第10話-4.思い出の場所
今日、夕方には結香と会わなければいけない
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この日は宇音と海音、真凛の送迎と、練習の見学をした。宇音を家に降ろした後、彼女に結香と変な事をしないようにとしっかりと念を押されてから、車で結香の家へと向かった。
到着して車を降りたところでなんか緊張してきた。これから、どう結香と話していけばいいのか?
「あ、直くん」
「こんにちは」
「ごめん、自転車出すから、避けて。あまり遠くには行かないから、移動しようか?」
「うん」
自転車を出してきた結香はどこかへ移動すると言う。
「結香、どこへ行くの?」
「着いてからのお楽しみ」
と、言いながらも移動する。それにしても懐かしいな、この道。住宅地だからか僕が子供の頃とほとんど変わっていない。
「懐かしいな」
「あたしもこの街に戻ってきたころは懐かしいと思った。あ、でも直くんは引っ越したのね」
「うん」
僕は五年ほど前に今の家に引っ越した。結香は高校に進学するときに引っ越したが、大学になると他の幼馴染みも全員引っ越していったので寂しかった。僕は子供の頃一番仲が良かったと思っていた結香がこうして戻ってきたことが正直嬉しかった。
「あ、ここだ」
「懐かしいな」
そこは僕らが子供の頃よく遊んでいた公園だった。
「子供の頃、よく遊んだよね」
「うん、あの結香が引っ越す前に僕が励ましの言葉をかけたらすごい泣いていたな」
「やめやめやめ……!」
確かにそういう事もあったな。あの時は「今までいろいろありがとう。何かあったらみんなの顔を思い出せ。がんばれよ」って言っただけなのに……。泣いてしまった。それを思い出して話したら結香が強い抵抗を示した。
「だって感動したんだもん嬉しかったよ。それより、話って何?」
ここで急に結香が真顔になった。僕も本題を切り出した。
「もう分かってるだろ」
「戻ってこい、でしょ? 嫌だ」
「何で?」
「何でって、嫌に決まってるじゃない! あんな怒られ方して堂々と戻れる? あたしだって一生懸命やってるよ! 初めての事だから。なのに何? あれは。もう……!」
「分かったから落ち着いてよ」
「何よ? もうあたしは戻る気はないからね!」
「確かに、やる気がないように見られてるかもしれない。でも水泳で五十メートル泳ぎきったり、海音の練習にも付き合ったりしたじゃないか。僕はやる気がないとは思っていないよ」
「でも、あの時全然踊れてなかったもん」
「別に上手いかどうかを言ってるんじゃなくて、やる気があるかどうかだよ」
「あるよ。やる気あるもん! そんなみんなでやる気が無いように言わないで!」
これだけではダメなようだ。まあ、それでもまだ説得の余地はある。
「結香は一生懸命やってると思うよ。だから、カフェファクトには結香が必要だよ。でも杏子はアイドルのリーダーじゃないから、そう言えないかもしれないけど、責任者は僕だ。その僕がこう言っているんだから、結香は必要だよ」
「一生懸命やってるよね。でも、ダンスが踊れないから自信が持てないのよ。だから踊りたくなくないの」
これでもだめか……。予想はしていたが、ダンスが踊れないからやる気をなくしているようだ。結香が積極的にやらないようにしてるわけじゃないんだ。
「ダンスが踊れないから……」
「何なのよ」
だったら、これは使えるかな。僕の用意した、とっておきの秘策を……。これは結香には使えると思うんだけどな。
「だったら踊れるようにするためにカフェファクトに残ってくれないか? もし完璧に踊れたら結香の好きな事を叶えてやるよ!」
「な、何よ……。何ですって!?」
結香、キャラが変わってるほど驚きすぎだぞ。
「なあ、だから頼むよ、結香」
「わ、分かった。だったら、直くんと二人で旅行したいな。海とかどう?」
「え? 何で海なんだ?」
「いや、あの夏だし、今日は暑いなあと思ったら、海が出てきて」
「ふーん。なんとなく行きたいのね」
「なんとなくって何よ? まあ、そうなんだけど」
「だったら行こう! その代わり、上達しなかったら海は無しだからな」
「分かったよ。もう一回がんばってみる。だから、直くんも見ててね」
「分かった。だったら明日、杏子に謝罪しないといけないな」
「うううー……。それだけは避けたいところ」
「ダメだよ。一応、途中で逃げ出したんだしさ」
「いや、でもさ、怖いと言うか何と言うかその……」
「怖いんだな。僕からも少し言っておくよ」
「いつもごめんね。ありがとう」
と言って、結香は僕に抱きついてきた。僕はなだめるように抱きしめたが、これはまずいよな。いつも思うけど。
「ありがとう」
こうして、結香はカフェファクトに戻ることを決めたようだ。
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そして、次の朝。
「結香ぁー! 何で復帰初日から遅刻して来るんだよ!」
「えー! 分かんないよ! 今日に限って起きれなかったんだもん!」
「とにかく、行くぞ!」
「あー! 待ってよ!」
まったく、何でこんな大切な日に限って奇跡的に遅刻するんだよ。僕と結香は練習場所へ走って向かった。
杏子には直前に遅れると連絡しておいたが、伝わっているかな?
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練習場所に入ったら。杏子が立ったまま待っていた。
「直之さん、遅い。って、北原さん?」
「杏子、ごめん、こいつ迎えに行ってたからさ」
僕がこいつと言って指差してるのは結香。杏子は不思議そうにこちらを見ている。結香には杏子に復帰の事を伝えておくと言っていたが、実際には何も伝えていない。杏子には伝えない方がいいと思ったからだ。あくまでもサプライズ的な……ということで。
「ごめんなさい! あたし、上手く踊れなくて……その、ごめんなさい!」
「……」
杏子は頭を下げる結香をずっと厳しい表情で見つめている。傍から見ても怖いわ。
「早速、昨日家で踊ってみて、どこが上手く言ってないか調べたから、教えてください!」
「本当に?」
「はい、確か、紙があるはず……。あれ、どこにあるかな?」
結香はその紙を探し始めた。まだ謝っている途中ではないのか?
「戻ってきてよかった。私の方こそごめんなさい。今の北原さんはやる気が感じられるから今から教えるよ。分からない所、まとめてあるんでしょ?」
「え? う、うん!」
やっと結香に笑顔が戻ったな。次は若奈か。




