第10話-6.いきなりライブ!
若奈、ごめん。僕は若奈を助けられなかった。悲しいけど諦めよう。さよなら、若奈。
僕は部屋の襖に手を掛けると、杏子がいきなり飛び込んできた。
「うわあ!」
「みなさん! 今すぐエントランスに集合してください!」
なぜかアイドルの衣装を着た杏子はそう叫ぶ。それにしても高速で突っ込んできて危ないなあ。ただ、衣装姿で凄く慌てている杏子を不思議に思い僕は杏子を追う。すると、なんと若奈が親子で僕達の後を付けてきていた。どういうことだろう?
エントランスに向かったら、衣装姿のアイドルが全員集まっていた。杏子は前に僕がもし無理そうだったら行動するとは言っていたけど。行動の結果が無茶苦茶派手だ。
「おはようございます! カフェファクトの杏子です! 今日は大和旅館でのゲリラライブをします! みなさん、最後まで楽しんでください!」
そしていきなりライブが始まった。曲は『GARDEN CALL』で、これは初披露だ。最初はゆったりとしたダンスと海音の歌から始まった。
なんかすごい臨場感。観客、というか観光客は体を動かしたり、手拍子を送ったりしている。
ゲリラライブって何だ? 今までのライブと迫力が全然違う。
その次。まだ、動きはゆっくりだが、ここで結香が歌う。って、あれ? 何でここ、結香が歌う事になってるんだ? 練習の時はそんな動きは見られなかったぞ。結香はダンスもまだ上手くない感じがしたのだが、よく見ると結香のダンスのレベルが格段に上がっていた。他のメンバーもレベルが上がっていたが、結香はそれの比ではない。しかも歌まで同時にこなすとは!
練習風景はチラチラ見ていたが、結香に一体何があったのか? これは結香との約束を守らなければな。
その後、激しい動きが入り、再度サビが入る。この曲は激しい動きの部分と、ゆったりした動きの部分とが繰り返されるが、その間、ずっと会場は盛り上がっている。さらに会場は盛り上がり、飛び跳ねる観光客もいた。ほぼ全員がアイドル達に視線を集中させていて、逆にアイドル達は観光客の方に目を合わせながら丁寧にダンスを踊り上げていく。
若奈の母は「何なの? これ」と、言いながら、驚きを隠さないでいる。一方、若奈は僕の方を見て微笑んでいる。
そして、曲の最後に結香は僕の方を見て、ウインクして、手を銃の形にして、バキューン!
うっ! 僕は、結香に撃たれてしまったようだ。
********
ライブが終わった後、僕は大和親子の方を向いた。
「吉田さん。仕方ないわね。私は良くは思わないけど、アイドル活動は続けさせます」
「え? お母様!?本当に!?」
「ええ、会場を見てみて、お客様が見入ってしまっているわ。それならやってもいいじゃないの?」
どういうことだろうか? 若奈の母親は若奈をアイドルに残るのを許可してくれた。
「ありがとうございます!」
僕は若奈の母親に一礼した。
「吉田さん、若奈の事をよろしくお願いします」
「吉田さん、これからも、よろしくお願い致します!」
「うん、こちらこそ」
若奈は深々と頭を下げた。
「本当に良かったです」
と言って、若奈は僕に抱きついた。え? こんなところで?
「直くん、何しているのかな?」
しかも、後ろから何やら不吉な声が……。
「あたしがいながら、何を抱きついているの?」
「いや、結香、これは……」
「直くんのバカ!」
と、結香は一言僕に吐き捨て、どこかに行ってしまった。いやー、これは、探さなきゃいけない流れじゃないか?
「もう、困った奴だなぁ。ちょっと、結香を探してくるよ」
「あの、私は?」
「ここにいていいよ。一緒に来たらまた誤解される」
「とても寂しいですが、分かりました」
「ごめんな、若奈」
僕は若奈と別れて、結香を探しに行った。でも、外に出たが結香らしき人はいない。そこで僕は中庭方面へ向かった。宇音と初めて会った場所。そこに結香はいた。
「結香! いた!」
「もう来ないでよ!」
「ごめん! 結香!」
「大和さんのことが好きなんでしょ!? あたしに構わないで!」
「いや、誤解だ」
「何がよ! じゃあ、誰が好きなの!?」
「いないけど」
「はあ、あなた、自分の状態、分かってる?」
「状態って何?」
「何? じゃないわよ! あんたの家にいた時は有浦さんにくっついて!練習の時は二宮さんにくっついて! それで今日は大和さんとくっついて! あたしをなんだと思ってるの!?」
「幼馴染みだと思ってるよ」
「ただそれだけ!?」
「他に何が欲しいの?」
「あー、あんたに期待したあたしがダメだった。もういいわ、向こう行って」
「あのなあ、僕は結香の願いを何でも叶えるって言ったのに、結香に相手されなくなったら約束を破ることになる」
「そう言えば、そんな約束したね」
「うん、今日の結香を見て、海に行く約束を果たそうと思って」
「え? 本当に行くの!?」
「行くよ、まだ色々手配してないから急がないと……」
「やったー!」
結香は僕に抱きついてくるが、そんなことより早く旅行の準備がしたい。
