第6話-3.裁縫ロボット 浅田結菜
最近いつも帰る時、外で杏子と会って進捗を伝えている。雨なので傘をさしていると、同じく傘をさしている杏子がやってきた。
「直之さん、お待たせ」
「杏子、どうだった?」
「会場はまだ見つからない、直之さんは?」
「衣装が作れそうだ。布があれば」
「じゃあ、明日買いましょう」
「明日?すごく急じゃない?」
「こう言うことは早くやらなくちゃ」
「わかった」
杏子は、思い立ったことは早くやりたいところがある。これには乗っておかないと、彼女は不機嫌になってしまう。
「あとさ」
「はい」
「曲ができたから、CDに移し替えて明日渡すよ」
「思ったより早いね」
「そうなの? とにかく出来たよ」
「はい。私も一つ、いい報告があります」
「何?」
「練習場所が確保できそうです」
「練習場所?」
「はい。エブリディフィットネスだけどね」
まさか、練習場所が決まるとは……。だがこれで、曲と衣装、練習場所が一気に決まりそうだ。
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次の日、僕は衣装に使えそうな布を探しに行くことになった。今は杏子と待ち合わせするために汗ばんだ体を手で仰ぎながら駅前のポスト前に立っていた。
ここまでは自転車で来た。最近あまり自転車に乗っていなかったので、すでに疲れている。
しかも、今日は暑い。昨日まで雨が降っていたのに……。
「おはようございます!」
杏子がやってきた。今日の杏子は、白いTシャツに黄色いカッターシャツにジーンズを履いていた。頭には麦わら帽子が乗っかっている。麦わら……帽子だと……? 以外だな。
「おはよう」
「直之さん? 調子悪いんですか」
「いや、大丈夫だよ。早く行こう」
杏子に顔を覗かれて焦ってしまった。だが、僕が既に疲れているのが体全体に表れていたようだから今後は注意しないといけない。
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しばらく杏子と移動していると手芸店が見えてきた。布を買う前に僕が昨日他のアイドル達に聞いた意見を話した。
「あの後みんなに聞いたんだけど、その結果、青か緑かな? そういう色の布があればいいんだけど。全員には聞いてないけど」
「とりあえず、青か緑ね。分かりました」
意見を聞いていない四人のアイドルには後で謝罪しておく。
ここで、早速、青と緑の布を探す。
「うーん、二人で一緒に探しても見つからないね。そうだ、私、緑色の布を探してくるから直之さんは青の布を探してきて。探し終わったらここに集合!」
「分かった」
と、ちょうど時計台のようなものがあったので終わったらここに来ることになった。そして、僕と杏子は手分けして布を探す。
青い布は探せたが、白い飾りでもつけようかな? と、言うことで、時計のある場所へ戻った。
「杏子、お待たせ」
「直之さん、いいの、見つかりました?」
「白い飾りも付けていい」
「うん。これか、私は二つあるんだけど」
杏子の選んだ布は、一つは緑色だがもう一つは薄い緑色だった。僕も布は青というより水色に近いものを選んだ。この場合は薄い緑色の方が合うか?
「じゃあ、薄い方で」
「分かりました」
杏子は緑色の布を返して、その後会計を済ませた。布はレジで紙袋にきちんと入れてくれた。
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衣装を作るための布は買った。でもまだ時間があるな。
「直之さん、ちょっと早いけどお昼にしようか」
杏子の方から昼食の誘いが来た。僕もデモCDを渡すと言うミッションが残っていたので昼食の時に渡せそうだ。
昼食で杏子が選んだレストランはお洒落な所だった。まあ、センマイコーヒーなんだけど。でも今日はいつもの場所ではなく、駅前の地下街にあるセンマイコーヒーだ。なんか、カフェというよりは高級レストランみたいだ。早速店内へ入ってメニューを決めて、本題に入る。
「杏子、まずこれなんだけど」
と言って、僕は杏子にCDを渡した。
「これは、直之さんが作曲したCD?」
「うん、聴いてみて」
「はい。月曜日までに聴いとくね」
「分かった。あともう一つ」
「何でしょうか?」
「練習場所探してたの?」
「いや、あれは……」
杏子が黙り込んでしまった。質問がまずかったかな? 僕はそこが気になっているんだけど。
「あれはね、会場を探してたんだけど、気が付いたら練習場所が見つかっていて」
「なんだそりゃ?」
「そうよね? でも練習場所も必要かなと思ったから練習場所として使うことにした。直之さんはどう思う?」
「どうって……。場所は?」
「エブリディフィットネス」
「あそこか? 入ったことはないんだけどね。そういう理由ならいいと思うよ」
確かに練習場所は必要だ。杏子が賢明な判断をしてくれて嬉しいよ。
「でも、肝心な会場はまだ決まっていないけどね」
「前の派遣会社の所じゃダメなの」
「うーん。何だか悔しいし……」
「僕は使わせてもらっていいと思うけど。啓子に聞いてからになるけど」
「プロデューサーさんがそこまで言うのなら、いいよ。でも、他の会場もあった方がいいかなと」
「あった方がいいと思うけど、急がなくていいよ」
「またまた。思いついた時にやらないと上手くいかないよ」
どっちが『またまた』なのか? 杏子は思い立ったら行動に移す人だからな。今日もそれで振り回されたし。今後は杏子に振り回されるんだろうな? まあ、何も刺激が無い先月までの生活に比べたら楽しいけど。
「じゃあ、これからエブリディフィットネスを見に行くついでに走りまくろうか?」
「遠慮しときます!」
危うく、杏子に殺されそうになった。殺されそうとか大袈裟だと思うが、もう疲れた……。
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週が変わって、僕は早速この前買った布と衣装のデザインを書いた紙を持って、まずは海音の所へ向かった。
「海音、おはよう」
「おはようございます。さあ、行きましょう、話は、してあります」
海音の案内に従って海音の友達がいる所まで移動した。三階、衣服管理室。あれ? うちの工場にこんな所があったっけ?。
「さあ、入りましょう」
僕はこの場所が分からずにいたが、海音は早速ノックをして入って行く。
「はいー」
中から声が聞こえてきた。女性の声だった。僕達は衣服管理室の中に入った。そこにいたのは黄緑色の着物の女性。よく見ると手が裁縫道具になっていた。いや、もう僕は何を見ても驚かない。彼女もロボットだな?多分。
「海音ちゃ~ん。話は聞いてるよ~。私はここで裁縫をしている浅田結菜です~。よろしくね~」
この人? が、海音の言っていた浅田結菜さん。口調がほんわかしていて穏やかそうな人、じゃなくてロボットだ。
「今日は何を縫えばいいのかな?」
「吉田さん、お願いします」
あ、僕が説明すればいいんだな。
「実は浅田さんに縫ってもらいたい服がありまして、これを九着」
と言って、僕は浅田さんに図面を見せた。
「わかった~。九着ね。サイズは?」
「Sが三着、Mが三着、Lが二着、四Lが一着」
「よ、四L!? 初めて聞くサイズだけど!」
浅田さんは驚きの表情を僕に向けた。この驚きの表情は人間顔負けで、正直こっちも驚いた。
「まあ、私はどのサイズでも大丈夫だよ~」
浅田さんはすぐに笑顔に戻った。拒否されなくて良かった。
「じゃあね、三日くらいで出来るから、出来たら海音ちゃんに伝えるね~」
「分かりました」
浅田さんのその言葉を聞いて、僕達は衣服管理室を後にした。
「よかったね」
と言う海音の横顔を見ながら、僕は次の曲の着想を得ていた。




