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第10話-3.若奈を連れ戻すために

 若奈に今後の事を告げた次の朝、


「おはようございます」

「んにゃ?」

「本日は私が起こしに参りました」


 なんと、若奈が起こしに来てくれた!


「申し訳御座いません。いつもの習慣で……電話で起こそうとしてしまいまして。そうしたら有浦さんに電話を取り上げられてしまいまして……」

「電話でもよかったのに。何がいけなかったんだろ?」

「分かりません。ただ……直之さんは私が起こすって怒られてしまったんです」

「あ、ごめん、また宇音に言っておく」


 色々あったようだが、宇音には最近こうした事が多い。若奈は申し訳なさそうな顔をする。いつも宇音に起こしてもらっているけど、宇音も電話で起こしてくれればいいのに……、と思う。朝から急に抱きつかれたりすると感情の処理に困る。あとで宇音に「怒るのはよくない」と注意しておいた。


 若奈と宇音と三人でご飯を食べた後、車で練習場所へ向かう。車内で宇音が僕にまとわりついてくるので避けていると、


「吉田さん、いつも練習場所へ向かう時はこのような感じなのですか?」

「はい」


 はいと答えてしまった。いつもは真凛がいるので彼女も巻き込んでいるが……。


 僕と一緒に若奈は練習場所に入って行った。


「おはよう」

「おはようございます」

「おはようございます。大和さん、いらっしゃい」

「この度、二宮さんにはご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ありませんでした」


 また、若奈は深く頭を下げる。なんか、彼女は頭を下げる度にお辞儀が深くなっているような気がするが。


「頭を上げて。大和さんが悪いわけじゃないよ。今回は大変だったね」

「ありがとうございます。申し訳ありませんが、今日練習に参加したらまた旅館に戻ります」

「親とトラブルがあったって聞いたよ? 戻って大丈夫なの?」

「私も不安ですが、すぐに吉田さんが迎えに来るって……」

「そうだったね。私の出来る限りのことはしてみるから、今日は楽しんで踊ってね」

「ありがとうございます」


 杏子の最後の台詞、「がんばって」じゃないのか?


 僕は大和さんのダンスを見ることにしたが、上手だった。動きが前より大きくなって堂々としている。


「大和さんのダンス、成長したな」

「抜き打ちライブの時に動きを大きくする練習をしてって私が言ったから」


 それで、今まで練習してたのか。しかも、ここまで親に見つからずに。


「大和さんはちゃんと練習してきてくれるから、手放したくないな」


 杏子はそう言う。それは僕も手放したくない。若奈は今日練習をしたら暫く、いや、これから先、一生踊れなくなるのかもしれないから。


********


「お疲れさまでした。大和さん、しばらくお別れだね」

「申し訳ありません」

「いいよ。最初に行ったけど大和さんのせいじゃない。それに大和さん、あなたはしっかり練習してるから、必ず帰ってきてほしい」

「はい、私も善処します」


 と言って、若奈は僕の方をちらっと見た。僕がしっかり説得しなければ……。うん。


********


 僕達は家に戻ってきた。車から出てきた若奈と宇音は一緒に遊んでいる。


 そこでちらっとスマホを見たら結香からLINEに連絡が入っていた。


「結香から連絡が入ってる、若奈、ちょっと宇音の面倒見ててもらえないかな?」

「分かりました」


 と、若奈に宇音の事を任せて、僕は少し離れてその連絡に目を通した。


『直くん、明日は夕方か夜なら空いてるんだけど、会いに来てよ』


 という内容だった。何だ? もういいのか?


『もう会って大丈夫なのか?』

『うん、今までの事を説明できるまでには心の整理が出来たから』

『分かった、明日夕方、会いに行くよ』


 僕が結香との連絡が終わると、


「直之さんっ!」


 宇音がいきなり肩の上に乗ってきた。


「ちょっと、宇音! 痛いって!」

「吉田さん、申し訳ありません」


 宇音は重たいが、後ろでは若奈が申し訳なさそうに頭を下げている。


「直之さん。何してたの?」

「ちょっと結香から連絡が入って」

「北原さん、戻るの?」

「絶対連れ戻して見せるさ」

「うん」


 宇音は肩の上から飛び降り、僕の前に回ってきてこう言った。


「直之さん、私は直之さんの事が好きだから、北原さんに気が向かないよね」

「それはないよ。結香はただの幼馴染み。そんなに特別な関係とは思ってないからさ」

「よかった」


 と言って、宇音はまた僕の方に寄りかかってくる。確かに、僕は結香とはただの幼馴染と思っているから気持ちは向かない。でも、宇音の事も積極的な子とは思っているがそれ以上のことは思っていないんだよな。


 その後は、晩御飯を食べて、話をした後、寝たのだが、若奈は早々に寝てしまった。宇音も今日はそれと同時に寝てしまった。


 実は宇音は基本的に庭で生活している。御飯を食べたり、僕にくっつきたい時は家の中へ入っている。でも、最近は僕にくっつきたいことが多いようである。


********


 次の朝、目が覚めると、昨日と同じく、目の前に若奈がいた。


「吉田さん! おはようございます!」

「んん……? 朝?」

「はい、朝です。本日は、スマートフォンは使っていませんよ」

「ああ……、ん? そうなのか?」

「はい」

「そうか、慣れてきたんだな」

「はい、今日でお別れですが」

「そうだな、寂しいな」

「直之さーん! 私の事を忘れてる!」


 なんか後ろで宇音が何かを訴えている。折角、若奈が僕を上手に起こせるようになったと言うのに。


 朝食が終わって、少しした頃、ここで、若奈は旅館に戻る。ちなみに今日は薄緑色のワンピースと白い帽子をかぶっている。


「吉田さん、突然押しかけて申し訳ありません、それにも関わらず、美味しいお食事まで提供して頂いて、本当に感謝しきれません。ありがとうございます」


 若奈はまたきれいに頭を下げる。


「いや、いい。僕の方こそこんなことしか出来なくてごめん。それよりさ、絶対迎えに行くから」

「はい、お願いします」


 若奈は僕の前を後にした。家に来た時は顔色が悪かったけど、今は生き生きしている。ひとまずこちらは落ち着いたようだ。


次回更新は8月1日(日)の予定です。

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