********
僕と結香は無事、約束通り、旅行に行くことができた。結香もやる気になったのか、ダンスが上達していると思った。
「直くん! お待たせ!」
「おっ!?」
「何よ?」
結香が恥ずかしがっている。それもそのはず。結香は今、水着を着ている。ビキニなのだが、何だ? これはなんかヒラヒラしているぞ。
「ひらひらしてるな」
「フリルのついた水着なんだけど、何か悪い?」
「フリルっていうの? それ」
「知らなかったの? 直くんのためにこういう格好してるんだけど……」
別に僕はそのひらひらの付いた水着が似合うとは言った覚えはないんだけど。
「ごめん、どこの中学ですか?」
「ほらバカにしてる! バカにしないで!」
「って言ってもなあ、そういうのを結香が着ると子供っぽくなるんだよな」
「じゃあ直くんはどういうのがいいのよ?」
「スクール水着かな」
「からかわないで!」
「別に、普通のビキニでいいよ。結香は十分かわいいから、何を着ても似合うし」
「言われても嬉しくないんだけど。じゃあこの水着も似合うんでしょ?」
「似合ってるけど、幼く見えるんだよな」
「一言余計よ!」
結香は拳を上げて、殴るポーズを取る。ちょっと言い過ぎたようだ。
「悪かったよ結香。これから一緒に遊ぼう! 何でも夢を叶えるって約束だったよな?」
「分かったわよ」
結香はまだ表情は険しいが、海へ出て一緒に遊ぶことにした。その海は青い空、青い海、白い砂浜、そしてさえずる白い鳥、あまり人のいない場所だった。そんな海で遊ぶ僕と結香。まるでGARDEN CALLの歌詞のようだ。僕達は、自分の作った曲の中に転移したのだろうか? そういう風景だからか、結香も遊んでいるうちに機嫌を取り戻してくれたようだ。
「直くん、どうしたの?」
「何でもないよ。ただ、GARDEN CALLの歌詞みたいだなと思って」
「……本当だ。え? GARDEN CALLの世界の中に入っちゃったの?」
「さすがにそれはないよ」
「いやいやいや、あたしはあれから転移の事を信じてるから、怖い」
「その前は否定しまくってたけどな」
「有浦さんが出てきたあたりから信じちゃって……」
「そうか、じゃあ遊ぼう! 自分の曲の中に入ることなんてめったにないから」
「いや、起こり得ない事が起こってるから」
「いや、ここ現実世界だから」
僕達は再び遊び始める。浮き輪に乗った結香を押したり、ビーチボールで遊んだり、僕が結香の手を掴んで結香が泳いだりと、思えば以前の結香はそれも出来なかった。成長したな。結香。ひとしきり遊んで僕達二人は砂浜に並んで座る。
「楽しかったな」
「うん、あたし、本当にがんばって踊れてよかったと思う。だって、こうやってこんなきれいな海に来れたんだもん」
「確かそういう約束だったな」
「うん、だからがんばったの」
「一体、どこで練習したんだよ。練習場所だけじゃないだろ」
「あの公園だよ。あそこでやれば絶対に直くんと行けるって」
「結香、頑張ったな。これからもよろしく頼む」
「え? どういう事? もう約束は果たしたよね」
「おい、今逃げようとしただろ? これからも踊るんだよ」
「え? 目標が無くなるとサボりそうだ。次はどうしよう」
「分かった。来年、また来よう。来年はいいカメラを買うから写真撮影もしよう」
スマホを買い換えるだけだけど。
「写真撮影!? 本当に!?」
「結香だけ特別だぞ、お前は口が滑りそうだけど、みんなには内緒にしてて」
「一言多いけど、分かったよ。でも」
「何?」
「今じゃダメなの?」
「それじゃあ御褒美にならないな。とびっきりいいカメラで撮影しよう」
「分かった。ただ、一枚だけ! 撮ろうよ!」
「うーん」
「お願い! 一枚だけ! 今持ってるカメラに記録で残そうよ」
「しょうがないなあ、ちょっと待ってて」
僕はスマホを取りに行った。それで結香の所へ戻ったんだが。
「直くん、ひょっとして、カメラって、これ?」
「これ」
「スマホじゃない? いいカメラもスマホ?」
「当たり」
「えー!? 何よ。期待させておいて」
「今時のスマホを舐めるなよ。すごい画質いいんだから」
「ふーん? だったら撮影してあたしに見せて!」
僕は結香を撮った。結香はそれらしいポーズを決めるが「ポーズ失敗した。もう一回撮って」と言うのでもう一回撮った。次は「ああ、きれいに撮れてないわ」と言われ、もう一回撮る。またポーズを失敗して……。思えば五、六枚撮った。
「全然一枚じゃないじゃないか」
「ごめん。でもこれだけスマホにあたしがいれば元気になるかもね」
「僕は元から元気だけど」
「そうみたい」
ふと振り向くと、結香もこちらを見ていた。少し見つめた後、結香が顔を近づけてくる……。
「結香、ちょっと近いよ」
「押し返さないでよ」
僕は両手で結香の身体を引き離そうとするが、結香は僕の背中を強引に掴んで、僕にキスした。
「直くん、あたしと海に来れて良かったね」
結香はそう僕に言ってくるが、僕は気がフワフワしてて全く聞いていなかった。




