの?」
「ああ」
宇音は、僕が手を出すとすんなり出てくれた。
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そして、玄関から出ると、誰かいた。
「ああっ! 有浦宇音!」
「何で結香がいるんだよ!」
結香だ。彼女は赤色のチェックのスカートに白いカッターシャツを着ている。大体いつもそんな格好だ。そして今日もなぜか機嫌が悪い。そして、来るなら連絡ぐらいしろ。
「連絡したんだけど!」
「いや、知らないし」
「携帯見て見てよ!」
彼女が言われるがままにスマホを見てみると、確かに行くと書いてあった。
「あった! ごめん!」
「それは分からないよ。直之さんは私と愛し合ってたんだもん」
「宇音は余計な事を言わないで!」
あちゃー、宇音のこれは結香には絶対言ってはいけない事なのに。
「有浦さん! 直くんに勝手に手を出さないでよ!」
「北原さんこそ勝手に来ないでよ!」
「ちゃんと連絡したじゃない!」
「でも、見てないんじゃ意味ないじゃない!」
「くーっ! あーもう!」
「分かったから、ケンカはやめて!」
「「あなたのせいじゃない!」」
そこは同じ意見なのかい? 君たちは。
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車に乗るとちゃっかり結香が付いてきていた。話を聞くと結香も服が欲しいとのことだ。自分で買えよって思うけど、目的が一緒だから一緒に行くことにした。宇音は気に食わない表情をしている。
「そのかわり、自分で選べよ」
「直くんに選んでもらいたいんだけど」
「だって今日はほら、元々宇音の服を買いに行くんだし。だったら結香も一緒に選ぶか?」
「絶っ対やだ!」
「そんなに強調しなくても……」
「服は一人で選ぶものなの?へえー」
「宇音のはみんなで選んで欲しいなと」
「もう! 訳分からない! 何よ! もう!」
「いや、そう言う事だよ」
「何で有浦さんの服だけ選ぶの!? もう!」
「分かったよ。結香のも選んでやるよ」
「ありがとう」
結香は笑顔になった。服ぐらい自分で選んでくれよ……。
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僕達は駅前にやってきた。ここでは人が多かったので僕と結香は宇音を隠すために囲い込む。
「直くん、それで、これで有浦さんがばれないとでも思うの?」
「大丈夫だろう」
「無理よ、こんな気持ち悪い格好して」
「気持ち悪いって何? いきなり押しかける方が気持ち悪いと思うんだけど」
「どの辺が気持ち悪いんだよ」
「サングラスかな? 余計に怪しい」
「他は」
「服がピチピチなのも面白いけど、それはそれで小さく見えていいかも」
「私抜きで話を進めないで!」
宇音がどんどん怒ってきているのでこの辺でどうするか決めよう。
「うーん、サングラスは取ろう。あとサンバイザーも」
宇音はサングラスとサンバイザーを外した。
「これで良し、か」
「うーん、大きいよね」
「何?」
宇音が超絶イラついている。こんなに怒っている宇音を見るのは初めてなのかもしれない。
「直之さんも、何でこんな女を連れてきたの!?」
「だって、来たいって言うんだから、ほら」
僕は宇音に薄色の服を羽織らせてやった。
「似合ってるよ」
「ありがとう!」
宇音の機嫌は一瞬で直り、僕を抱きしめた。
「はーいはい、さっさと行きましょうか?」
結香は宇音を引き剥がして僕の隣へ来た。
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女性用の服を売っている場所にやってきた。まずは宇音の服を選ぶのだが、服じゃなく生地を選ばなくてはいけない。その生地を持ったうえで浅田さんに依頼を掛けることになる。
それにしても、生地といってもいろいろあるもので……。
「これは宇音に似合うんじゃないか?」
「でも、今着ている服と似てない?」
「そうか。これ着せたことないからな。実は今日が初めて」
「そうなの」
「うん」
結香は黄色い布を指差した。
「直くん、これはどう?」
「これも、今着ている奴と似ているな。二つ組み合わせるって言う手もあるけど。宇音は?」
「これかな?」
宇音の選んだのは髪の色と同じ明るい緑色の布。
「お、似合うんじゃないか?」
「悔しいけど、いいセンスしてるよね」
僕達は満場一致で宇音の選んだ生地がいいと思った。分かった、買ってやろう。でも、何かを忘れているような気がする。
「直之さん、ありがとう! さあ、帰ろうか?」
「あなた、ちょこちょこ悪いこと言うよね」
そう、これから結香の服を選ばなければいけない。これは長くなりそうだ。
「結香、この服どう?」
「嫌だ、子供っぽいもん」
僕はピンクと白のチェックの服を出すと断られた。今着ている服と大して変わらない気もするが、童顔の結香が着ると見事に似合っているのだ。
「この服は?」
「嫌だ、安っぽい」
これは白いフリルのついた服だが、結香に安っぽいと言われてしまった。この服が可哀想だ。
「これはどうなの?」
「無理、アイツと同じような服じゃない。あと、これもね」
黄色と緑の服も却下だ。だったらどうしろというのか。
「じゃあ結香が選んでよ。これもどれもダメだったら自分で選べば?」
「何よ! ……いや、あたしも連れてきてもらってるんだから、分かったよ。あたしが選ぶわ」
結香は何かを悟ったらしく、自分で探す気になったようだ。結香が売り場の方へ進んだ。
結香が服を探しに行ったら、宇音が文句を言ってきた。
「あれ、自分が悪いのにね」
「争うのはやめてよ。でも、やっぱりこうなるとは思ってたけどさ」
「そうよ」
宇音は結香の悪い所を僕に言ってくる。僕は普段からさんざん仲良くしろと言ってきてるのだが……。なぜこうも上手くいかないのだろうか?
