第11話-2.練習再開
月曜日、あれから二日しか経っていないが、練習が再開された。僕達は練習場所に入って間もなく、大きな紙袋を持った若奈が入ってきた。
「おはようございます。この度は私の御家の旅館に泊まって頂いてありがとうございました。気持ちだけですがお礼をさせて頂きますので、皆さんで分けてお召し上がり下さい」
「ありがとう。大和さん、期待してるよ。これからも練習がんばってね」
「分かりました。それでは早速、よろしくお願い致します」
若奈は綺麗に頭を下げた。
「大和さん、家族の理解が得られて良かったね」
「いや、吉田さんのおかげです、ありがとうございますね」
「あ、ああ、いや、若奈には辞めて欲しくなかったから」
若奈にお礼をされたけど、僕は上手く返事が出来なかった。
「それでは、よろしくお願いします」
若奈は奥へと消えていった。
僕は、話しかけようとして杏子の方を見た。彼女はすでに一個お菓子を食べ終わっていた。早い……。
僕が杏子を見ていると後ろから結香に話しかけられた。
「おはよう」
「おはよう、結香。練習はどう?」
「大丈夫よ。あ、そうだ、直くん、準備運動に泳ぎたいの。ちょっと付き合ってくれるかな?」
「分かったよ」
「水着、あるの?」
「ああ、この前杏子に突然水泳勝負を申し込まれることがあって」
「へー」
「だからさ、やってやろうと思ってさ」
「どうせ負けるくせに」
「いや、何て言い方するんだ!」
「あれに勝てると思う? よく自分の身体見てみなさいよ」
「うるさいなあ」
これは啓子にも言われたやつだ。何でこんなに貧弱扱いされなければいけないのだろうか? まあ、事実だが。
「て、いうか、人を指差すなよ」
「いいじゃん、聞こえてないから」
「直之さん、私との勝負も、忘れないでね」
後ろから杏子が割り込んできた。と、言う事は……。
「聞こえてた」
「怖っ」
「いや、そりゃ聞こえるだろ」
「そうよね、ごめん」
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「絶対負けないぞ、相手は今まで全く泳げなかった結香だ」
「何よ!? もうあたしは昔とは違うのよ!」
今、僕と結香はプールに来ている。結香の声が反響してて耳が痛い。頼むから大声出すな。
僕達は位置に着いた。
「50mね。絶対負けないんだから」
「そういわれても、いまいち想像がつかないな」
今までの事からして、勝負が始まったら、真っ先に結香が脱落するのではないか、と言う気ばかりがする。
僕と結香の真剣勝負が始まった。結香はいつも諦めている場所では諦めず、猛スピードで進んでいく。僕が油断していたか、結香には追いつけず、途中で疲れてしまって余計に話される結局、僕は結香に負けてしまった。ちょっと、もう疲れ過ぎて立ち上がることもできない。結香はさっさプールサイドに上がって立っていた。
「今までは僕が勝ってたのに……」
「やったー、直くんに勝ったー! また勝負しようね!」
「えー!?」
もう、「えー!?」としか言えない。
「そう言う事よ、戻りましょ? 直くん」
「え? あれだけでいいの?」
「準備運動だから。さあ、踊るぞー!」
「ちょっと待ってよー!」
練習場所に戻ったら、結香はさっさと踊りに行こうとするので、僕も後をついて行った。
「啓子、ちょっといい?」
「何よ?」
「さっき泳いだら結香に負けたんだけど」
「単にあんたが弱いだけじゃない?」
「何でそんな返し方なんですか!?」
「まず、その貧相な体を改善しなさい。吉田さんが筋肉質になったらそれはいいわよねえ」
「え、今の吉田さんもいいじゃないですか」
哲子がなんかフォローに回ってて嬉しい。
「結香ちゃんに負けたのが悔しいんですって」
「ああ……」
哲子は空気を読んだように黙って練習を再開する。なんか、悲しい。
「まあ、とにかく体を鍛えなくちゃね」
「は、はい」
うーん。納得はいかないけど、ここは「はい」と言わなければいけない気がする。
一方、結香は杏子と話をしていた。
「さっき直くんと泳いで勝っちゃった」
「北原さん、最近体力ついてきたよね」
「凄いよね。変わったよね」
「前はどうかしてたから」
「北原さん、頑張ってね!」
「うん! このダンスを踊れるようにして絶対に成功させるんだから!」
結香がやる気になるのは気持ち悪いが、いいことのように思える。
「それで、みんな私だけを見てくれるようになる!」
あ、それを言っちゃ……。
「何よ! 直之さんは私のものだから」
「分かったからさっさと練習してね!」
「ええっ!」
結香は他のアイドルから責められる。ほら、言わんこっちゃない。