「こっちも独自で結香の服を探そう」
「え? そんなことする必要はないんじゃ……」
「でもあいつがまともに服を選んでくるとは思えないから、僕も手伝わないと」
「ちょっと待って!」
僕は結香の服を探しに行くと、そのまま宇音もついてきた。しばらくその近くで服を探していると、自分の服を探しに行った結香が戻って来た。
「直くん、これしかなかった」
結香が持ってきたのは赤と黒のチェックの服。今の結香が来ているのと大して変わらないものだった。
「これはダメだよ」
「何で?」
「今着ている服と一緒だよ。子供っぽいのが嫌じゃないの?」
「ぐっ、確かに言ったわね。だったら?」
「大人っぽい服ってないのかな?」
「探してくる!」
結香は勢いよく売場へ飛び出して行った。どうも心配なので僕も結香の服をこっちで選んでおこう。
それにしてもいい服がない。後日改めて他の店で見た方がよさそうだ。結香が戻って来たら帰ろう。そう思っていたら結香が服を持って勢いよく現れた。
「これで最後!これがダメだったら今日は諦める!」
と、服を持ってきた。それは青と白色の服だった。
「何でこの服にしたんだ?」
「え? 直くん、同じのじゃダメって言ったじゃん。で、どういう服が着たいかというと、これかな? こんな色の服はめったに着ないから。私も、同じような服はもうやめようかと思ってて、でもなかなかやめられなくて……」
その色は『GARDEN CALL』の歌詞に出てくる色の服だった。正直、このような服を結香が選ぶとは思いもしなかった。
「で、どうなのよ?」
「あ、ああ」
「話、聞いてた?」
「ああ、この服がどうかってことだよな」
「本当に聞いてた?」
「ああ、まあ」
すみません。考え事してました。
「いいと思うよ。似合うと思うから、後で試着してみよ、うわっ!」
「直之さん、私も構ってよ!」
「ごめん、分かったから、離せ、痛いんだよ!」
宇音にまた背後から締め付けられる。僕の前には今にも殺そうとしているほど怖い顔をした結香がいた。
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「直くん、どう? 似合う?」
その服を着て、試着室から結香が出てきた。白いスカート、青いシャツは今までの結香の感じとは違ってさわやかだ。
「宇音はどう思う?」
「悔しい!」
宇音は拗ねていた。予想どおりなのだが、二人とももっと相手を褒めることはできないのか?
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後日、僕は宇音の選んだ布を持って浅田さんの元を訪れていた。
「これで、厚手の長袖を作ってくれないかな?」
「はい、で、サイズは?」
「4Lで」
「はい」
「驚かないの?」
「前のライブを見たからねー。あの後ろの大きな子のでしょ?」
「うん」
「最初見た時はビックリしたけどね。で、外にいるんでしょ?」
「そうだな」
「いつも一緒なの?」
「そうでも……」
「そうでもないよ」と、言いかけたところで宇音が入ってきた。何故このタイミングなんだ?
「こんにちは。よろしくお願いします」
「あなたは……」
「直之さんのお嫁候補の有浦宇音です。よろしくお願いします」
「えー! そうだったのー!」
「いや! 誤解だ! 浅田さん!」
浅田さんは真に受けて驚いていた。宇音は嘘を付くなよ。




